コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 雨の社 ( No.33 )
- 日時: 2015/06/05 18:53
- 名前: はにわ ◆MTo6zazpiQ (ID: YAHQda9A)
で、なんだ。
「……お前が店をやっている、というのは嘘だったのか」
「あら、嘘じゃないわ」
言葉のあやってやつよ。現に、こうしてちゃんとお茶を出してるじゃない。
小町はそう言いつつ、卓袱台に人数分の——三つ分の質素な容器を置いた。
「まぁ、冷静に考えれば材料を調達する所もないですし……」
恵は当然ですとでも言うような、呆れたような視線をそれに注いでいたが。
ちなみに何故こんな所——茶屋に集まっているのか、お教えしようか。
……なんとなく、だ。神様も休暇が必要なわけさ。
しいて言えば、聞きたいことも多くあるのだが。
はーい、注ぎ終わったよー。
間の抜けた小町の声が飛び、見ると机の前にちょこんと座っていた、あんた飲むの早くないか。そんでもって恵お前は何故それをそんなに警戒しているんだ。
二人の間で、交互にそいつらの顔を、俺は見る。
何も進展が無いことを悟った俺は、とりあえず容器に口を付けることにした……。
◆
虫の遠くで鳴く声が聞こえて、ああもう夜なのかと思った。
まるで何かの儀式のように、鈴のような音と、深い闇がこだましている。
無心でそれをながめた後、誰といわず話しかけた。
「なぁ」
「俺って前世の記憶とかがあんのかね?」
「前……言葉にできないが、なんかこう、ふわっとした感じのよ」
懐かしい感じ?
自分のと違う声音にいきなり言葉を引き継がれ、怪訝に思って振り返ると、
——いた。頬杖を両手でつきながら、畳に寝そべっている。
「あるんじゃないかな?貴方が神様になる前」
……唯の人間だったのかもしれないわね。
訳知り顔の小町。それだけいうと、小さく笑って。
「……あいつにもあると思うか」
視線を部屋の奥に滑らす。わりかし長い髪が、畳に不思議な文様を描いていた。そこだけ見ると、まるで不貞寝をしている子どものようだった。
えぇ、あの子?
突拍子もない事を言われたかのように、小町は少し高めの声を上げた。
「絶対あると思うよ、貴方よりそこは人間らしいかも!」
そこは、ね。
まるで自分の子の話でもするように、あの子は、と切り出した小町の姿が可笑しくて、俺はつい、吹き出してしまった。笑いながら、
「なぁんであいつだけ”あの子”なんだよ、あの人って言ってやれよ」
「ええー、”あの子”のほうが似合うわ!見た目はふっつーの青年だけど!」
しばらくそんな感じで勝手に恵について論争をしていた。
あいつが本当に寝ていますように……と祈りつつ。
……あんたの事情には首を突っ込むつもりはないけど、……どこから来たんだ?
……へへ、人なんて必要な時にふっと現れてある日突然消えちゃうものだよ。一期一会ってやつだね。
よかったら教えてあげようか。
……いや。