コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.74 )
日時: 2015/11/21 14:06
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)

【 脳内恋文 】


 脳の内側だけで満足出来ない? 
 ならば、その内側を崩してしまおう。





 やさしい感情で溶かして。液状の言葉なら、その中で生きていけると思うんだ。勇気を振り絞る勇気も持たない私の願い。
 1日というのは案外長いもので、私に勇気を与える時間をくれる。授業中、様子を窺っていたら目が合ってしまう。瞬間逸らす私は変な子だと思われた。もうすぐ席替えがある。そこに賭けてみてもいいかも知れない。喋るのが上手ではないけど、近くにいる事がなにより嬉しいから。
 休み時間は毎日、お母さんから貰った本を読んでいるね。友人さんと話しているのを聞いちゃったんだ。盗み聞きじゃないよ、ごめん。他の人より少しだけ大人っぽい雰囲気がある。だから話題も用意しておかないと、もしもの時の為。もしも、はないだろうか。願ってしまう私は可笑しいのだろうか。可笑しいなら、どうすればいい。許せない、いるかいないか不明の私。

「セン! 帰ろう」
「わ、和都(わと)くん、ごめ、準備する」

 こんな私でも相手にしてくれる人がいる。和都くんだ。小さい頃から手を差し伸べてもらってばかり、本当にいい人。帰り道相談でもしてみようかな、和都くんならいい案を教えてくれそうだし。





 最悪、最悪。明日提出するファイルを置いてくるなんて。きっと誰もいない。ああ和都くん先帰っているかな。待たなくていいとは言ったけど、和都くんのことだもの、待っているだろう。謝っても自分が許せない。4階まで駆け上がり、教室が見えてきた。ドアを開くはずだったのに固まり開けない。


「っ! 宮苑(みやぞの)か。なんだ」
「ファイル取り、きて、ごめん、ま、まさか泣いているとは」
「いいよ。謝られた所で見られたんだし」


 流れる涙を制服の袖で拭う姿は、美しく悲しかった。理由を尋ねようとしても声が出ない。ただ突っ立って見ているだけの私をどう思ったのだろう。自分の泣き顔を見られているんだ、いい気分ではないはず。立ち去ってあげたい、でも身体が言うことを聞かない。離れてもいけない気がする。我が儘考え。

「ほらファイル。帰りなよ、暗くなる」
「だけど……」
「帰ってよ!」

 放たれる言葉は嗄れていた。沢山泣いたんだろうね。だから独り残して行けないよ。自己中心的だって理解している。酷い私がいたって嬉しくない、のに。





「優秀なのが、怖い?」
「うん。……笑っちゃうよね、こんなの。褒められると皆が遠くなる。距離を開いて届かない。近くにいたって」


 初めて見た一面。大人っぽいと思っていたけど、本当は私や他の人と変わらないのかも知れない。ずっと雰囲気に惑わされ、知ろうと思わなかった。半分で知ったつもりをして。左右に分かれた道。和都くんが待っていたら、きちんと謝ろう。許せるかは別で。

「俺、こっち」
「私は左だ。じゃ、じゃあ明日」

 手を振ってくれた。私も振りかえした。……良いのか。これで。結局何もしてあげられないまま。泣いていた、悲しいから。多分あの様子を見ていたのは私しかいない。胸の内を知っておきながら。


「——あの」


 上手に伝えられなくても、伝えないより良いじゃないか。それで救われるのなら。立ち止まって振り向いた。今、今しかなかったら、他に気付いてあげられる人がいなかったら。


「わた、私! 嬉しかったです! 今日、知ることが出来て! 私は、な、なんの支えにもならない、でも、よかった! 忘れ物をして、初めてよかったって! だから……」
「だから……安心して」


 一瞬驚いたような顔をして、笑う。何か言ってくれた。聞こえなかったけど、笑顔だった。来た道を走り抜ける。一生で1番の走りだと思う。「よかった」って嘘じゃないよ。
 脳の内側が音を立て始めた。





 必死に青春している生徒の話。
 ものを大切にする人っていいと思います。このまま彼女には外側を突っ走ってもらいたいです。