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Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.45 )
日時: 2015/06/04 07:03
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)


【 傷痕 】

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「凄い、ね」
「来てみたかったんだ。前から」

 目を輝かせて飛び上がる彼女。うーん、何だか絶叫系ばかり設置されていると思うのは、僕だけか? 溜息と混じって、朝食まで吐き出してしまいそうなので、思わず口に手を当てる。そんな僕に気付いてなのか、無意識なのかは知らないが、ルイは悪戯っ子みたいな笑顔を見せていた。





 正直、乗ってみるとそこまでではなかった。だから、回転最中に悲鳴何て1度も上げなかったし、胃が空っぽで空腹感を味わう事もない。全ては計算通りに進んでいる。


「優ってば! もう、体力ないからー。女か」
「放って置いてよ。気持ち悪いの……むぐぐっ」

 言いたい放題の幼馴染の口を閉ざしてやりたいが、頭痛が酷くてそれ所ではない。ああ、だから慣れない乗り物は止めた方が良いって言ったのに。もう1人の自分が、呆れて顔を引き攣らせる。仕方がないじゃないか。息切れしている間に、腕を引っ張られて並ばされたのだから。お腹が痛い。トイレは込んでいるし、帰りたい。

「ほら、次行くよ!」
「えええぇ、嫌だぁ」

 これ以上回ったら死ぬ。無理。ギブアップの印に、一瞬両手を交差させる。世の中の人達は、こんな物どうして乗られるんだろうか。不思議過ぎる。首を傾げ、優しく笑うルイと目が合う。嫌な予感しかしない。

「早く立って! 新しく出来たジェットコースターに乗るんだから」
「ジェットコースターなら乗った」
「口答えしない!!」

 鋭く睨み付けられて、必要のない苛立ちが襲った。……何で、命令されなければいけないの? 確かに僕はルイの幼馴染で、一緒にいるよ。だからといって、忠犬じゃない。上に立たれる筋合いもないんだ。

「ねえ、聞いてる? 早く」
「煩い!!」

 そもそも、僕が此処に来なければいけない理由って何。無いじゃないか。振り回されて、笑われて、どうしてこんな目に遭う。謝ればすむ事だったのに、止められない感情があって。痛い、痛い、痛い。


「——幼馴染だからって、何だよ」


 振り絞る様に出た言葉は、彼女じゃなくて自分を傷付けるものだった。空っぽの胃が縮んだ気がして、苦しい。今なら間に合う。謝ろう、きちんと言えば伝わるはずだ。


「ル」
「何……、あたし達って『ただの幼馴染』なだけだったの。優にとって、どうでも良い存在だったんだ、あたし。そう、そっか。へー、いてもいなくても変わらないのか。解ったよ! 馬鹿!」

 
 初めて聞いた涙声に、吃驚して顔を上げると、落下して行く雫がスカートに染みていた。震えながら握る手の甲で拭えば良いのに、叫び終わると拭かず、人の山へ消え去る。

「ま、待って」

 突然の事に頭が付いて行けていなくて、やっと言えたのがそれ。音が遮断され、静かになった遊園地が、人とぶつかった事で騒ぎ出す。追いかけなくちゃ。何処へ行ったかすら分からないのに? それでも、それでも。凍り付いた足を懸命に動かす。誰かではなく、僕が傍にいたいから。


「ルイっ」