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Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.13 )
日時: 2015/09/21 09:44
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 7ufWM2y7)

 第310次元 ぶち抜け

 「くそ……っ! サボコロ!!」

 エンは素早く走り出して、サボコロが落ちたとされる方角へ。ドーム状に丸く凹んだ地面の淵に辿り着くと、最深部にサボコロが横たわっていた。
 間もなく、全身に力を入れたサボコロがゆっくりと起き上がる。口に含んだ土をぺっと吐き出して、腕で顔を拭った。

 「サボコロ! 平気か!?」
 「……っ、くっそー……! 油断しちまったぜ……いでで」

 (あの巨体で、今の素早い攻撃……獣のような手から、平べったい形状に変わり更にその手足も長い……。今まで回避出来ていた距離にはもうあの掌が待ち構えているという事か。サボコロのような近距離型では難しいか……?)

 冷静に分析を開始するも、時間はない。遠くまで叩き飛ばされたとはいえ、もうすぐ傍に元魔の輪郭が見える。
 白い巨体は長い腕を大きく揺らして近づいてくる。何か良い手はないか、と。エンがその巨体を注意深く凝視した時。

 広い胸の真ん中に、小さな石を見つけた。目と同じ、真っ赤な石を。

 「……! あれは何だ……!?」
 「んぁ? 何か見っけたのか? エン」
 「ああ。胸部の中心に赤い石が見えるだろう? あれは一体……」
 「待てよ! あれ確か……さっき腕を思い切り振った時————赤く光ってたぞ!!」
 「!? という事は、元魔の……“動力源”——!」
 「ああ、間違いねえ————ありゃ“核”だぜ!!」

 胸部に埋め込まれた赤い石。その小ささから見て間違いない。二人は顔を見合わせ、頷き合う。

 「あの石を壊せば元魔も倒せるってこったな!」
 「然し気になるのは、先程貴様の炎を、あの白い体が難なく相殺した事……恐らく弾力性に富んでいて、形のない攻撃と中途半端な物理攻撃は全て促されてしまうのだろう」
 「はあ!? じゃあどうすれば——!」
 「!! ————来るぞ!!」

 地面を叩く平たい手。分厚い紙を束ねたかのような掌が、同時に大地を揺るがした。離れるエン、跳んで着地するサボコロ。エンは静かに元魔を睨みつけると、口を開いた。

 「……——おいサボテン! 耳を貸せ!!」
 「はあ!? サボテン言うな遠いだろ無理だわ!!」
 「誰が物理的に距離を縮めろと言った!! ——作戦を思いついた、よく聞け!!」
 「! お、おう!」
 「貴様————以前セルナから体術を教わっていたな!!」
 「!!」

 遠くへ飛ばす声がサボコロの耳に入る。背後から近寄ってくる元魔の動きを察知した彼は、彼を目がけて飛んでくる太い腕を躱す。
 大地は割れる。瓦礫が跳ぶ。襲い掛かる鉄槌の攻撃を、身軽な彼は器用に避けていく。

 「お、教わってた、けど……! それと何の関係があんだよ!」
 「さっきも言ったがそやつに生半可な魔法攻撃は効かん!! ただ炎で攻撃するだけでは相殺されてしまう……! だからこそ、“体術”と“炎”で————そやつの“喉”を潰せ!!」
 「——!」
 「厄介な声さえ出させなくすればそれで良い————出来るな、サボコロ!!」

 人族代表決定戦が終わってから、間もなく有次元の世界へ遠征し。帰ってきたサボコロ達は己の次元の力と何日も修行をしていた。
 その合間に、サボコロが何度かセルナの許を訪れていた事は、本人とギガル以外知らない事実。
 決定戦で一度セルナに修行に付き合ってもらっていた彼は、体術にこそ、魔法が最大限に生かせる道を見出した。セルナ本人も、まさかもう一度サボコロに修行をつける事になるとは夢にも思わなかっただろう。
 自分を頼ってくれている。お前は凄い奴だ、と言われて以来、二人の間には確実に深い絆が生まれていた。その絆によって生み出されたサボコロ独自の体術を今、エンは必要としている。

 「エンてめえ! 俺を誰だと思ってんだよ!!」
 「!」
 「いつまでも元力制御のできねーガキだと思ってんなよ————良いぜやってやらあ!!」

 悔しい事に、サボコロは普通の次元師より多量の元力を持っている。それはつまり、知力に乏しい彼の身体能力が遥か他者と比べ物にならないほど優れているという事。
 他にもスタミナ、視力、聴力、嗅覚など、殺し屋として培ってきた能力値の高さにも驚かされてきた。
 元魔を仕留めるだけの狩人であったエンにそれはない。前線に立って戦う為の武器を持っていない。

 でも、弓には弓なりの————エン・ターケルドの、戦い方がある。

 「うおおおお——!!」

 右手、左手、炎を宿した彼の腕は真っ赤に熱く燃え滾る。彼の性格を全く捉えた力を、彼が全力で発揮出来るように。
 エンの心臓は落ち着きを取り戻す。こうでなくてはいけない。
 遠くから、全てを見据えるエンが瞳を開く。

 「へへ……! “この技”はとっておきたかったけど……しゃあねえ!!」

 腕にだけあった炎が、全身を周り始める。伝わる熱。熱く跳ね上がる心臓。加速して、足元を超えて炎は——大地を這う。


 「第八次元発動——————“炎装”!!!!」


 十大魔次元技“魔装”————炎を身に纏った彼は、跳び上がった。


 「声さえ封じりゃ良いんだろ? ————任せろ!!」

 元魔の、白く太い腕が——雨のようにサボコロへ降り注ぐ。

 「——!! サボコロ!!」

 然し、サボコロはまたも器用に————身を何度も翻し翻し、舞う。

 「——……! あやつ……っ」

 大地は繰り返し揺れ動く。叩きつけられる掌。その、どれにも捕えられないサボコロを見て声を失った。
 サボコロにしては綺麗な受け身で、柔軟な躱しで、しなやかに。雑だった動きの一つ一つに、丁寧さが加わっているのが良く分かる。
 これもセルナのおかげなのか。体術を良く心得た者が教える、最大の武器だとしたら。
 負けていられない。エンは漸く弓を構えだす。

 「どうだァ! 覚悟しろよ————こんの白元魔!!」

 足の裏側で蹴り上げた、平らな大地の——遥か上空。
 サボコロは既に、元魔の目の前にいた。


 「くっらえェ————ッ!!」


 腕を引く、腰を落とす、前を向いて世界が——反転する。
 炎に包まれた、右脚の膝が————元魔の顎を砕き上に、弾き飛ばした。


「“第二覚醒”——————」


 この時を待っていた、狩人の目が光る。


 「——————“光郷節”!!!!」


 聖なる弓矢は、形を変えて尚月下に————輝く。


 「第八次元発動——————“真軌閃”!!!!」


 槍のような鋭さ、金色の矢は————放たれる。
 空から大地へ、ではない。広大な大地から——無限の空へ。

 地平線を裂くそれは正に——————“流星”。

 「「————!」」


 一閃の剣と化した、矢は赤い心臓を、穿つ。


 「や、った……——のか!!?」
 「——……」

 派手に砕かれた石の核が、ボロボロ大地へ零れて元魔は急速に膨れ上がった。
 そして柔らかい“皮”を突き破って“爆発”し————伴って突風を巻き起こす。

 「うぐ——っ!?」

 (これは、“内部爆発”——か……!)

 涸れた砂を巻き上げた風に、二人は腕で顔を覆った。次に目を開いた時には、元魔は跡形もなくなっていた。

 「さ、最後に爆発するたーな……諦めの悪い奴だぜ!」
 「……——!」

 空中から漸く帰還したサボコロは、着地と同時に別の音を耳にした。
 ドサッ、と何かが地面に倒れ込む。気が付いた彼は、その先にエンを見つけた。

 「!? お、おいエン大丈夫か!?」
 「あ、ああ……少し、筋肉に疲れが生じたようだ……」
 「筋肉……? もしかして最後の一発か!?」
 「……何度も、撃てる技では、ない……らしい……っ」
 「ど、どうすんだよ!? あ! キールアんとこでも行って……!」
 「ダメだ。キールアに、余計な心配をかけさせたくない……それより」
 「?」
 「本部に……レトに、連絡を入れるぞ————元魔の核は赤い石だと、な」
 「そ、そうだな! ——ホント、何の為に俺らがいるんだって、な!」

 特攻部班の二人は一つの目的を果たし、頷き合った。
 先頭に立って、誰よりも早く元魔と対峙したのは。手首に巻いた通信機を介してその報告を本部——レトヴェールの耳へ入れる為。
 白い元魔は次々と遠くからやってくる。その巨体と、夜空の為に核を発見出来ていない者も少なくない筈。

 己の身を犠牲してでも勝ち得た“情報”が————戦場に於いて最も価値あるものである事。
 してその価値を損なわぬよう英雄の二人は、回線を繋げた。