コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お月様が見ている ( No.3 )
- 日時: 2015/12/31 16:42
- 名前: 音宮 (ID: Jk.jaDzR)
第一話 やめられない恋
あれから早くも一年が経とうとしていた。
私は相変わらず、彼をあきらめられずに恋を続けている。
彼は、まったく昔と変わらなかった。
ちがう、彼は変わろうとはしていたなかったのだ。
彼の行動を一度も見逃すまいとじっと目で追う。
そう、私と彼は三年ぶりに同じクラスになったんだ。
毎年、おまじないをして同じクラスになろうと試みていたが、すべて失敗。
でも今年は、やっと叶ってうれしい物だった。
もちろん、あのことがあって気まずかったりする。でも、それでもいいんだ。
彼が元気よく過ごせていれば、幸せならって。そう、思えるようにだんだんなってきたんだ。
正直言って、まだあの傷は癒えていない。
でも、まだ振られてもなお、好きなものは好きなのだ。
簡単にはあきらめることができない、恋とはそういうものなんだって最近では、実感するばかりだった。
振られた私はもっと彼の事を知りたくなった。
思っていた以上に私は彼の事を知っていなかったからこうやって振られているのだ。リベンジするためにも、もっと彼を知らなくては。
そうだ、彼の好きな本を読んでみよっか。
彼は読書家でもあるが、私は本があまり好きではなかった。ここで、彼の感性を知っておくべきだろう。
そうと決まれば、図書室へ行かないと。
ガラガラと図書室のドアを開ける。相変わらずだな……。
図書室は、ほとんど誰もいなかった。いるのは、同学年のオタクっぽい感じの子達が何人かと司書の先生。
初めてきたかも、図書室。埃っぽいけど、なんだか懐かしい匂いと包み込まれるような雰囲気。
好きだな、こういうの。
「こんにちは」
先生が話しかけてくる。確かこの先生は学校一、優しくて人当たりがいいことで有名だったっけ。
「こんにちは」
カウンターの近くまで行く。
「篠原凜さんよね。今日は本を借りに来たのかしら?」
今日、初めてあったのに、名前を知っているなんて。
「あ、はい。あの……勇者物語って本、ありますかね?」
そう、彼の好きな本は、ファンタジックで冒険もの。今、読んでいる本もそんな感じの本らしい。
勇者物語って本は、彼が前に、一番、好きな本だと言っていた。
まぁ、前に聞いたから好きな本は変わっているかもしれないけど、今まで好きだったことには違いないし、この機会だから一度、読んでみたかった。
それに、彼が、私がその本を読んでいるところを見たらきっと、話しかけてくれるかもしれない。
淡い希望を抱いて先生の返事を待った。
「ええ。ありますけど、篠原さんってそういう本、読むんですね。
なんか意外です」
一体、どんな本なのだろう。
私が読んだら意外って、内容はどんな物語なのだろうか。
「では、こちらです」
書庫から取り出し、差し出してくれる。
「ありがとうございます」
それを丁寧に受け取り、すばやく図書室を出ていった。なぜ、すばやく出ていったかって?
それは、憐みの目で同じ学年の子が見てきたから。
もう私が振られた話は、同学年の人達、みんな知っている。彼が、自慢したから。
彼への告白回数が増えたって言いふらしたから。そこから会話が発展して告白した私の名前がばれてしまった。
言わないでって言ったのに。なんで言ったのだろう。
そんな人だとは思っていなかった。彼はそこまでしない人だって信じていたのに。
人は見た目で判断してはならないってよく言うけど、本当だね。
私は見た目で判断していた。
彼の事を知ったつもりで、彼を理解していたつもりで一番理解していなかったのは私だった。
廊下をしゅんとなって歩いていると、目の前に彼らが楽しそうに会話しているのが目に入った。彼らというのは彼と彼の彼女。
噂によると、彼女が彼に告白したのは私が告白した次の日だったみたい。
私の想いは九年間っていう長い月日なのに、彼女はたった一ヶ月好きだったっていうだけで成功してしまった。
想いは月日じゃないってわかっているけど、なんだか悔しい。
彼の事を何一つ、知らないくせに。彼を長い間、見ていなかったくせに。
なんであなたが私よりも短い期間なのに、成功してしまったの?
なぜ、私じゃダメなの。私の方が、絶対、真ちゃんのこと、幸せにできるよ。
真ちゃんだって私といるときの方が気を遣わなくていいって言っていたじゃない。
私の方がきれいだよ。まだ、誰とも付き合ってないよ。男の子を知らないよ。彼女は誰とでも付き合うって有名だよ。騙されちゃうよ。
そんなの、いやだ。
彼女から離れて。彼は私のよ、あなたが触ってはいけないの。
その汚れた手で触らないで。彼を幸せにできないでしょ?などと思ってしまう。
こんな権利ないのに、こういう風に思うっていうことは、私は、思っていた以上に彼を貪欲に欲しかった、愛していたのかもしれない。
へっ、へへへ。涙が出そうだ。嫌だ、こんな可愛くない顔見られたくない。特に真ちゃんには見られたくないよ。
顔を隠しながらささっと彼らの前を走り去る。
「……っ」
どうして、涙が止められないの。
振られたから?
違うと思う。
彼が……私のものではないって分かったからだ。