コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.41 )
日時: 2016/03/27 16:56
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)

【 友と呼ばれるまでも無く。 】


 それは、何時も通りの朝だった。夏に近付いているからか、かけ布団だけでも暑い程。この前まで雨ばかり降っていたというのに、涼しさの欠片も感じられない。眠気を吹き飛ばそうと、寝室から洗面所へ向かう。はあ、これから5日間学校か。いや、部活もあるからそれを入れて——


「うおっ!?」


 視界が妙に歪んだと思った瞬間、一気に身体が反転し、鈍い音がした。目を開けたら、黄土色みたいな板が垂直に突き刺さっており、良く遊んでいるゲームに似た声が響き渡った。まさかそれが、俺の悲鳴だとは誰も思わないだろう。





「はあぁ……今日は運が悪いな。ま、俺の運なんて信じて良い事ないけど」

 幸運日だと思っていたのに、散々酷い目に遭ったのだからな。所詮、占いとかそういう類のものは、当たり外れがある訳で。信じ込んだが最後。神の悪戯によって、俺の人生は落ちて行くんだ。——完全にポジティブ思考を失い、階段で躓きかけた事ですら自分を哀れんでしまう。


「あれれぇ? 要(かなめ)くん、どうしたの。顔色良くないぞぉ?」
「本当だ! えっ、一緒に保健室行こうか?」
「もしかして、寝不足ですかね? 分かる、つい徹夜しちゃうんだよね。俺のゲーム仲間! 流石!!」


 突如として耳に入って来たのは、聞き覚えのある声。後ろへ振り返ると、やはり奴等だった。成程、確かに聞き覚え大有り。


「——じゃなくて! 何、何処を歩いてきたの!? 泥だらけ何だけど、その服!! てか、3人で喋り始めないでくれる!? 1人ずつ喋って!? 聞き取れないから!」
「要っち、耳が遠」
「違います!!」

 わざとらしく口元に手を当てる陽(よう)に否定する。人間、いきなり大勢に喋られたら動揺する生き物ですぅ。俺だけじゃないんですぅ。

「それで、保健室行くの? 要」
「は? いやいや、何しにさ」
「何しにって……体調悪いんでしょ」

 不思議そうに俺を見る直(なお)と、中々会話が噛み合わない。体調が悪い? 何処も可笑しくないんだけどなぁ。そんなに悪そうなのか? すると、今まで2人より数段下にいた満(みちる)が笑った。ん? こ、これはもしや……。


「まぁまぁ、本人がバカで判らないって言うならー。陽、どうすると思う?」
「はは、勿論」

「強制連行」


 満と陽の声が混ざったかと思えば、朝と同じ、勢いよく回り出す脳味噌に、俺は付いて行けなくなった。感じた事といえば、氷水の様に冷えた何かくらい。





 目を覚ました。……目を覚ました、はず。なのに、映っているのは真っ暗な世界。どういう事だ。開いているのに、何故まだ暗い? つまり、これは夢なのか? 全力回転した頭は、疲れてしまったのか命令を無視する。おい、ご主人様の言葉だぞ。一応。


「ん、あ、起きた! 要が起きた!!」


 黒で塗り潰された世界が、色付いたと理解した時、もう直が大声を出していた。ああ、そんなに大きな声で叫ばないでくれ。眠りから目覚めて直ぐ何だよ。カーテンを捲り顔を覗かせた満と、生き生きとした顔で飛び込んだ陽を見て、溜息が自然と漏れた。

「要さ、昨日全然寝てないだろ。表情で判るんだよ」
「自分の事になると、溜め込むからねー。此処へは、俺と直で連れて来たんだよ! 満だと大へ——ごふっ」

 話さなくて良い、と笑顔で腹蹴りをする満。うん、変わらない。夢じゃない。起き上がると、温くなったタオルが落ちた。多分、水に浸けて額に乗せていたんだろうが、俺の熱で温まってしまった様だ。

「もう少し横になってなよ。辛いでしょ?」
「授業が」
「はー、真面目だねぇ。そんなの休んどけば良いんだって」
「………………待て、じゃあお前等は」
「えへへー、仮病かなぁ」
「何してるんだよおおおぉぉぉぉ!!」


 でも、こんな変な奴等だけど、一緒にいて楽しいと思う俺は、満の言う通り馬鹿なのだろうか。……俺を楽しませている方が、単に凄いだけかも知れない。運が悪くて、毎日凹んだりする。だけど、明日が来るのは決して嫌じゃないんだ。恥ずかしくて言わないけどさ、心の底では深く感じてるよ。


「友になってくれて、ありがとう」





 後日。俺が急に眠った理由が『満に首を狙われて気絶したから』だと直から笑って聞かされ、見知らぬ人に止められるまで追いかけ回したのは、また別の話。





【 友と呼ばれるまでも無い。 】の番外編? 続編? まぁ、そんな感じです。前回は散々要を弄ったので、今回は弄らない様にしてあげよう、と思っていたのに。書くと、どうなるか予測不可能ですね! ははは。許してくれ。そもそも、要っていうキャラが弄られ系なので、こういう風になるのは仕方ないと思うんですよ(開き直り)。此方から読む方もいると思うので、前回とは続いていません。要がどんな顔でゲームするのか、書きたかったけど、満足しています。うん。