コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第一話 よん ( No.9 )
日時: 2015/04/10 20:04
名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: h5.UUysM)
参照: 参照100 Thank you so much!


 経理担当の大森は極度の完璧主義者で、整理整頓なんかにも力を入れている。道案内も彼の担当で、一番近いルートをきっちり調べてくれる。大雑把な籠本寺には、なくてはならない存在だ。
「そこの信号のところ、左折です。あ、そう。昨日、診察室が汚かったですよ」
「そうか? 綺麗にしたつもりだったがなあ」
「だって……なんですか、あのトレーの中! どうしたらあんなにごっちゃごちゃにできるんですか!」
「ただ投げただ──」
 籠本寺の投げたという言葉は、大森の逆鱗に触れた。
「な、投げたってなんですか。北海道弁かなんかですか? もしかして、捨てたんですか?」
 籠本寺は素早く大森から距離をとり、まあまあとなだめる。怒り気味の大森を連れて行くのは危険と踏んだ籠本寺は、
「アイス奢るから……」
と、子供さながらの発言。
 しかし、大森は奇跡的に、
「え? いいんですか? じゃあチョコですよ、絶対ですよ」と、乗ってきた。
 こうしてなんとかその場をやりきった籠本寺はふうと一息ついた。
(やっぱりアイスは最強だ)
 それは、籠本寺が同時に思った事だった。

 大森の完璧なエスコートで、一度だけ少々道を逸れたが、すぐに宮口宅に到着した。宮口宅は、純和風の、玄関に門まである立派な家だった。インターホンを鳴らすと、何も応答が無かったが、まるで入れと言うように門が勝手に開いた。
「ほう。自動かあ。なかなかいいつくりだね。そう思わないか、大森」
「うちにも自動ドアくらい付けたいんですけどね。ま、そんなお金ありませんから」
 二人は三メートル超の門をくぐると、そこには綺麗な枯山水庭園と、やはり純和風の二階建てくらいの建物があった。
 左手に見える枯山水庭園を大森が目を輝かせて、籠本寺がじっくりと見ていると、建物から一人の女性が出てきた。東京には似合わない真っ赤な着物に身を包んでいる。歳は、四十代前半くらい。京都にならいるだろうか。化粧もしっかりとし、とても綺麗だ。
「遠いところ、お越しいただきありがとうございます」
 女性はそういって軽くお辞儀をした。
「いえいえ」
「こちらにどうぞ」
 大森の声が聞こえなかったのか、知的な大森の第一印象がきにいらなかったのか、大森の言葉に少し被せてから女性は家の中へと招き入れる。枯山水を後にして家の中へと入ると、ここも立派な玄関だった。正面には違い棚に、松の盆栽。二人が靴を脱ぐと、女性はその靴を整えてから、こちらですと言い奥へと進んだ。
「先日は父がお世話になりました」
 と、言うと立ち止まり、回れ右をして障子をスッと開けた。
「こちらでお待ち下さい。父をお連れ致します」
 二人が部屋へと入り、置かれてある机の前に並んで座ると、女性は一礼をし、また障子を音も無くスッと閉めた。