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Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.21 )
日時: 2015/07/19 08:55
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)

【 友と呼ばれるまでも無い。 】


「ねー、これつまんない。他にゲームとかないの? 殺戮系で」
「うわぁ! 僕、この本読みたかったんだぁ。読んで良いかな、良いよね」
「じゃあ、格闘ゲームでもしようよ。そんな顔しないでさぁ。お願いぃぃぃ」


 俺の直ぐ傍を行ったり来たりしている人間が3人。全員知っている奴だから、別に寛いでいるのも変じゃない。変じゃないけども——


「いや、いやいやいや。何でお前等、俺の部屋散かしてるわけ!? もう暗いのに菓子!? つかそれ、俺が取って置いたクッキーだよね!? 勝手に食べてんの!?」

「要(かなめ)煩い。ちょっと黙って」
「何で!?」

 口だけは達者な満(みちる)は勿論、基本的に穏やかな直(なお)。何かと騒がしい陽(よう)ですら、此方に振り返ると冷ややかな目で見ていた。いや、完全にお前等の所為だ。というか、俺がその気になれば不法侵入で捕まえられるんだぞ、おい。


「……要は1人でやってるの? ダンス?」
「ダンスはやってないかな!? てか、お前が手に持ってるのって、恋愛小説だよね!? 姉貴が買った!! それ読むの!?」

「あ、要っち。良い所に来たねー。俺と格闘ゲームしない? 手加減するから、ね?」
「今気付きました、みたいに言わないでくれない!? 絶対手加減しないよね、お前は!! ボコボコにする気だよね!?」

 
 俺のベッドで退屈そうにゲームをしていた満が、軽蔑し切った笑みを貼り付けて、俺の前で仁王立ちした。何だよ、大声出したから怒ってんのか? もう俺は精神的に、ライフゲージが0に近いんだ。惨い仕打ちは止めてもらいたい。そう喚いた所でコイツの場合、楽しそうに虐げるのが落ち。此処は身動きせずに、大人しく耐えていた方が良い。うん。


「今から皆で……」


 あぁ、俺の人生はこれで終わりか……。あばよ、愛しき未来。特に思い残す事もないが、寂しいといえば寂しい。俺に銃口を向けた悪魔は、薄ら笑って引き金を引いた。


「ホラーゲームしようか!」


——はずだった。
 え、ホラーゲーム? 俺が好きなホラーゲーム? やっ、やった! これなら酷い事されなくて済む!! 満は、何時も色々な奴を虐げているから、誰が何を嫌ってるのか解らなくなったんだな。きっと。良し、セーフ。ギリギリセーフ。殺されるかと思って、遺書まで書いたのに、無駄骨だったというわけか。でもまぁ、俺のライフケージが削り取られずに済んだし、結果として良い方に向かって行ったんだよな。
 安心からか力が抜けて、尻餅をついてしまう。今日は幸運日か? とにかく、コイツ等に片付けさせて追い払おう。この運を使って!
 しかし、悪魔が本当に笑ったのは、俺が口を開けた瞬間だった。


「言っとくけど、ホラーゲームやるのは俺と陽だけだからね。要と直は、俺がやっていた乙女ゲームやってもらうから」
「はい?」

 
 片付けて欲しく開いた口からは、何とも間抜けた声が出て来た。乙女……ゲーム? な、何ですかそれは。俺が呆然と尻餅をついたままの状態で見上げていると、満は優しい笑顔で俺の手を握った。


「要くん。ご愁傷様でしたー」


 待て。ちょっと待て。
 乙女ゲーム? いや、先ずそれが何処に置いてあった? 俺の部屋にあるわけが……。滴り落ちる汗を拭い、先程満が「これつまんない」と文句を言いながらやっていたゲーム機を見る。カセットを抜いてタイトルを読んでも、全然見覚えが無い。え、ほんと誰の? 記憶を巻き戻していると、少しずつ思い出して来た。確かこれ……。


「姉貴のじゃねーか!! 勝手に人の部屋に持ち込んで、あの人何してんの!?」


 だが、そんな事どうでも良い。どうでも良くはないが、置いておこう。その事は1度。今重要なのは、乙女ゲームをやらない方法を考える事……のはずなのに、何故映してしまったのだろう。直と陽の嬉しそうな顔を。ん?

「ほ、ほほほほほ、本当にやって良いの? 本当に?」
「ホラーゲームは初めて! うん、やろう!! いやぁ、楽しみだなー」

 
 ……どうした。
 ゲーム好きの陽が喜ぶのは解る。解るよ、大丈夫。ゲーム仲間の血を引く者としてな。でも、直の喜ぶ理由が解らない。だって、乙女ゲームだよ? え、テンション上がる? 上がらないでしょ? それで? 嘘だよね? 有り得な…………有り得るのか。女性向けの恋愛小説読む奴だからな。そうか、そうだよな……。安心して抜けたはずの力が、今度は逆に入らなくなってしまう。違う意味で。やばい、このままだと俺は——


「さぁ、楽しもう!」
「はーい!!」

「ちょっと待て、お前等ああぁぁぁぁぁっ!!」


 19時半を丁度過ぎた時、俺、湖水(こすい)要の絶叫が街中に響き渡ったらしい。





 初めて「友情」をテーマに書いた話です。……友情か? 
 こういった友人同士の会話って、結構聞いたりしていると面白いです。皆様もどうか、誰かが話していたら耳を傾けてみて下さい。楽しいですよ(^^)
【 友と呼ばれるまでも無い。 】は作者の中ではお気に入りなので、また何か思い付いたら、番外編を書きたいなぁ。