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Re: 星屑チョコレート【短編集】 ( No.78 )
日時: 2016/02/17 17:52
名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)


【 隣のあなたは今日のてき 】


 腹が立つ、勉強に集中できない、怒鳴り散らしたい、これも全部あいつの所為だ。頭を掻いて舌打ちをする。授業で使うプリントを隠されて、結局怒られた。廊下に立たされたわけではないが、思い出しても逆恨みとしか思えないので、怒りが静まらない。

「ふざけるなよ。馬鹿」

 普段なら早起きして物を盗むか、蹴り飛ばしている。だが何故か今日に限って風邪をひいたらしい。熱もあるようで、午後病院に行くとも言っていた。はっ、罰が当たったんだ、と嘲笑する自分もいる。しかし逃げられて悔しい自分もいたりして、胸の中が掻き混ぜられる。

「あー、もう」

 仕方がない。あちらから先に攻撃してきたんだ。正当防衛で悪いのは私じゃない。





「おい」
「……んー?」
「何しているんだ」

 ドアを閉めたと同時に問う。母さんが“風邪っぽいの。騒がないであげてね”と言ったから机に当たっていた。なのに映るのは、ベッドで横になっていると見せかけ、携帯ゲームに夢中な男子中学生。どこが風邪だ。健康そのものだろう。

「寝ている……」
「寝ながら喋るのお前は」
「そう寝言…………ってあれ、トウマ」
「誰だと思ったのさ」
「宇宙人」
「一生寝させてあげる」

 私には目もくれず指で画面をなぞる。半分は寝ているような声だ。既に寝ているのかも。ベッドへ近付く。反応はない。気にしていないのか。枕を顎の下で固定していて、小さな顔が更に小さく見える。プリントを返せ、そう言ったところですんなり返してはくれないだろう。だから、腹部を蹴った。強めに。でも欠伸をしただけで痛くなさそうな表情。今、母さんが来たら面倒臭い。私が悪者扱いされる。色々考えた結果、やっぱり本人から聞き出すのが1番。まあ答えてくれる可能性は、ごく僅かだけども。

「そら。いい加減言わんか」
「何を」
「わかっているくせに」
「僕の高級プリン食べたこと忘れた?」
「名前が書いてあったわけでもない。根に持ち過ぎ」

 そらは、口をへの字に曲げ、心外だと形態の電源を落とす。起き上がるかと思いきや、テーブルに置いてあった新品のマスクを着け、またも横になる。——なにか企んでいるな。直感的にそう思った。挑発してみようと大きな声でわざとらくし手を口に当てる。

「そらが物を隠しちゃうような子だとは……。泣くよ、私」
「どうぞ勝手に」
「たかがプリンを食べられたからってさあ。悪気もないんだし」
「そのわりに量が多いよね。1日で5個はないでしょ。5個は」
「美味しかったのがいけない」
「認めた? 悪かったと認めた?」

 不気味に微笑むそらへ、うるさいプリント、と言い返す。ついでに枕を取り上げ、投げる真似をしながら。知らない、諦めな、そう口の動きで表しているのを感じ取る。“諦める”なんて私の脳内辞書には書かれていない。だから吐かせるために、嫌な笑みを浮かべた。自分でもわかるくらいはっきりと。そらのほうこそ、さっさと諦め……。

「こらトウマ。入っちゃだめでしょう。そらが寝ているんだから」
「母さん! 何言って……そらなら起き」

 振り向き言い争いをしていた相手を見る。が、なんとそらは“静かにしてよ”とでも言いたげな顔をし、寝ていた。一瞬、頭の中が疑問符で埋め尽くされた。けど数秒も経たずに理解する。ゲームを中断してまでマスクを着けた理由を。この野郎。

「どこまで怒らせれば気が済む!!」
「それは母さんのせりふです」

 昼食を作っていたのか、エプロンを着けたままの母さんに連行され、そらの部屋を後にした。ドアの隙間から見えた、勝ち誇るそらの嬉しそうな笑顔に、今まで我慢していたものが全て外に出た。

「1発食らわせてやる……!!」
「やめなさい。トウマ」

 こうして今日も今日が消えていく。だけども、次の今日を待つのが嫌ではないんだ。癪だから嫌なふりをして、これもあいつの所為にしよう。そうしたら恥ずかしさが少しは紛れる。


**

 
 喧嘩ばかり繰り返す反抗期まっただ中の双子。
 どうにもこうにも好けないはずが、隣にいないと寂しいなんて、あいつの所為。