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Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.77 )
日時: 2015/12/19 10:28
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)



【 WOLF 】


 泥水が体内に入っているからか、絞られた声。聞きたくもない雑音と混じる。視界が閉じていくので片手で擦ったら、血痕だらけで赤になってしまう。上手くいかないもんだ。歪んだ曲線で浮かぶ人体。まだいたのか。こんなにも醜くなってしまった。頼み入れてもらえはしないだろうが、見てほしくない。願いは空しく、届く前に掻き消された。触れられた所から伝わってくる温かみ。何故なのだろう。この手に触れられた事が懐かしく思える。やさしくて、壊れてしまいそうな小さな手に。


「やんちゃ坊主は相変わらずね。久しぶり。憶えているかな」


 細道に響く、何処か小馬鹿にしたような笑い方。やはり聞き覚えがある。生憎、顔を判別するのは出来ないが。
 雨が止んだ。いや違うな。音が聞こえる。「これでもう濡れないね」と血痕で汚れた手に、棒みたいな物を持たされた。状況を理解出来ず、それを眺めていたら、冷えた服に被さる何か。

「シャツ1枚じゃ寒いよ。私のコートあげるから着て。あとはその血を——」
「な、んで」

 そこまでするんだ。呼吸をするのも疲れてきて、最後まで言えない。打たれていた雨が傷に沁みて、頭が重くなる。「……それは」


「君が私を護ってくれたからだよ。憶えてはいないようだけど。だから今度は私が護る」


 掠れた笑いに瞼を閉じる。護った、人を、誰が。
 隅へ置き去りにした記憶だ。よみがえるはずもない。開けようとした瞼に不思議な感触がした。やさしく、壊れてしまいそうな手と似た。頬を撫でている。汚れてしまっても構わない、とでも言いたいのだろうか。


「危険で冷たい狼さん。私を食べていい。だから泣かないで」





 イラストにしようと思って考えた話。
 ただただ君を想って生きていく。