コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第一話 に ( No.5 )
- 日時: 2015/04/03 15:16
- 名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: h5.UUysM)
彼は籠本寺一〈ろうほんじ はじめ〉といい、その三文字の苗字と一という名前で、子供の頃は名探偵と言われ続けてきた。この世にうちの家系くらいしかいないくらいの珍しい苗字だが、彼はその苗字を気に入っていた。
「次の方。宮口さーん」
慣れた口調で言うと、手がしわしわの老人の男性が、少し腰を曲げて入ってくる。
「どういたしましたか?」
籠本寺が聞くと、少し間を置いてから宮口という老人は口を開いた。
「なんだかダルくてさあ。嫌んなっちゃうよな」
老人は頭をぽりぽりとかいて、ため息をつく。
「とりあえず診てみますね。お腹出して下さい」
そう言うと籠本寺は首に掛けていた銀色の聴診器の二つに分かれている方を耳に当て、その先に繋がる一つの方を手に持つ。老人は、天気予報で寒めな秋の一日と言っていたにも関わらず着ているTシャツ一枚をぺろっとめくった。
籠本寺が手に持った聴診器を老人の心臓の方に当てる。
「……これ、意外と冷たいもんだな」
「朝早いですからね。暖房付けてるんですが、なかなか暖まりませんね」
話しながらも聴診を続ける。トクントクンという心臓の音はあまり問題ないように思えた。
「背中向いて下さいね」
「はいよ」
老人は背中を向く。さすがに背中側のシャツをめくることは出来ないので、籠本寺がめくった。そのまま聴診器を背中に当てると、変化は感じられなかった。
「はい、もう戻っていいですよ。では喉を診ますからね。あーと言って下さい」
老人はまた籠本寺側を向くと、口を少し開いて、あーと言った。
籠本寺は手にステンレスでできた薄っぺらい棒、舌圧子〈ぜつあつし〉と、これも経費削減の為にリサイクルショップで買った電池入れ式の黒色と銀色ペンライトを持ち、老人に近寄る。
「はーい。あーですよ」
老人が少し口を開いている隙に、籠本寺は素早い手付きでペンライトに電気を点け、舌圧子で舌を押さえた。喉の奥にある扁桃腺〈へんとうせん〉を見たが、腫れている様子は無い。
「はい。もう大丈夫ですよ」
舌圧子を使用済み器具用トレーに入れ、ペンライトの電気も消すと、少し考えてから診断を出した。
「風邪や、その他の病気ではないようです」
すると老人は少し驚いた素振りを見せて、言い返した。
「じゃあ、なんなんだよ」
「心の病気ですね。僕はカウンセラーではありませんが、最近何か困った事あります?」
老人は「ほう」と呟いて、少しうつむきながらも話を始めた。
「ここのお医者さんはいいと聞いたが、本当だったな」
籠本寺の診断は心の病気、しかも家庭の事情という事だった。老人が話したのは、全てその通り。
老人は子供と孫の三世代で住んでおり、そこが原因だという。
「それでな。……あ、あのな。」
「あ、話し辛いならもういいです。ちょっと左手を見せていただけますか?」
少し驚きながらも左手を伸ばす老人を見てから、左手に目を移す。老人の手を取ると、すぐに二回目の診断を出した。