コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.28 )
- 日時: 2015/07/19 08:58
- 名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)
【 友情スキャンダル 】
熱い。とにかく熱い。他に思う事がない程、熱かった。
*
「高! あー、1日中ベッドかよ……。学校に連絡しないといけないのか……面倒臭」
俺の体温の平均がどれくらいなのかは知らないが、まぁ高かった。39度だと。初めてだよ、こんな数字。別に何もしてないんだけどなぁ。外から菌を貰って来た憶えも無いし。普通の風邪だと良いけど。
自分の部屋から階段を下り、玄関付近にある受話器に手を伸ばす。こういう時に限って、誰もいないのか。何時もの事だけどさ。溜息を吐いては番号をプッシュする。こんな場合の為に、引き出しに学校の電話番号メモした紙を入れておいて良かった。紙を見ないと、全く思い出せなかった。危ない。
担任に電話し終わって、ベッドで1人横になっていた。怠いのに眠れない。何だよ、眠らせてくれ。疲れているんだ……。俺の声が届いたのか、少しずつ眠くなって来た。
*
「ごめんね、飛鳥(あすか)。お母さん、今日も仕事で遅くなりそうなの……」
「飛鳥。お父さんも、今日、一緒にいてやれないかも知れない。明日は絶対、な?」
ウソツキ。明日もその次の日も、仕事が忙しくて遊ぶ所か帰って来れないんだろ? 知ってるよ。母さんも父さんも、仕事が1番大切だって。自分なりに解っているつもり。でも、息子の誕生日くらい……祝ってくれても、憶えていてくれたって、何て思うんだ。我が儘と言われても笑うから、気持ち伝えて良いのかな。
「うん。母さんも父さんも、仕事頑張って」
*
掛け時計を見たら、もう17時になりそうだった。……9時間近く眠っていたのか。絶対に夜、眠れないな。目を擦りながら、体温計で測ってみる。数分経つと測り終った様で、小さな音がした。37度ちょっとか……。ま、眠っていただけあるな。
36度になるまで眠っていようと思い、ベッドで横になった時。誰かが呼び鈴を鳴らしたのか、俺の部屋にまで聞こえて来た。……無視しようか。いや、知っている人だったら悪いし……。仕方が無い、少し辛いけど下に行くか。
ゆっくり階段を下っていたからか、数度鳴った。あー、はいはい、俺は此処にいますよー。その人は、時間が押しているのか、俺が返事しているのに気付かない。一体誰だよ、俺が風邪だって知らないだろうけど、いい加減怒るぞ。
「煩いなぁ、聞こえてる……って。先輩!? え、何で此処に……?」
焦げ茶色の腰まで届きそうな長い髪を揺らして、先輩。菊月(きくづき)先輩は玄関前に立っていた。部活や勉強面で色々と世話になっている先輩がわざわざ来てくれるのは、嫌ではないが、家の場所を教えた事は1度もない。どうして知っているのか……。多分、あの悪友が吹き込んだに違いない。明日、学校に行けるかは分からないが、行けたら懲らしめてやらないと。先輩は結構、気を遣うタイプだから、今日来た理由も——
「あっ、飛鳥くん。風邪なのに呼び鈴鳴らしてしまい、すみません。この前お借りしたジャージを返しに来ました。本当は今日では無い方が良いと思ったのですが、なるべく清潔な時に渡そうかと……」
申し訳なさそうに謝る先輩に、思わず俺も謝り返してしまう。そうだろうと思った。先輩は不器用で、洗濯機を壊した事もあるみたいだし、無事に乾いた時に渡さないと、ジャージの命が危ういからな。「ありがとうございます」と頭を下げて、玄関の扉を閉めようとしたその時、誰かに服を引っ張られた。此処にいるのは俺と先輩しかいない。
「先輩……?」
「何か自分でも解らないんですけど、飛鳥くんを見ていたら、もっと一緒にいたいなー、と思ってしまって……。具合悪いのに引き留めて、ごめんなさい」
慌てて離してしまった先輩の細長い指が、少しだけ愛おしく感じてしまう。何処か儚げなその笑顔をもっと近くで見ていたい、とか熱で可笑しくなってしまったみたいだ。甘いけど優しい匂いが鼻を擽る。背を向けて歩き出そうとした先輩を抱き締めてしまったのは、正常な俺ではないからだろう。
「——傍にいて」
今だけ……数秒だけでも良いから、お願い。まだ貴方と一緒にいたいんだ。我が儘だけど、許して下さい。
*
甘々だったな、と思っています。
温かな先輩(女)と甘え下手な後輩(男)を書きたかった私は、この作品を書けて大満足です。この2人の番外編書こうかなー、と思ってしまった程満足。飛鳥くんは、今まで書いたキャラTOP5には入りますね。またこんなキャラ書きたいなぁ。