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- Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.16 )
- 日時: 2016/05/15 00:23
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: bqwa/wjs)
第313次元 声と音
「さて……っと。仕切ってくれてる“奴ら”は、一体何処だ?」
視界をざっと見渡してみても、目に入る次元師は4、5人程度の数。どれも前線に上がっていこうという気配は見えない。大方、今まで国中に点在する次元師組織に元魔の討伐等を任せっきりでいた、名ばかりの次元師達だろう。
身を震わせ、小さく固まっているところを見る青年が一人。遥か後方では、目を凝らせば後援部隊であろう男たちの塊を確認できる。彼は纏ったコートを翻して、駆けだした。
「——……! 代理、確認はできました!?」
「ええ。問題ありませんわ。奴の“左胸”……確かに、赤い核の存在を確認致しました」
「左胸、ねぇ……ったくどんだけ手間かけさせんのよこのデカブツ! あーもう嫌になっちゃう!」
「文句を吐いている暇がございまして? ……リルダさん」
「あ、えっはい!」
「貴方の次元の力……“爆落”で、奴の足元に引き続き罠をお仕掛けなさい。できるだけ大きく態勢を崩すのです。リルダさんの爆弾だけでは埒があきませんわ。ミラルさんは、それに助力願います」
「はいはぁい」
「……今まで黙っていましたが、貴方のその態度は今一度見直すべきでなくって? なかなか本部に顔は出せませんでしたが、私は総班代理の身。受け答えには以後、お気を付けを」
「……分かってますよぅ、クルディア代理ぃ」
「嫌味な言い方ですわね」
左胸に核を埋め込ませた巨大元魔と対峙するは、蛇梅隊特別編成部隊の後援C部班。蛇梅隊で総班代理を務めるクルディア・イルバーナを班のリーダーに、戦闘部班六番隊の副班長ミラル・フェッツェルと五番隊班員のリルダ・エイテルで編成されているこの後援C部班は、戦場全体を上空から見た時に、神族や元魔の陣営より遠くに位置している。つまり人間側の領域で、力のない次元師達を守る役目を担っている。
「一体の元魔にそう時間はかけられませんわ————“仙扇”!!」
クルディアの手元で広げられた“扇”は、彼女が一度手首を振るえば、さらに翼を広げ“円”になり、彼女を大空へ連れていく。
悠々と空を駆ける彼女を見上げて、ミラルとリルダはお互いに顔を頷き合わせる。
「い、いきます! 第六次元発動——爆連!!」
次元の狭間から次々と姿を現す爆弾は、ポンポンポンと彼の頭上に躍り出ると、元魔の白い足元にゴトゴト落とされる。できるだけ多く、早く。幼いながらにリルダは、実に無数の爆弾で、元魔の足元を覆い尽した。
「転ばせればイイのよねぇ? ——喰らいなさい!」
息を吸う。ミラルは大きく口を開けて、空気を飲み込んでいく。膨れ上がったお腹と頬。彼女の次元の力——“声舞”が繰り出される少し前。
地面を埋め尽くした爆弾が——リルダの命により次々に破裂していく。爆音に呑まれていく中、リルダは確かに、初めてその“華麗な力”を目の当たりにした。
「第八次元発動————狂震狂啼!!」
——青髪の双子の片割れ、リリアン・エールの鈴の次元技と良く似て非なる。鈴一つだけでは出し切れない、そして人類が持つ声帯の力を遥かに超える、“声”でなく“響き”。
ミラルの喉を通る声が、一帯の空気全てに反響して——元魔の鼓膜、そして全身を震い上がらせる。
「す、すごい……っ!」
「あぁら? ビリビリきちゃったぁ? ごめんね、私達副班は普段次元の力使わないから……ちょーっと力入っちゃった」
「——上出来ですわ」
自分の身を軽々乗せて、空を飛んでいたはずの扇はとうに彼女の手によって畳まれていた。身の丈の何倍もあるそれをぐっと両手で掴んで、引く。
「第九次元発動————戯旋風!!」
赤い扇が開かれる。凄まじい轟音で身動きの取れない元魔の身体に衝突したのは、台風だった。
本来それは、ただ風を吹かせるだけの次元技。然し今目の前に広がっている光景は、天候を変える瞬間だった。
風を寄越し、雲を薙ぎ払い——砂を巻き上げ景色が、濁ったまま一色に染まる。
然し。
(——……手応えが、ない……?)
吹き荒れる嵐に包まれているクルディア。彼女は、その妖艶な目を、訝しげに細めた。
例えこの戦争で初めて目にした新兵器だとしても、今まで戦場で新しいことに巡り合わない方が確率は少なかった。得体の知れない敵に臆する事もない。プロにとってはそれが、常であるから。
一時の間ではあったが、クルディアは、はっとして我に返る。
(……確か——“中途半端な物理攻撃は相殺される”……とか、何とか司令塔様が仰って……でも、今のは!)
——揺れる、大地。
「!? な、何よこれぇッ!?」
「う、うわああ!」
砂が巻き上がって、思わずミラルとリルダは腕で顔を覆った。
視界が、一層濃く陰る。何かに覆われているようだと——瞳を、開ける。
「「——!?」」
大きくて、白い何かが、頭上に——空を遮断して、広がっていた。
「う、嘘……!? た、倒れたの!?」
「でっでもこの態勢……っぶ、ブリッジしている、んじゃないですか……っ!?」
「じゃ、じゃあ代理の……技を、避けたって……——いうの……っ?」
知性は失われているものだと思っていた——偶然の産物、というのが一番正しい表現になる。クルディアの技、戯旋風を避けようと思ったのか、そのまま腹を反る形で元魔は倒れてしまった。
腕と足は真っ直ぐ伸びて、地面についている。
「! ——代理!!」
元魔が、首を柔らかく曲げて、大口の内側を見せていた。方角は間違いなく、クルディアの正面。
——咆哮が来る。何やら砲撃のようなものを口から吐き出すのだとか。それは司令塔であるレトヴェールからの連絡で耳に届いている。情報があるのに。
身体がぴくりとも動かないのは。
元魔の口内の赤さが、目に焼き付いてしまったから。
「代理ぃ————ッ!!」
次元技を使うか。避けるか。元魔の口から漏れ出す光の大きさが増す一方で、落ちるだけを待つクルディアは——漸く。
——広げた扇を、畳んで、大きく開いた。
「——ミラル!! もう一度!!」
「!!」
「早く——!!」
口の上で凝縮されたエネルギーが、ビリビリ響いて、成長を止めた。
息を吸え。自分にある力は——それが全てなのだから。
「第九次元発動————轟命!!」
ミラルの怒号が響く、元魔の頭に直接投げかけた“伝令”は——“止まれ”、だった。
次元技“轟命”は、対象の筋肉組織及び脳に直接伝令を下す技であるが、それは部分を限定するだけであって、“狂震”の類のように、全身の動きを封じる能力はない。
万が一狂震で下手に震わせてしまったら、砲撃を発動させかねない。発動を恐れたミラルは、叫びながら、喉をはち切るまでに、令を送り続ける。
——然しそれは、声が揺れ、小さくなると、効果を失うという、デメリットが存在する。
「が、頑張って下さい……ミラルさんっ!」
「……っ!!」
喉が痛い。お腹が震えている。縮んでいく。
だんだん大地に近づいていくクルディアは、冷静に、扇に身を任せて着実に距離を離していく。
動き始める、元魔。クルディア目がけて、首がだんだん筋力を取り戻していく。
角度を合わせられたら——口の上に集められたエネルギーを、一斉に放射される。人間一人を消し裂くには充分すぎる威力だと伺っている。だからこそ、今、ミラルの喉に全てを懸けらている。
早く、早く。大地に辿り着くまで——もう少し、それは。
一瞬、届かない。
「……——っ、かは……!」
「グオオオォォ——!!!!」
高らかに響く——元魔の雄叫びが、早かった。
落ちていくクルディアは、奥歯を噛み締める。ずっと先にあるエネルギー体が、動き出す、前。
白い元魔の全身を、纏い、広がる————“鈴”。
「——ちょっと!! 諦めるの早くない!? ったくもうしょうがないんだからあ!」
蒼く短い髪と、高い声が跳ねる。トレードマークは、鈴の髪飾り。
小さな背丈の彼女は、同じく“音”を武器にする————因縁の次元師。
「第八次元発動————“鈴鳴叫”!!!!」
リリアン・エールの“叫び”は、元魔の一切の攻撃を断じて許さない。
かつて、幼馴染の大切な、蛇の命を奪おうとした双子の女の子の事を、彼女は今でも覚えている。