コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第二 いち ( No.14 )
日時: 2015/04/27 21:34
名前: 占部 流句 ◆PCElJfhlwQ (ID: h5.UUysM)


 第二話 ー風邪と自分とー


 休日の患者訪問は呆気ない最後で終わった。その後、大森は籠本寺なアイスを買い、ちょっとした出費をしたことは言うまでもない。
 翌日からは、またゆったりとした日々が戻り、診療をする籠本寺は終始笑顔で対応した。
「そういえば、うまくいってるみたいですよ。はる君」
 時は夜の10時。清掃と明日の準備を終わらせた大森が、ロビーのソファーでくつろいでいる(と、いうか寝そうな)籠本寺にそう伝えた。
「そうか、良かった……」
 籠本寺はふわぁと大きな欠伸〈あくび〉をしてから、後ろにもたれた顔をサッと上げた。
「ん? いつ会ったんだ?」
「お母さんに、メールで」
 いつの間にか、と思う籠本寺を笑うかのように
「完璧主義なもんで。後の事が気になるんですよ」
 と、わざとらしく言う。
「お前は……」
「だから、患者さんとしてです。子持ちですよ?」
「ふふ。俺はそんなこと聞いてない」
 つい不本意な事を口走ってしまった大森は「うっ」と慌てて口を押さえて、
「先生、趣味悪いです」
 と、少し開いた指と指の間から指摘をした。


 翌日は日曜日であり、午前の診察で終了デーだ。籠本寺も大森も、数少ない午後からの休みを大切に過ごす日である。
「次の方。田中さんどうぞ」
 先程確認した時刻は午後1時少し過ぎ。この患者で最後だろうか。
 呼ばれたのは田中という子連れの母親。診察室に入ると、十歳くらいの子供の方が籠本寺の前に置かれている椅子に座った。
「お母様はこちらの椅子にどうぞ」
 立ったままの母親に、ベッドの横にある緑色の丸椅子を勧める。母親が座ったのを確認すると、籠本寺はカルテに目を通した。
「ええと、今日は予防接種ですね」
「はい」
 カルテには少し時期の早いインフルエンザの予防接種と記されていた。
 籠本寺が振り向くと、いつの間にか大森が立っており、またも細くなった注射用針を用意している。
「はい」
 素早く用意を終わらせると、籠本寺に針を手渡す。そして自分は止血用の小さいコットンと、誰でも知っている超有名アニメのキャラクターが描かれている絆創膏〈ばんそうこう〉を手にした。
「右腕めくって、力抜いてね」
 籠本寺は少年の腕の血管を探し、痛くないようゆっくりと、それでもって確実に針を刺す。
 注射をし終わると、すぐに針を抜き、大森がコットンで押さえる連携プレー。アニメのキャラクターの絆創膏を見た少年は半泣きで笑顔を見せた。
「はぁい。よく頑張ったね」
 大森は少年の頭を手でポンポンとし、絆創膏を腕に貼った。