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Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.39 )
日時: 2015/06/26 16:01
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)

【 逆様トライアングル 】


「はあ!? だから、何を言っているんですか、貴方は! いい加減にしてくださいよ!!」

 突如とある一家を襲ったのは、悲鳴に似た怒鳴り声だった。
 しかも今は午前0時過ぎ。いい加減にして欲しいのはこっちだ、と少年——創(そう)が階段を物凄い速さで駆け上がって来た。顔を思い切り歪ませて。部屋のドアを蹴り破る様に足で押し、何処かの不良少年の如く掴みかかる。その瞳は暗闇の中でも光っていた。不気味な笑みを零した彼を見て、怯える主に向かって一言。

「真夜中に近所迷惑だろうが!!」

 いや、近所迷惑になるのは多分この声だろう。ついでに不気味な笑顔は、外に出たら不審者扱いされる可能性が高い。いきなり怒鳴り込まれた少女は、怖さやら何やらで泣き出した。しかし、少年の説教がまだ終わりを告げない。

「あのさぁ、何時なのか解ってる? 0時13分だよ? 時間を見て話そ」

“ある物”を見た少年は言葉を途中で止める。数秒、少年の思考は完全停止したが、口から言葉が漏れた。先程の様な怒りの鞭ではない。そんな簡単にぶつけられるものではない。


「…………俺の携帯。誰と通話してるんだよ」


——底のない悲しみである。実妹に対しての。





「お前、またか」

 声にならぬ叫びを上げているのは、罪なき兄。隣にいる心中穏やかではなかろう妹が、耳を塞ぐ様に頭の後ろで腕を組む。頬にはまだ、跡が残っていた。

「だって……」
「だってじゃない。何度目だ、今回で。これ以上何か仕出かしたら、危険人物と見るからな。いくら妹でも、許せる事と許せない事があるんだ。忘れるなよ」
「だっ、だって! お兄ちゃんに……その、その」

 口を濁す妹に「何だよ」と、呆れた表情で見下ろした創の心臓は、一定のリズムを奏でていた。何時も急かす様に問いつめて来る妹だが、漸く『常識』が解り始めた人間に近付いた気がする。などと、寧ろ喜びを感じていた程だった。


「悪い虫が付いてるって聞いたから!!」


 この声で、創の喜びは灰になって消え、安定していた心臓の音が激しく鳴った。いや、妹の口から出て来た意味ある発言に驚いたのではなく、発言の中に含まれた——

「うわああぁ! むっ、虫!? 何処にそんな、ええええ!? 早く言え、ばか!!」
「あ、虫って違う方」

 悪気はなかった。そう言う気持ちを込め、片手を振り続ける。酸欠状態になった創を救う為に呪文を唱え始めた。兄の好物、餃子。謎の呪文を開始して19秒後、兄は無事、意識を取り戻した。妹のお蔭で。まぁ、妹の所為で倒れたものなのだが。

「はあああぁぁぁ、気を付けろよ。虫と絶対言う……ぎゃあああああ!!」
「お兄ちゃん、1人で漫才するなら寝るよ? 私」

 冷めた目で血の繋がった兄を見つめる。一見、普通にありそうな行動に思えるが、時刻は0時24分。どう考えても、可笑しい奴等だと思われるだろう。近所の人からも、家族からも。危険だ。そう思ったのか、創は慌てて妹を引き止め、自動的に作られた笑顔を貼り付けながら言う。

「漫才はしていないけど、俺はお前の頭が心配だなぁ。携帯弄っていた理由、知りたいなぁ。あはは」

 すると、急に俯き出した。自分の言葉が傷付けたのではと不安になり、声をかけるが、何度待っても妹から返事がないので下から覗き込むと、眉を寄せて今にも泣きそうな顔になっていた。

「お、おい? もしかして、嫌な事言ったか? ごめん」
「違う……。お兄ちゃんの所為じゃなくて、私が嫌なのは」

「——彼女が出来た事なの」
 
 創が抱き締めるよりも早く、瞳から大量の雫が流れていた。力を緩めず、ただ優しく寄り添う。妹を思っての行動は、相手にきちんと届いた様で、微かに声が響く。震えた、けど答えから逃げずに真っ直ぐ前を見た声が。
 ゆっくり少年から離れて行く少女の両目は、真夜中だというのに眩しい光が差し込んでいた。


「我が儘で、困らせてごめんなさい。これで最後」
「これからも、私の大切なお兄ちゃんでいてください。だいすきです」





 ブラコンの妹を書きたくて書きたくて。
 早く番外編(続編?)を書かなくては……とか思ったのに、書き途中のこの作品が全然進まなくてですね。はい、直ぐ書きます。兄(創)の恋人疑惑を嘘にするかどうするかで、凄く悩みました。結局、最初に考えた通りに。次は、早めに書き上げたい。