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Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.15 )
日時: 2016/01/16 19:27
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 9nM5qdCg)

 第312次元 協力体制

 「「はあ——っ!!」」

 胸の内に秘められた次元の力を呼び覚ますそれは元力と呼ばれる。少年少女の体中を駆け回る元力は最大限に活性化され、形を成す。

 「第七次元発動——霊縛!!」

 数多の死霊が集い始める。その中には千年も前、此処、同じ場所で命を落とした次元師もいただろうか。
 元魔の広い肩は雲に隠れている。辛うじて仰ぎ見得る胴体目掛けて、霊の大群が一斉に放たれた。

 「くっ……抑え、きれな——」
 「——第六次元、発動!!」

 少年の声に応えたのは、大地を割って地上に躍り出る——大きな水の塊だった。

 「水撃ィ——ッ!!」

 激しい水飛沫と共に、霊に取り巻かれていた元魔の足元が踊る。僅かに引いたも、その重たい一歩一歩が引き起こす地響きが小さな体によく響く。

 「おい、まさかへばってんじゃねえだろうな能面チビ」
 「……直に慣れる」
 「助けてやったのに礼も無しかよ。とことん可愛くねえな」
 「それはお互い様」
 「は? ったく食えねえ奴だな」
 「……来る」

 ずれた黒い帽子をぐっと直すティリ。肩に凭れかかった長い青髪を払うラミア。
 ゆっくりゆっくり輪郭を大きくしていく元魔は、特にダメージというほど傷ついていない様子だった。

 「——腕ならしは十分か?」
 「貴方こそ」
 「年上の心配なんかするんじゃねえよ、ガキのくせに」
 「それも、お互い様」
 「……それもそうだな」

 ラミアは振り返って、背後に位置する蛇梅隊の副班長等に目配せをする。お互いに頷き合う。
 さあ、ここからが本番だと——ティリとラミアの、瞳の色が変わった。

 「作戦はちゃんと頭に入ってるだろうな。忘れたじゃ話にならねえぞ」
 「心配はいらない」
 「それじゃ行くぞ——ティリ」
 「……」
 「……ああ分かった分かった。本当に面倒臭いな、お前。安心しろ、もう気安く呼ばねえよ」

 ティリが頷く間もなく、ラミアは先に駆けだした。
 先刻テルガ副班長が確認したのは、元魔の核の位置。巨大なその体の周りを一周した事で、元魔の首、つまり“項”に赤い核が埋め込まれているのを発見した。
 核の位置が個体によって異なると判明した今となっては、第一に核の発見をしてから早急に破壊した後、激しい内部爆発から上手く逃れなければならないという迅速な討伐の流れが要求されている。
 元魔一体の討伐にかけられる時間というのは、実はかなり少ない。神族側が一体いくらこの元魔を用意したのかは次元師側に正確には分かり兼ねない事だが、蛇梅隊上層部の仮定によると、およそ100に近い。恐らく次元師の数と合わせてきているだろうと読んでいる。
 科学部班班長であり、今大戦の人族代表レトヴェールの実父も兼ねるフィードラス・エポールは、第一に次元師の死亡を避けよとの命を下した。元魔の数を想定した上で、次元師を減らす事への危機を感じたと、他の次元師は見ている。
 蛇梅隊は元魔一体につき2人〜6人の次元師を充ててきている。通常は3人。然し新しい元魔への対処法が上手く掴めていない今、序盤少ない数で元魔を討つのは難しいと、そう判断した前線B部班は。

 後援B部班の3人を巻き込んで、一気にカタをつける方向で打ち出した作戦を決行した。

 「そんじゃまあ行きますかあ————お前達、準備は良いか?」

 前線部班、後援部班含め、戦闘部班隊員の、若者はたった2人。
 最前線に並ぶ2人を除く他4名。たった1人の合図が頷かせた、その首の主は。

 「ええ、いつでも構いませんよ」
 「……問題ない」
 「指示通りやりますよーっと——コールド・ペイン副班長」

 蛇と、棍棒と、人が応えた。
 日頃力を振るわない、鎖を筆頭に————戦闘部班副班長等の、顔色が変わる。

 「一丁派手に暴れてやろうや————俺達“大人”は、いつの時代も道標だからな!!」

 ヴェインとコールドは同時に駆けて出た。並んで走るマリエッタが大型の刃物を、コールドは鎖を片手に、ぐんぐん元魔との距離を縮めていく。

 「「第八次元発動————ッ!!」」

 呼吸と、足が——完全に一致する。

 「渦々暴縛——!!」
 「強加累重——!!」

 白く平たい、一般の建物を遥かに凌駕する巨大な剛腕を眼前に捉え。銀の鎖は右手首からぐるぐる駆け上り、肩へ到着すると同時。そして常人の脚力を超越する人型の次元の力、マリエッタが小柄な体躯に似つかわしい大剣を力強く振り下ろして。

 次元師達の、人間の、何百倍もある元魔の体長の一部である両腕は。
 瞬間、鈍く激しい音を連れて——大地に大きな揺れを齎した。

 「第八次元発動————八形ノ獲!!!!」

 フィラの肩は軽い。大地を割って世界に哮が戦慄き轟く。
 ——かの大蛇の名は、朱梅。其れは白を朱に染め上げるが如く名。

 「第八次元、発動」

 元魔の白い巨体は、初めに邪魔な大腕を斬り落とされ、今や大蛇に取り巻かれ、締め上げられ。
 刹那、とうの昔に。空いた元魔の胸元に辿り着いていた——テルガの棍棒は、長く、永く。
 辺り一面の大気を呑み込んで、ギュルンと掻き回す。

 「————如意伸撃」

 元魔の広い肩に、会心の一撃。肩幅より長く伸びた細い棍棒が、元魔の巨体を後方へ傾かせた。
 同時。
 若干11歳にして蛇梅隊隊員最年少。漆黒の帽子に隠された灰色の長髪がぶわりと舞うと。
 細い腕が、その掌に収まる事を知らない元魔の大柄へ、真っ直ぐ伸びる。

 「第九次元発動————霊金呪縛!!」

 空を割って大地へ倒れんとしていた、白い元魔は身体に朱き大蛇を巻きつけられ深く傾いたまま————“静止”した。
 元魔の身体を覆うように霊の影が黒く蠢く。伸ばしたままのティリの腕に痺れが齎される。
 動くな。もう少し————涼しげだったティリの表情に、歪みが生じると。


 「第九次元発動——————水竜!!!!」


 砕かれた大地からそれは猛々しい産声を上げた————竜を象った大水は疾風の如く速さで空を駆け昇る。
 角度に狂いはない。元魔の項へ真っ直ぐ届くと——離れた二人は同時に息を吸って。

 「「いっけえェ————ッ!!」」

 重なる幼い声が水を押し上げるように、赤い核に竜が喰らいつく。
 ——然し、竜の輪郭はぐらついた。ティリの腕の痛みと反比例する、呪縛が色を失っていく。

 「くッ、そ……あと、もう少しなのに——ッ!!」
 「……お願、い……ッ————もって!!」


 少女の願いは遥か天空で輝いた。
 ————再び大地から生まれた“氷の柱”が、竜を呑み込む。

 「「————ッ!!?」」

 水の竜が凍り上げられると、硬く伸びた氷が元魔の喉を大きく貫いた。核は瞬く間に粉砕し——爆発が起こる。
 激しい煙幕に視界を覆われ、暫くしてラミアが目を開けると、空から現れたのは。

 「よっ! “水”と“氷”のコンビネーション————なかなか悪くねえな!」

 冷たげでツンとした水色の髪。耳にピアスの、同じ年頃の顔つきをした少年が笑う。

 「お、お前は……っ」
 「お前ら、代表者決定トーナメントにいただろ! まさか俺の事知らないなんて言わせねえぞ?」
 「……シャラル・レッセル。“氷皇”を使う次元師」
 「おーそれそれ」
 「あれか。シード権で優勝候補だったにも関わらずうちのエポールチームに負けたデルトールチームの一員。あとキールアにラブコール送ってた」
 「おいお前喧嘩売ってんだろ」
 「何だって前線にいるんだ。一人じゃ最悪、死ぬぞ」
 「……まあ固い事言うなや。“デキる次元師”は、蛇梅隊隊員様だけじゃねえだろ?」

 シャラルは、他にもシェルやエール兄妹など嘗てのデルトールチームメンバーが前線に上がっていると言う。蛇梅隊が先陣を切って戦ってくれる事を見越して、シェル自らが提案したものでもある。
 戦える次元師は蛇梅隊の隊員だけではない。デルトールチームは勿論の事、決定トーナメントの参加者、レトヴェールやロクアンズが旅先・任務先で出会った次元師達も含めて皆、この広く荒れた大地に立っている。それだけが。
 ラミアとティリの、蛇梅隊の中でしか築いてこなかった仲間意識を、世界へ広げてくれているように感じさせた。