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【　春色の空き缶　】


　面倒臭そうに片手で缶ジュースを投げて来た君は、何処か憂鬱そうで、一瞬私の事が嫌いなのかな?　と思ってしまう。君はどうなのか知らないけどね。でも、少なくとも周りの人には、そういう風に映っているみたいで、君と私を交互に見ては、顔を強張らせて傍を通り過ぎて行く人もいた。君には聞こえていないかも知れないけれど、その人は私の横を通る手前で、呟いたんだ。多分、独り言だと思うけど、耳が人より少し良い私は聞こえていた。「喧嘩はよそでやれ」って。喧嘩はしていないんだけどなぁ、別に。

　あ、風が少し吹いて来たね。結構冷たい。君はコート着ているから温かそうだね。入れてもらっても良いかな?　そんな事言えないくせに、ちょっと背伸びする。どうしたら、君に届くかな。……私ね、君のその不器用な所、全然嫌いじゃないよ。逆に好きなの。でも時々、君が遠過ぎて見えなくなる事がある。直ぐに見える様になるんだけど、怖いんだ。我が儘かな?　そう訊いたら君はきっと、顔も見ずに言うだろうね。「言っている意味が解らない」と。うん、私も良く解らない。好きだよ、君の事。本当に好き。それなのに、自分でも解らない事がある。君の事も、私の事も、どっちも。

　何、捨てて来いって?　あれ、まだ残っている。飲まないの?　え、もしかしてこれ、私に?　いやいや、解らないよ。口で言わなくちゃ。ごめん、拗ねないで。拗ねてない?　いや拗ねて——ごめんなさい。謝るから、そんなに睨まないで。怖いよ。……美味しいね、このジュース。何味だろう。書いてあった。『レモンジュース』だって。私、レモンジュース飲むのは初めて。何か酸っぱそうだからさ。これ?　これは……凄く甘かったよ。何で酸っぱくないのか?　それは——決まってるよ。間接キスだもん。


＊


　レモンジュース、飲んだ事がありません。
　勝手な想像ですけど、酸っぱそうです。だから飲みません。20歳になるまでは絶対にと決めています。あんまり缶ジュースでレモン味は見た事がないんですが、売っているんですかね。単に私が見ていないだけかな?　
　不器用な子は見ていて楽しいです。それは、女の子でも男の子でも同じです!　可愛い……。特別な相手にだけ見せる優しさが、また良いんです。変態みたいになっていますけど、引かないで下さいっ（必死）。