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Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.14 )
日時: 2015/10/21 18:23
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: TRpDG/gC)
参照: 日曜日には間に合わず

 第311次元 協力

 『蛇梅隊総員に連絡! 只今特攻部班により、謎の白い元魔の胸部に赤い石を模した“核”があると判明! 総員は直ちに核の破壊を——』

 薄紅色の、ミディアムヘアが揺れる。蛇梅隊前線A部班に配属されたミル・アシュランは手首より届く想い人、レトヴェールの声に動きを止めた。
 目の前には、白い巨体。旧型とは酷くかけ離れた、面影のない外見ではあっても、元魔に間違いはない。
 暗く沈んだ夜空のせいか胸部にまで視力が働かない。足元にいるせいだろうか。真っ直ぐ垂直に仰ぎ見ても見つからない。彼女は声を張り上げる。

 「セルナ!! あんたのその次元技で——元魔の胸部にまで跳んで!!」
 「——は、はい!」
 「足止めは任せろ——ミル・アシュラン」
 「はい!! ——私も、当然手伝います!!」

 黒髪を揺らし、チェシアは慣れた手つきで鞘に手を携える。同じ部班のミル、セルナも攻撃態勢へ。
 セルナは弾丸の如く——跳ね上がって空へ入った。上から襲い来る、元魔の腕で翳る。

 「バカね、させないわよ! ————“籠刑”!!」

 現れた“檻”が————元魔の白い腕を捕えた。
 セルナは檻を踏み台して、更に上へ。元魔が僅かに捕まった腕を、持ち上げた時。

 「動くな——————“真斬”!!」

 たった、一太刀。
 夜空から大地へ真っ直ぐ伸びた閃光が————建物ほどある元魔の太い腕を斬り落とした。
 同時にセルナが胸部へ辿り着く。然し。
 驚愕の表情で————ミルの手元に届く、接続音。

 『み、ミルさん————あ、ありません……!』
 「!? な、何!? 一体何がないって——!」
 『————胸部に“核”が、ありません!!』

 元魔の左腕は、セルナの身体を弾き飛ばした。
 瞬間、彼女は————“それ”を見た。

 「きゃああ——ッ!!?」
 「セルナ————!!」

 地面に強く打たれ、転がる。——然し、セルナは。

 その目にした————走り寄ってきたミルに、伝える。
 ミルはセルナを優しく抱きしめて、己の手首に——叫び散らす。


 「こちら前線A部班!! 胸部ではなく————“左腕”に“核”を発見!!」


 僅かに震える、小さな片耳のヘッドホンを模した通信機。レトはその場で固まった。
 エンとサボコロの話では、胸部に核があるとの事だった。然し今のミルの声はしっかりと、“左腕に核がある”と言う。
 もしかして。レトが思いついた時には、次々と連絡が入ってきていた。

 『こちら前線C部班! ——“背中”に核を発見!!』
 「——!」
 『こちら後援B部班!! 胸部に核が見当たりません!!』

 核の居場所が、それぞれ違っている。
 レトは気を取り戻して、通信機に外側にある、“全機器への伝令ボタン”を押したまま離さず。

 「訂正!! 元魔の核が埋め込まれている箇所は各個体により異なる事が判明! 一部部班の報告により何れも身体の外部に見受けられるとの事! 核の発見を第一とし、速やかに討伐せよ! ——また、核の破壊時、同時に“内部爆発”を起こす事が特攻部班の報告により判明した為、核を破壊した際は出来るだけ個体から離れ被害を最小限に抑えるか、若しくは遠隔攻撃型の次元師が核の破壊を行う事!! 繰り返す! 元魔の核が————」

 繰り返し伝える。一度も痞える事なくレトは伝達を終えた。長押ししていた細く小さな突起から指を離して、息を吐く。

 (……元魔の皮膚は白く、旧型より一回りも二回りも大きい、か。丸く太かった腕も厚みを増して平たくなっているらしいな。くそ……ゴッドの奴、今日この日の為に改良を重ねてきたっていう訳か……!)

 特攻部班から核の報告を受けた時、通信機の向こう側の掠れた声は間違いなくエンだった。その声色は初め、元魔の発見を知らせた時とは明らかに違っていた。元魔を倒す過程で、何かがあったに違いない。
 酷い傷を負わされたか、終始動き続けなければならない、過酷な攻撃の応酬であったのか。また、相当のリスクを背負い次元級の高い技を繰り出さねば、倒せない相手だったのか、と。
 呼吸は乱れ、掠れ、焦りを含んだ口調だった。冷静で気高いエンをここまで追い詰めるとは思っていなかった。

 腕時計の針はまだ、午後7時を少し過ぎた頃。
 ゆっくりな秒針が、やけに腹立たしく思えた。



 「避けろ——マリエッタ!」
 「! あらあら——躾のなっていない、子猫ちゃんだこと」

 翻るレースに、垣間見えるのは少女の身の丈を超えた刃。白くて大きな腕が彼女を襲う。平べったい掌で大地を叩くのと同時に跳んだ、ギラつく刃先は既に、元魔の目前。
 次元の力を具現化した——少女、マリエッタは大きく太刀を描く。

 「やったか……っ!?」
 「——まだ」

 マリエッタの一撃で、真っ直ぐ裂けた大きな体はそのまま傾いていく。長い青色を一つに束ねたラミアの声に、小さくも反応を示したのは蛇梅隊戦闘部班の四番隊副班長テルガ・コーティス。無機質な瞳と銀色の髪、何より無口な点が彼の特徴である。
 無気力にも見える彼は長い“棍棒”を一度、くるりと回して地面を蹴る。

 「頼む——マリエッタ!」

 慣れたようにマリエッタへ指示を飛ばすのは、次元の力の主ヴェイン・ハーミット。五番隊の副班長である彼自身は戦わない。小型で近距離型の標的には持ち前の体の柔軟さ、器用さを駆使して戦闘に臨む事もあるが、今回は全くその場合に該当しない。
 雲を突き抜ける巨体。大地を蠢くその白さには気味悪さを感じる。日頃自由奔放で緩い性格の彼が、眉間に皺を寄せたまま、祈るようにマリエッタを見つめているのは、他でもないこの緊迫した状況下に身を置かれているせいだろう。
 ヴェインから指示を受け取ったマリエッタは未だ上空。いつの間に跳んでいたのか、マリエッタの目にはテルガの姿が映った。大きな刃を横に、足場となるよう傾ける。テルガはその足で、刃から更に上空へ、弾け跳ぶ。
 元魔の腕、脚、その巨体の上を瞬間、駆け抜ける。一周ぐるりと回った時点で、息に限界が訪れたのか、マリエッタより少し後に大地へと戻ってくる。

 「——ラミア!」
 「ああ————分かってる!」

 テルガの到着を待っていたラミアの腕に取り巻く——水の渦。

 「第七次元発動————水柱!!」

 大地を割って現れる、水の柱は白い元魔の身体を呑み込んだ。捕えたまま、地面に手をつくラミアの許へテルガ、マリエッタ、そして荒く髪を掻き毟りながらヴェインが歩み寄る。

 「テルガ副班、確認しましたか?」
 「……問題ない」
 「レトヴェールの指示通り、遠隔型の次元師に元魔の核の破壊をやってもらいたいとこだけど……」
 「生憎、俺の水皇じゃ、決定打に欠ける。テルガ副班も近距離武器型、マリエッタも同じっすよね」
 「……あらあら。それでは、“後援B部班”のどなたかに頼むというのはいかがでしょう?」
 「後援部班に……?」
 「確か————」

 ラミアが振り返ったところで、彼はすぐに後悔した。緩んだ力を逃さない元魔は、水の柱を解こうと、全身に力を入れ始め、そして。

 「! しま——っ!!」

 水の衣を弾き飛ばそうと、その瞬間。
 衣は————長い“鎖”によって、再び元魔を締付け上げる。

 「——!」
 「危ないなあ……しっかりしてくれよ、ラミア!」
 「コールド副班——!」
 「遠くから見てもかなりの大きさだったものね……近くで見ると、凄いド迫力」
 「おっ、フィラ副班も来たんすね」
 「当然よヴェイン副班。あと……ティリも」
 「……」

 コールド副班に続いて現れた、フィラ副班はその肩に蛇梅を乗せて。蛇梅隊最年少次元師のティリナサは何一言発する事なく。前線部班と後援部班を合わせた6人は、一堂に会する。

 「皆聞いたと思うが、遠隔攻撃型で且つ元魔の硬い核を貫ける次元師が今は必要だ」
 「鎖が解かれるのも時間の問題ね……すぐに作戦を練らないと」
 「遠隔攻撃が出来て力の強い次元師ってーと……俺的には——」
 「そうだな、俺も——ティリとラミアに任せたい」
 「「!?」」
 「俺達は全員援助に回る————頼めるか、ティリ、ラミア」

 こういう場合、若者に任せるのも気が引けるが、と。笑ったコールド副班の目はそれでも本気だった。
 同じ戦闘部班四番隊の隊員として、仲は悪くも今まで共に戦ってきたティリとラミア。
 お互い睨み合うように、ティリは見上げ、ラミアは見下ろし。
 二人は同時に、息を吐いて。


 「「————了解」」


 冷静さを失わない、幼いながらに絶対的な逞しさを備えた瞳が並ぶ。
 英雄達だけではない————同じ隊服をその身に纏う次元師達が、此処にいる。