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Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.58 )
日時: 2015/06/01 18:52
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)



【 花蜜、それでも 】


「ほんと、これが最後だから! 俺のお願い聞いて—。親友でしょ?」
「却下。お前の願いは疾うに聞き飽きたっての。そもそも、人を振り回す奴が親友な訳ないだろ」

 どうやって見つけ出したのかは判らないが、俺が買ったポテトチップスを、許可無しに食べている男へ目を向ける。それ、カロリー高いのに……沢山食べて太っても、俺は知らん。自業自得だ。溜息しか出て来ないけど、結局毎度聞き入れてしまうんだな、これが。シーツが洗濯したばかりだというのに、油分が染み込んで汚れていた。どう責任とってくれるんだよ、今直ぐ買って来い。

「聞いてくれるんだー、やったー、嬉しいなー」
「その前にシーツ買いに行け。棒読みも止めろ。それ以上したら聞かない」
「またまたご冗談を。バレバレですよ?」
「冗談言っていない」

 本棚から取り出した漫画を読みながら、頼む気あるのか不思議に思うくらい、爆笑している。因みにバタ足させながら。慣れているので、別に苛立ったりはしないが、此処まで来ると鬱陶しい。クーラーで冷えた室内へ、度々遊びに来るその癖。昔から言っているのに直らないけどさ、そろそろ本気で直した方が良いと思う。もう17だし。

「あー、やっぱリンの家は居心地良いよなー、楽しいしー、お願いも聞いてくれるか」
「伊吹(いぶき)」

 名を呼ぶと、先程の笑みを崩しながら「……ばれちゃった?」と言う。何時ものと声が全く違う、低い。最初から分かっていた。何年お前と一緒にいると思っているんだ。俺を舐めるなよ。


「お前が強請るのは、必ず何かあった時に限る。無自覚だとは言わせない」
「そうだったんだ、へー、知らなかったなー、はー」
「…………」


 わざと言っているな、コイツ。でも許してやるよ。悲しみを隠そうとした強がり、残念ながら俺は嫌いじゃない。だから、気付かないフリをしてあげる。


「言いたくなければ、言わなくて良い」
「いやいやいやいやいやいや、言う、言いますよ? てか、言いに来たんで。言わずに帰らないからねー」
「……親父さんか」
「おいおい、言うって言ったでしょ。無視しないでー。泣いちゃうよ? ねえ泣いちゃ」

「————じゃあ泣けよ」


 辛い日は、思う存分泣けば良い。苦しい日は、その胸の中身を晒して良いから。俺が半分支えてやるつもり、悪いけど独りにはさせないよ。そんな事したらお前、きっと笑って涙するんだろう。現に今、俺の目にはすすり泣く男が見えているのでね。慰めたい訳じゃない、けど、2人で分かち合えたら、と俺はさ。冷たい水滴が落ちて来て、喉が渇いていた事を思い出す。……これといって、特別な日常でもない。平凡で何処にでもある一瞬の煌めきに過ぎないのに、様々な輝きを持つ。それを先の未来で一緒に見たい。ただ、見たい。

「いやぁー、泣いた。久しぶりに泣いたー。目が痛いわー」
「それは………………うん」
「何もなしかい!」

 最高、と床を叩いて笑っていた。全然面白くないのに。まだ赤みの残る瞳が、差し込む日差しを拒む様に細くなった。ポテトチップスを食べ終わり、漫画も読み終えて満足したのか、ゆっくりと立ち上がる。黒と茶の混ざった髪を掻き毟って、考え込んだ表情になると、人差し指を立てた。

「よーし、この間出来たクレープ屋に行こう。そうしよう」
「は? 何の話だ」
「お願いだよ、お願い。なになに、まさか俺の泣き顔が可愛過ぎて忘れちゃったー?」
「死ぬか?」

 睨みを利かせれば「冗談だって」と鼻歌を歌う時みたいに軽く終わらす。何時も通りと言いたい所だが、そんな寂しそうに笑われたら断る気にもなれない。何だか操られている気分で、楽しいとも言えないんだけど。

「リンったらー! 早く支度してよねー。閉店しちゃうじゃん」
「はいはい」
「『はい』は1回ですよー」

 踊りながら先を行くお前の後を、小走りで追いかける。
 間に合えば良いな、そう思いながら。





 正反対な2人が、兄弟みたく過ごす日常を書きたかった。
 伊吹は不安定な家庭で育ったので、滅多にいないレベルの甘え下手になってしまうが、1歩後ろで見守ってくれるリンが救いの手を差し伸べる。何か友情って良いですね(( 本当に苦しい時は、誰かに相談するのが1番だと思います。溜め込んでしまうより。