コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 星屑チョコレート【短編集】8/29更新 ( No.64 )
- 日時: 2015/08/30 08:57
- 名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)
【 夢想の在り処 】
君だけで良い、他には何も要らないから、僕に下さい。その全て。
「久しぶりだー。はは、疲れちゃった」
「うん、僕も疲れた」
膝に手を当てて肩で息をする君は、汗が伝った頬を上げて笑った。安心するその笑みを見て僕も笑う。さっき上がって来たのは、小さい頃よく遊んだ公園へ続く坂道。急斜面になっているので、かなり辛い。特に平らな道を歩いて帰る僕等は。公園に着くと、疲れが吹っ飛んだのか小学生みたいになって、走り回る君。何だか時が戻った気分で僕も楽しくなる。ここ最近部活が忙しくて君と遊べなかったから、嬉しいっていうのもあるけど。
「見付けた! 四六時中、日光が当たる場所。よく此処で寝ていたなあ。日光浴! とか言って」
「本当。木々が随分増えたし、なくなっていると思ったのに……ってうわ!」
急にズボンを引っ張られて、そのまま転ぶ。痛いんですけど、どうしてくれるんだ。まあ草がクッション代わりになったから、そこまででもないんだが。横になって大空を眺めている君が綺麗に思えたので、痛みも制服もどうでも良い気がし、隣に並ぶ。今日は雲1つない快晴。透き通った水色がやけに近いと感じた。耳の傍で聞こえた音に驚いた瞬間、生温かい何かが左手に触れる。
「えっ」
「何かこうしていると、小さい私になったみたい。そう思わない?」
「…………そうだね」
繋いだ指の優しい温もりが照れ臭い。君は全然思っていないようだけど、此処で駆け回った日から10年と少し。変わったのか変わっていないのか、今でも一緒にいる僕等。友人にからかわれる事も多々あった。だけども、嫌だとは思わなかったし、君も嫌そうには見えなかった。変化するのは建物くらいの日常を、君はどんな風に感じているのだろうか。
「今、思い出したんだけどね。卒園の時にさ、将来の夢を訊かれたの。憶えている?」
「あー、何かあった。そういうやつ」
「番が来るまで考えていたの、決まらなくて。でも結局決まらないまま、私の番になって。焦っていたら偶然、咲(さく)ちゃんと目が合ったの。咲ちゃんがいる、そう思ったら安心してさ。私言っちゃったんだ。『咲ちゃんのお嫁さんになる!』」
早口で言うから相槌が打てなくて、きりの良い所で喋ろうとしていたら、何か大変な事を言われた気が。
「……ごめん。もう1度言ってくれる? 最後の方」
「ん? 『世界1大きなお城に住んで、咲ちゃんと2人で幸せになる!』の所?」
「言葉! さっきと違うよね! 僕の聞き間違いかな!?」
「そうだっけ? 咲ちゃんの間違いだよ」
「嘘おっしゃい!!」
溜息と混じる声に、君は不思議そうな顔をして恍ける。気付かれていないとは思っていないだろう。このまま言い合いを続けても、無駄になるようだ。ここら辺で止めておこう。
「咲ちゃんは何て言ったの?」
「僕?」
「そう。咲ちゃんの憶えていないから、聞きたい」
「何年も前の事、憶えていないよ」
「今直ぐ思い出して! さっ」
「無茶言わないで。僕はマオみたいに記憶力ないし」
やる気のない僕が面白くないのか、背を向けて草を毟り始めた。……分かったよ、思い出せば良いんだろ。でも残っているかなー。唸りながら記憶を出来る限り辿る。確か、確か僕は……。
「あ」
「何、思い出したの!?」
口から漏れた声が届いて、嬉しそうに起き上がる君に「思い出していないよ」と嘘を吐く。
「嘘だー。絶対嘘だー」そう肘で突いて来るが、僕は嘘を吐き通す。何があっても吐き通すつもりだ。何しろ君と同じ夢を抱いていたなんて、恥ずかし過ぎて可笑しくなりそうだもの。
*
無自覚カップル。
咲とマオは、そこらのカップルより(無自覚で)甘い事をしちゃいそうです。こういう距離感が堪らなくて、周りにカップルがいないか観察するのが癖になりました。もうそろそろ誰か来てください(涙)。