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Re: Gimmick Game ~僕たちの歯車を狂わせたのは君~ ( No.48 )
日時: 2015/09/10 16:17
名前: 逢逶 (ID: bAREWVSY)

episode12
title ごめんなさい

永江先生と朔さんが親子。

だからなんだと言われればそれでお終い。
だけど、終わらせてはならない気がした。
前のように朔さんに対する想いが湧き上がってくるわけではない。
かといって全く気にならないわけでもなくて。

朔さんが私にとってどれだけ大事かなんて言い表せないけど、きっと永江先生には伝わっている。
私の好きだった人が自分の息子だと知らないとしても。



「勘違いだったらごめん。君と朔は知り合い?」


頷いた。
すると永江先生は優しい声で言った。


「朔の好きになった人が君で良かった」



…あぁ、そうか。

私は何を気にしていたんだろう。


何を間違えていたのだろう。
私は汚れてなんていなかった。

傷は深くえぐれてるように見えたけど、私次第で塞ぐことはできた。


私が女であることに罪はないのだ。





それからと言うもの、私の治療は実に順調に進んだらしい。
永江先生は私の回復ぶりに毎日嬉しそうに病室を訪れた。

そして治療を始めて三ヶ月。


面会が許された。

一日一人。
最初に名乗りを上げたのは、KISSTILLの山田さん。かつて私がマネジメントを担当していた人である。


今日、やってくる。


季節はもう冬。
彼らと出会ってから半年。


扉を軽くノックする音が聞こえる。


「…久しぶり」

「お久しぶりです」


山田さんは私としっかり目を合わせる。
幸せそうな笑顔がなんだかとてもくすぐったくて。

「ツアー、どうですか?」

私がそう問いかけると椅子に腰を下ろしながら綺麗な茶色の瞳で私を見つめた。


「蓮ちゃんのおかげで最高のツアーになってるよ」

KISSTILLが今年リリースしたアルバムは大ヒット。
世界チャートで月間一位を獲得した。

そのアルバムを引っさげて行ったツアーに少しだけ関わった私。

ほとんど何もしてない。


「忙しそうですね」

「ん、まーね。忙しいけど蓮ちゃんがツアーできるように提案してくれたから楽しめてるし、メンバーも同じだと思うよ」

「良かったです」

「最近調子どう?」

「順調です。落ち着いてきたし、あと一ヶ月もすれば退院だそうです」

「そっか。良かった」

綺麗な笑顔。

「…あの、」

「ん?」

「私のこと好きだって言ってくれたじゃないですか」

「うん」

「でも…今は別に好きな人いますよね?」

入院中。
耳に入ってきた話。
山田さんと若手女優、館ふみかの熱愛。
細かいことはわからないけど、ばっちり写真を撮られたらしい。

「え?なんで?」

「…私、返事曖昧にしてましたよね。それで山田さんにまだ気持ちがあるなら言っておきます。私、山田さんとはお付き合いできません」

それはずっと決めていたこと。

「え…。俺、蓮ちゃんが好きだよ。早く会いにきたかった。返事は今すぐにじゃなくていい。ずっと待つから」

「…私みたいな病人だめです。治療が今は順調でもいつ治るかわからないし、再発だってあり得る。山田さんは健康な人と幸せになってください」

山田さんが私を想ってくれているのは十分すぎるほど伝わってる。
だけど、それじゃだめなの。
心から私を大切にしてくれた人の幸せを願いたい。
私と一緒だと幸せなんて掴めない。


「…蓮ちゃん、それ本心?」

本心、な訳ないじゃない。
私を想ってくれる人にちゃんと返したい。
だけどできない。

今の私じゃ。

「…ごめんなさい」

「…好きだよ。多分この気持ちは消せない。蓮ちゃんが何を考えてるかは正直わかんない。だけど俺は蓮ちゃんを失いたくない。もう、蓮ちゃんを泣かせたりしない。一人で抱え込んで壊れそうな顔して、…そんなん助けてやりたくなるよ。待ってるから。焦らないで」





ごめんなさい。

そんな言葉もう言わなかった。