コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第一話 ろく ( No.11 )
- 日時: 2015/04/17 18:04
- 名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: h5.UUysM)
女性は所々壊れていて、ガムテープで補修してある引き戸をノックする。そして、強い口調で「はる。入るわよ」と言った。部屋のなかからはロックだろうか、音楽がかなりの音量で流れていた。
籠本寺は一度深呼吸をし、トントンとノックをした。中からの反応はやはり無い、というか聞こえないのかもと籠本寺は思った。もうこうなったら、籠本寺はドアを開けて、部屋の中へと入っていった……瞬間。
「うわぁっ!」
中にいた中一、十二歳の宮口の孫がいきなりこちらに殴りかかってきた。
「お、おっと」
間一髪のところでパンチをかわすと、体制を立て直した。これからの少年の行動。まずもう一発殴りかかってくる。そこで籠本寺がひらりと避けると、ついに誰かがわかって一瞬怯む。今回は危害は与えない様に、左腕を奪い、軽く関節技をかければ大人しくなる。はい、実践。
「うわぁっ……! うっ」
おしまい。少年はあっさり降参の意を示して「うう」と呟いた。
「こら、はる。本当に申し訳ないです」
「いえ。君がはる君だね」
「お前はどうせ、カウンセラーとかだろ」
少年は、自分の名前について否定も、肯定もしなかった。
「いや、違うよ。僕は医者だ」
「一緒だよ」と、少年が投げ捨てるように言った。まだ声変わりのしていない、高らかな声だった。
少年の母親である女性音楽を止めると、ドンドンと階段を上ってくる音が聞こえた。
「籠本寺先生。何がありました?」
駆け付けたのは大森と宮口老人だった。籠本寺はなんでもないと言い、少年の腕を自由にした。
そして、大森が「お母さんはこちらへ」と女性と宮口老人を部屋から連れ出した。
「──お母さんはいない」と、籠本寺が言うが、少年は無反応。お母さんはもういないのだ。それを伝えたかった。
籠本寺は部屋の隅に置いてある、黒と青のボーダー柄布団の一人用ベッドに腰をかると、話を始めた。
「はるくん。あなたの名前、違います?」
少年は、変わらず何も答えなかった。その代わり、少し俯いた。
「先にあなたの診断結果を言いましょう。あなたは、全治不能です」