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- Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.20 )
- 日時: 2015/04/02 09:50
- 名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)
【 雨上がりの造言 】
「帰らないの?」
長椅子に座って眠りかけていると、突如背後から声がした。やや高めなので女の子と勘違いしかけたが、振り向いて誰だか確認すると、女の子では無かった。正真正銘、男の子。
「私、バスで通ってるから。虎地(とらち)くんは……歩き?」
「いや別に、気分で変えてるし。今日は雨降りそうだから、バスかな」
華奢な身体付きで小柄な彼は、一見可愛いショートカットの女の子に見えるが、結構中身は怖いというか……凄い。基本的に無表情で淡々としているから、普通にしていても睨まれている感じだ。隣の席になってから、少しずつ話す様にはなったけど、苦手。「そうなんだ」だけ言う。出来るなら今直ぐ立ち去りたかった。でも、もう1人の私が「まだ座っていたい」と言っているので動けない。無念だ。
溜息を吐いていたら、小さな音がした。顔を上げると、可愛らしい顔が目の前に迫っていて、引き千切れるかと思うくらい、心臓が跳ね上がる。手汗が一気に溢れ出て来て、椅子から滑り落ちそうにもなった。
「深水(ふかみ)ってさ」
「ふぇっ!?」
虎地くんの温かな息が聞こえて、身体全体に熱を帯びて行く。恥ずかしいけど、今の私には『息を吸う』という事が全く出来ない。なので、虎地くんが顔をずらしてくれなければ、窒息死しかけていただろう。深呼吸をすると、何だか久しぶりに吸い込んだ気がして変な感じ。息を吸う事に必死で、虎地くんの存在を忘れていた。上を見たら無愛想な彼が、至近距離から此方を見ていて、また心臓に負担がかかってしまう。それを見抜いたのかは解らないが、私に追い討ちをかけるかの様に、見た事もない優しく満開に咲いた花みたいな笑顔で囁く。
「……結構、可愛いよね」
何かが破裂する。
顔や首が徐々に熱くなって行って、声が出て来ない。時が停止して、身体が固まって、モノクロに全て映って。驚きを感じるよりも前に、冷たい唇へと吸い付けられる。
「ね……」
それは、一瞬の事だったのかも知れない。
でも、私の中では何度も何度もそこで止まって、前に進む事も、後ろへ巻き戻す事も、何もしないままだった。彼の言葉によって、やっと前に進めた私にはまだ、起こった全部が呑み込めなかった。
「此処じゃ僕等は笑えない。だから——」
繋がれた小さな指を手放すのは、私には不可能で。
引き寄せられた彼の胸に、最期を託した。
「一緒に帰ろうよ」
*
可笑しな方向へ行きました。
書き始めた時は「甘々な話を書きたいなー」とか思っていたのに、何処かどう変わったのか変な展開に。ですが、作者的には気に入っています。何故か。
これからどうなるのか、虎地&深水の関係などは、想像の自由にしたいと思います。このパターン多いですね……。きちんと結末のある話を書きたい……。