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Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.28 )
日時: 2015/05/12 18:57
名前: 逢逶 (ID: 6k7YX5tj)

episode9
title 尾行

重い雰囲気で、あの美味しかったオムライスも味気ないものになっていた。

完食しても満腹感はなく、ただ虚しさだけが残った。

「…私、帰ります」

「待って!」

朔くんの制止を無視して、私はレジに向かった。
朔くんが優しい声で私を呼ぶことはなく、もう会えないことを悟った。

代金を払って店を出た。
頭の中で繰り返される〝結婚〟の言葉。
私の理性を壊してくれたなら、朔くんと一緒になれたかもしれない。
失恋の痛みを知った、今日のことは一生忘れない。
そして、朔くんの私にくれた優しさと信頼の気持ちも…きっと一生忘れることはない。

暗くなった空を見上げ、星のない都会の夜に虚しさを覚えた。

「…好きでした」

伝えることのできなかった想い。

頬を、涙が伝った。

凍えそうな夜に、誰かの温もりを探して歩き出す。
結局ゲームを終えられない私はダメな人間だ。
叱ってくれる人もいない。

誰か、私を止めて。

「何してるの?」

後ろから誰かに抱きしめられた。
聞き覚えのある声ではあったけど夜道で誰かも確認できずに、軽くパニックを起こす。

私はその腕を抜け、振り返る。

「やっほー」

え、
KISSTILLの森さんがいた。
怪しい笑みでこちらを見つめる森さんは、なんとなく怖くて。

「…なんですか?」

「慰めようと思って」

「はい?」

「失恋、したんでしょ?」

「…どうして知ってるんですか」

「なんか店から出てくるの見えて…後つけてたら空に向かって好きでした、なんて言うからさ。こりゃ失恋だな、って」

「…」

見られてた…。
KISSTILLメンバーでも一番ミステリアスな森さんは、数々の女性芸能人と噂になって来たプレイボーイだ。
女性の気持ちは手に取るようにわかると思う。

「…どっか寄ってく?」

今優しくされたら、すがってしまいそうな自分がいてそれが嫌で、首を横に振った。

「…帰ります」

「わかった。送るよ」

「…いいです」

「小枝さんぐらい可愛かったら襲われちゃうよ?」

その根拠のない言葉に過去の記憶がリンクして、どうしようもない恐怖感が心の隅からじわじわ広がって来た。

「いいです」

そう言うのが精一杯だった。

「もー、諦めてよ。送るって」

「…わかりました」

私は森さんの少し後ろを歩いた。

「…小枝さん、ってやめていい?」

「どういうことですか?」

「蓮、って呼ぶ」

あー、なるほどね。
森さんがモテる理由がわかった。
誰もが森さんのペースにどんどん落ちていく。
私も危ういかも。

「…勝手にしてください」

「可愛いね。ツンデレ?」

「デレはないですよね」

「そうだね笑」

話している内に、家に着いた。
気付けば森さんの隣を歩いていて、失恋の痛みも忘れていた。

「…すいません。ありがとうございました」

「いーえ、俺も楽しかったしね」

「…お茶でも飲んで行きますか?」

「良いの?」

「はい。今晩は冷えますし」

「じゃあお邪魔するね」


私は寂しさから簡単に家に男を招き入れた。


朔さんを忘れるため、誰かを利用する。


どんな悲劇を招こうと、神に見捨てられた私を誰も哀れむことはない。


楽な立場じゃない…?


歪んだ考えは、私を悪魔に変えて行く。