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Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.44 )
日時: 2015/06/04 07:02
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)

【 傷痕 】

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『意気地なし』。その言葉が、今の僕に相応しいと思った。流れている星を追いかける勇気もないくせに、手放す覚悟から目を逸らす。馬鹿馬鹿しい話だね。





 今日の君は機嫌が良い。何かあったのだろうか。訊いてみる? もしも、聞きたくない答えだったら。閉じた扉の前に立ってみても、抉じ開ける為の鍵は落ちた。君の傍に行きたいけど、方法が脳なしの僕には解らない。隙間風から温度を感じるだけで満足出来た。


「おはよう、優(ゆう)。可愛いね!」
「うわ!? ちょ、いきなり伸しかからないでよ。重——すみません」


 何か寒気がするなぁ、何て思った瞬間、視界が真っ暗に塗り潰されたから、叫んでしまった。見えていないけど感じる突き刺さる視線が、抜けなくて困る。飛んで来たのは誰か。そんな事解っているけど、指で塞がれては何にも言えない。

「……うぅ」
「何て言ったのかなぁ? あたし、耳悪いから聞こえないの。もう1回」
「は、離してって言ったの!」

 左右に頭を振って、脱出する。危ない。振り向いて睨み付けると、彼女は男みたいに声を出して笑った。何が面白いんだか。僕は理解したくない。太陽に似た笑顔が、擽ったくて直視出来なかった。

「ははは、そう怖い顔しないで。元気がなかったから、弄りたくなっただけだよ」
「謝る気ある?」
「なーい」

 眠いのか、背伸びをしながら僕の背中を叩く。……幼馴染を、こんな使い方しないで欲しい。溜息が漏れるものの、反論する気力は持っていないので、無抵抗。小さい頃からずっとこうだった。彼女——ルイに振り回されて、気付けば尻拭い役。いい加減にしてくれ。人使いが荒いのは知っている。だけど、友人がいなくなってしまうのではないか、心配しているのも確か。現にルイは、女子グループに所属していない様だし。休み時間は僕以外、一緒にいる所を見た事がない。大丈夫なのだろうか。性格的に合わないだけかも知れないけど、馴染んだ方が色々良いと思う。


「ルイも女子といれば良いのに」

 
 呟いた声に反応したのか、急に止まる。先を歩いていたので、危うくぶつかる所だった。文句を言おうと口を開いた時、ルイが此方を向く。下を見ているので、どんな表情をしているのか判らない。もしかしたら、怒らしてしまったかも。弁解したいが、言葉が出て来ない。予鈴が鳴ったのを理由に、ルイと別れて教室に入る。初めて、ルイと違うクラスで良かったと思えた。





「遊園地? しかも明日?」
「うん。土曜日だし、丁度良いじゃない。予定ないんでしょ」

 哀れんだ瞳に苦笑した。上から目線過ぎる気が……、まぁ合っているんだけど。それにしても、痛いところを突いて来た。ルイも同じだと思えば。広告を読み終わり、2つ返事で答える。今だけなのかも知れないけど、傍にいられる事が、少し嬉しかった。





 騒がしい人込みの中で僕は、一体何をしているんだ。息が切れて、上手く呼吸が出来ていない。汗ばんだ手を、眩みそうになる太陽へ伸ばした。胸に溜まった何かが、千切れてしまいそうで痛む。どうしたら良かった。答えてくれるはずのない相手に問いかけ、また走り出す。——教えて、こんな僕にでも。