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Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.15 )
日時: 2015/03/30 21:10
名前: 逢逶 (ID: FpNTyiBw)

episode14
title ホテル

ロケは始まった。
私に気を遣ってか、誰も近寄らない。

独り。
終わった…仕事は続けられない。
これ以上続けていたら余計な詮索をされる。
KISSTILLが本気になれば、私の過去なんて簡単にわかってしまう。

「…っ!」

突風が吹き付けた。
冬の北海道、ダウンジャケットを着ていても寒い。

「…あー、寒っ」

「小枝さん」

「はい?」

はい、と戸部川さんに渡されたのはカイロ。

「え、あ…ありがとうございます」

「そんなんじゃ足りないだろうけど、あるだけマシでしょ?」

「はい。ありがとうございます」

カイロを受け取る。

あったかい…


戸部川さんから貰ったカイロのおかげで、なんとかロケを乗り切れた。

夕方の五時。

もうすっかり辺りは暗くなって。
疲労感が押し寄せる。
寝てはいけない…さっきのことがあったから。
気持ちを紛らわすためロケバスの中で、今日の出来事を思い返していた。

色々あったな…

考えるのは、伊藤さんの優しさに触れたあの瞬間ばかり。

良い人なんだな、って思った。
でも信用するに値するか、それを判断するのはまだ早い。

ブーブーブーッ

携帯が震えた。

まただ…光…

付き合ってる時もそうだった…
しつこく電話をかけてきて。

出たくないし、山田さんにも言われた通り、仕事中に彼氏からの電話に出るのは駄目だ。
でも…、出なかったら何をされるかわからない。

「誰かの携帯ブーブーいってるよ」

…どうしよう。切ろうかな…
ホテルに着いてからかけ直そうかな。

「…蓮ちゃん?携帯鳴ってるよ?」

「え、と」

「俺なら良いよ?彼氏からでしょ?」

「そうですけど…大丈夫です」

そう言って、携帯の電源を落とした。

「…いいの?」

「はい」

「ふーん」

本当は全然よくない。
電源を落とすなんて…
光も気付くだろうし私が避けてたと思われていたら…最悪だ。
光は怒ると手に負えない。

気持ちは萎え切っていた。

「…小枝さん、着いたよ」

「…はい」

ロケバスを降りた。
大きなホテル。
騒ぎにならないように、従業員用の入り口から中に入る。

鍵をもらい、それぞれの部屋に移動した。

ベッドにダイブする。

あー、疲れた。

どっと眠気が襲ってきて、そのまま意識を手放した。



どれくらい寝ていたのだろう…
誰かに体を揺さぶられ、目を覚ます。

「伊藤さん…?」

「あ、小枝さん。おはよう。って言っても夜の九時だけど」

「お、はようございます」

「ごめんね、鍵かかってなかったから入ってきちゃった」

「あ!忘れてました」

「抜けてんね笑」

「そうなんですよね…笑」

「ふふ笑」

「…で、どうして部屋にいるんですか?」

「小枝さんと話してみたかっただけだよ。今日の言動も気になったしね…」

…そこ、触れてくるんだ。

「伊藤さんの気にすることじゃないです」

「俺ね、問い詰める気はないよ。探る気もない。でもさ、マネージャー辞めようとか思ってたら困る」

バレてる。
鋭い…

「…辞めようなんて思ってないです」

「それなら良かった…。あと…山田に告白された?」

「…はい」

「俺はメンバーが誰と恋愛しようと構わないんだ。変な人を選ぶような奴等じゃないし。だから信用してる、っていうか。山田が好きになったのが小枝さんで良かった。だから山田のこと頼むな」

「…好きじゃないし、この先付き合うなんてことは絶対有り得ません」

「…そうかな?案外分かんないからね」

そう言って伊藤さんはニヤリと怪しげに笑った。

「なんですか、その笑み。怖いんですけど」

「山田はモテるんだよ…?小枝さんもすぐ落ちちゃうかも…」

「無いです」

きっぱりと断る。

「…じゃあさ、俺のこと好きになってよ」

急に真剣な表情。
え、
それって…

「えっと…?」

「ふふ笑 小枝さん可愛いから好きになっちゃいそう笑」

笑えないんですけど…

冗談だよね…?

「…私も、彼氏以外の人好きになれれば楽なんですけどね笑」

私も、冗談っぽく返す。

「あ、彼氏に電話しないの?さっき来てたじゃん」

「しません。面倒なんで」

「しなよ。別れちゃうよ?」

え、どうしよう。
した方が良いの?
光に?

私は携帯を取り出し、光に電話をかけた。


どうか…



出ませんように。



そんな願いを込めながら、彼氏でもない男に意味のない電話をかけた。