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Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.17 )
日時: 2016/08/04 00:24
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Wb.RzuHp)

 第314次元 もう一つの幼馴染

 「——ギィィイアアアァアアア!!!!」

 一瞬の隙は最大の機会となる。クルディアに向けて放たれた筈の巨大なエネルギー体は大きく角度を反らして、空へ跳んだ。
 地面へ到着すると、クルディアの目には、幼い少女の姿があった。両腕を突き出し、紐に付いた鈴を震わせ、空を悠々と超える巨大な元魔の動きを封じた、少女の。
 鈴と空気が振動する。その様子を——ミラルは、ただ茫然と見つめていた。

 「リリ、アン……エール」

 幼い頃。ミラルはとある少年少女の幼馴染だった。言うなれば、レトヴェールやロクアンズ、そしてキールアを加えたあの3人のように。幼い時間を共にしてきた仲間が、彼女にはいた。
 名前はセブン・コールと、フィラ・クリストン。2人は兄妹ではなかったが、お互いに強く想い合っている間柄なのは確かである。ミラルは、セブンやフィラの良き友であり、相談役であった。
 だからこそ、セブンとフィラがこよなく愛した、朱色の大蛇の話を知っている。

 大蛇、蛇梅が次元の力であると知らなかった、青い双子がいる。
 そうして蛇梅を大地に埋め、何年も、フィラと朱梅を引き離した——次元師がいると。

 「俺もいるぜ? オッドアイのお姉さん」
 「!」
 「リリエン・エールだ。……あいつは妹のリリアン。あんた、あの蛇梅隊の班長と副班の、友達なんだろ?」
 「……どうして、それを」
 「俺らはもっと幼かったが……両目の色が違う種族は多くない。あの2人の傍にいたのも、うっすらだが覚えてる。お姉さんも、俺らを覚えてるだろ?」
 「……」
 「今でも、憎まれてるのは分かってる。だけど今は、今だけは……!」

 違う色の瞳の奥では、フェンスを掴んでいるフィラの泣き顔と、傍で立ち尽くすセブンの姿が鮮明に映し出されている。その先に、幼い双子が並んでいる様も。
 ミラルは息を吸って、吐くと、何も言わずにリリエンの横を過ぎた。

 「……!」
 「何突っ立ってんのよ。あの技、そんなにもたないでしょ。核の破壊はうちのリーダーに任せて、私達は援護を——」
 「——許す、のか……?」
 「……」
 「ああ、いや! 確かにその、許して欲しいのは、そう……なん、だけ——」
 「ここは戦場よ。敵か味方しかいないの。あんた達が人間で、次元師であるなら————仲間でしょ」

 許す、許さないは後にして——それにもう。
 蒸し返して欲しくない。蛇梅隊の本部では、蛇梅が、嬉しそうにフィラの肩に乗せられている。幸せそうな彼女と、その蛇の姿が在るだけで、今は良い。
 遠くでは、クルディアがリルダに向けて指示を出している。鈴の力が尽きようとしているのを確認して、呼吸を整える。

 「とにかく今は元魔よ! リリアンが頑張ってくれてるけど、あれじゃもうもたないわ。元魔があの姿勢から立ち上がる前に、動きを封じるの! あんた達と私が今やるべき事は——それぐらいよ!!」
 「……——おう!!」

 ——リリアンの鈴の音が途切れる。途端、元魔は長い手足をその場でばたつかせた。行動こそ駄々を捏ねる幼子のようで、齎す被害は震災のそれと遜色がない。吹き飛ばされる一同は揺れる大地の上で派手に転がり回る。
 元魔は、すかさず——大口から、雄叫びを上げる。

 「ギイイイィアアアア——!!!!」

 同時に塞がれる耳。綺麗だった顔立ちは歪められ、宙を舞うクルディアは、扇を大きく広げた。
 技を解かれ地面に着陸をするリリアン。ミラルと2人並んで、クルディアを見上げているリリエン。
 双子を一瞥した、彼女の眉は吊り上がる。

 「決勝まで駒を進めた次元師であるなら————その力、お見せなさい!!」

 身の丈を超える扇が瞬く間に翻ると、繰り出された風の軍隊は元魔を襲う。

 「————戯旋風!!」

 巻き起こる竜巻が大地を滑る。激しい風に一同が目を伏せていると——あっという間に、白い元魔の身体を封じてしまった。元魔を囲うようにして台風が躍る。
 小さな都市一つの天候を変えてしまいそうな規模。総班代理という立場は名ばかりでないと——感心している余裕はなかった。
 時間を無駄にするなと感じさせるクルディアの一撃の次に、躍り出たのはミラルだった。

 「リルダ! ありったけの爆弾を——私の前にたくさん頂戴!!」
 「はっはい!! 第七次元発動————時限弾!!」

 リルダの指示通り、ミラルの目先の空中から、ドドドッと溢れ現る無数の爆弾。地面に転がると、ミラルは片色で振り返る。

 「許してほしいんでしょ?」
 「「!」」
 「私が繋いであげるから……あの2人の目に届くように————しっかりド派手に決めてよね!!」

 今度こそ終わらせてやる——深く深く、息を吸い込め。ここにある空気の全部——私が頂く、と。
 剥がれかけた口紅の奥から、放つ。

 「第九次元発動————言乃把ッ!!」

 ぐんと浮く爆弾。ミラルの怒号に応えたそれらは一斉に竜巻の中へ抛り飛んだ。放たれた爆弾たちは次々に、台風の旋回に飲み込まれながら爆発を繰り返していく。

 「グアアアアッ!! グアッアアァッアアア——ッ!!!!」

 ——言乃把。物体を自分の口から発せられる言葉によって操る技であるが、この技の安全な発動には大きな条件が伴っている。
 それは、対象の物体についての詳細な情報理解。そのパーセンテージの高さ、俊敏性。物質の構成、進化の過程に至るまで知れば知っているほど操作の難易度が変動するのだが、理解に欠けていると逆に対象の暴走が予測される——使用危険度は極めて高い技にあたる。
 リルダとは別の班で行動をしてきたミラルだったが、リルダ他と共同戦線を張ると通達された時点で、この技の行使は頭に入れていたのであった。大戦当日まで残り少ない期間ではあったが、リルダの元力量・濃度、基礎体力、血圧と、主に次元の力に関する情報を中心に、リルダとの手合わせの回数を重ねながら着々と情報収集の準備を進めていた。
 やれ化粧だのやれオシャレだの男だの。普段は浮いた話に目がないミラルの視界には今、色めいた景色など広がっていない。

 蒼い2つの影は同じくらいの高さで肩を並べて。
 心の底から後悔した。もっと前から、目の前で道を拡げてくれるこの人が——最も信頼する2人に。深く頭を下げ、拭い切れぬとも罪滅ぼしをするべきであった、と。
 犯した罪の重たさが、この戦場で今負わされている“責任”の重たさだと気づく。
 双子は同時に息を呑む。

 「「第九次元————発動ッ!!」」

 兄の手元から広がる縄が、台風の動きに乗ってぐるぐると果てしなく元魔の身体に巻き付いていく。
 反る背中。妹の眼前に小さく見ゆる血の色。核の居場所を再認識すると、目を閉じた。鼓膜に全ての音が届かなくなってから、がらんと一つ——鈴が鳴いた。

 「————真鳴」

 鳴り響いた軽い音は、心臓を目指して空気を渡る——“双斬”の『真斬』や“光節”の『真閃』に続く、一点に狙いを定めた必中の次元技、『真鳴』。
 集中が途切れると定めた一点が“反転”し、全て自分に返ってくる。そして発動の直前、術師の鼓膜に一切の音が届くのも許さない——これもミラルの『言乃把』に同じく、ハイリスクを伴う次元技だと知っていた。
 妹、リリアンに従順に、音色は真っ直ぐ————赤い心の臓を、叩く。

 「ンギアアアアア————ッ!!!!」

 ——パキンッ! 宝石を模した核に、ひびが入った。
 後援C部班一同と、他2名の口元が緩みを見せた————が、然し。


 間もなく内部爆発が起こると想定していた。だからクルディアは早急に元魔と距離を取っていたのに。
 爆発が起きる気配が、しなかった。


 「え、う……っそ————」
 「——ッ!? みっミラルさん!! 一時撤退を、動きますわ!!」
 「副班長さん——っ!!」

 声が届かない。脚が動かない。心臓に刃を突き立てただけの事実は——奴の破壊を意味しなかった。
 竜巻が消え、繰り出した爆弾はとうの昔に破裂しきっている。喉に力が入らないのに、元魔はしっかりと——ミラルの上空に、太く白い腕を、翳していた。


 次の瞬間。


 「——————“免罪”だな。ま、懲役は10年ってとこだったかな」


 零れた軽口が“引き金”を引いた。瞬間、怪物の巨体の、ほんの小さな心臓が。
 遥か上空で、静かに砕け散った。

 瞬く間に元魔が内部爆発を引き起こすと、辺りは分厚い土埃に覆われる。幸い誰一人として爆発に巻き込まれることはなかったが——問題はそこではなかった。
 扇、声、爆弾に加わった、縄と音。どれも決して“飛び道具”ではない。元魔の心臓を通過して、空を駆け抜けた——小さな一撃。
 ミラルは一人。声のした方へ、地平線へ、視線を変えた。

 「……有難う」

 (——……セブン、君)

 それはとても青くて懐かしい。班長になる、ずっと前の幼い響きだった。