コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 雨の社【オリキャラ募集】 ( No.19 )
- 日時: 2015/03/24 22:25
- 名前: はにわ ◆MTo6zazpiQ (ID: De6Mh.A2)
◆
俺はしばし視線を曇天へと向け、少女に話しかけた。
「話、もなんだがその前に名前を教えてほしいな」
その言葉に弾かれた様に、あっ、と声をあげて、
「——虹架です、天宮虹架」
とだけ礼儀正しく答えてくれた。
そして、
俺の名前も教えた。さあ、やっとこさ本筋に入るとしようか。
その少女——虹架ちゃんの先ほどの発言によると、だ。
どうやら「受験生」の真っ只中で、勉強に追われているようだった。
俺も人間にそういう時期があんのは、聞いたことがある。
——そいつぁ大変だなぁ、いつもやってるわけか。
でもそんなら心配する事、ないんじゃないか?
俺はそう問う。しかし、
「勉強は一応してるの。でもやっぱり不安で。私、友達と比較しちゃって——なぁんてそこまで、友達……いないんだけどね」
また穏やかな、でもどこか傷ついたような曖昧な笑みを浮かべていた。
「少し前にやったテストでも、志望校に点数が届くか微妙なところで……先生にも、厳しいってばっさり言われちゃって。
それで私、悔しくて」
虹架は俯き、ぎゅっとプリーツスカートの上に置いた両手を握り締めた。まるで、自分の気持ちを、捻り殺すように。
「悲しいんじゃないの——そう聞いたとたん、悔しくてたまらなかった。そのときも涙が出てきそうになったけど、どうにかこらえたっけ」
話を続けた。
「友達は、余裕みたい。目指す志望校は、同じでね?なんだか嬉しそうなその子の顔みて、私」
——笑えなかった。……笑えなかった、の。
祝ってあげるべきよね、おかしいよ、こんなの。
私どんな顔してたんだろあの時。
虹架が、軽く微笑んだ。といっても顔は見えないが。
諦めたんじゃないよ。私。だから、ここに来たの。
絶対合格して見返してやるんだから。
先生も友達も。
「で、それで堪えてるつもりなのか」
俺は自身の膝に頬杖をつきながら苦笑して、不思議そうな顔をしている虹架の顔を指差した。
「虹架ちゃん。……泣いてる」
嘘、と震える声で呟き、頬に白い手をあてる、ああ、どうやら涙の生暖かい感触が、伝わったようで。
目を見開いた。——刹那、箍が外れたようにぼろぼろと目から零れ出す、涙。水面に映る夜の桜が思い出された。
虹架は涙を拭いながら、首を振り、駄目、嫌だ、と嗚咽の中で呟き続けていた。なおも自分の気持ちに抗おうとしていた、それは彼女の両手が証明している。
華奢な肩を震わせ、隣で泣き続ける少女。
——神様が助けてやるのが定石っつーもんだろ
「雨が強くなってきたなぁ、お嬢さんよ」
片目を閉じながら、多少演技を入れて。
——え、と泣き腫らした目がこちらに向けらる。いまだ、涙は流れ続けていた。この、雨のように。
「これならでかい声出したって、誰も気づきやしないねぇ?」
肩をすくめる。と、数秒後。
——うん、うん。
「……ありがと」
虹架の嗄れた声が答えて、少し笑顔をつくり、——直後、
わぁ、と勢いよく泣き始めた。
でもそれは悲痛な叫びでなく、どこか許しを得たような安堵の声に聞こえて。
「はは、色々溜め込んでたな、こりゃ」
虹架の背中を、そっとさする。
泣いとけ。今の内に、な。