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episode14
title 痕跡

今日は中島さんと長谷さんが来る。


こんこんっ、

軽く扉がノックされ、二人が入ってきた。

「久しぶり」

「お久しぶりです」

二人とも痩せた。
それもそうだ。
これからドラマや映画の撮影がある上に現在ツアー中。
ストイックな二人が最高潮にストイックになる時期である。

「小枝さんが入院している間に色々なことがあったよ」

中島さんはどこか遠い目をして語り始めた。

山田さんと若手女優の熱愛報道は話題作りで事実ではないということ。
伊藤さんと森さんが初めて喧嘩したこと。
ライブに来てくれた三、四才の女の子がノリノリで楽しんでくれたこと。
冠番組にある芸人さんが来た時にキスする羽目になってしまったこと。



そんな色鮮やかな出来事は、早く退院したいという気持ちを高める。
もっと強くならなきゃ。




「…KISSTILLで新しい曲作ったんだ」

長谷さんからウォークマンを渡され、イヤホンを耳にした。

開いてみると、

入っている曲は一つだけで〝痕跡〟というタイトルだ。

流してみると、やわらかいメロディーが響く。

KISSTILL一の歌唱力を誇る伊藤さんのソロパートからその曲は始まり、それぞれのメンバーの優しい歌声が、ゆっくりと心を揺らす。

消えぬ　消えぬ
五月雨の後　渇かぬ涙の痕
消せぬ　消せぬ
闇夜に浮かぶ　愛しき人の影

夕焼け河原を歩いてる　君と一緒に笑顔連れて
今日の晩ご飯なにしよう?
小さな凄く小さな普通の幸福
死んでいったあなたは　僕の心に滲みて生きた

他の人を愛しても
他の人でしかありません
幾度となく季節跨いでも
本当は　離れては消えるのが恐くて

すみれを見つめ　この花綺麗
でもいつかは枯れるのね
時は夕暮れ　朱に交わると
水面に二人残して

影は影を重ねて　一つになるのを恐れて
気付くのが遅しと　水面に一人
あの日埋めた心の種は　二十日過ぎ芽吹きました
姿形違えど変わらぬ愛　優しい光



聴き終わる頃には泣いていた。