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Re: 文才が切実に欲しい《短編集》 ( No.1 )
日時: 2015/04/02 18:01
名前: 未来 (ID: Qvwcv6K1)



 「誕生日と命日」



 私、前原由美には馬鹿な弟がいる。

 どこが馬鹿かというと、

 学力面から見ても馬鹿。

 行動面から見ても馬鹿。

 発言面から見ても馬鹿。

 とにかく馬鹿も馬鹿、大馬鹿なのである。

 早速今朝あった馬鹿弟のことを今誰かに話したくてしょうがない。



 ****


 
 二段ベッドの上が寝床の弟はいつも通り寝坊した。

 私が身支度を整えている中ようやく起床し、何を舞い上がっていたのが思い上がっていたのかテンションが高かったのが脳ミソがイカレてたのか知らないけど、
 
 『オレに不可能なことはない!!』

 と叫びながら床へとダイブしやがった。

 ゴン!!と大きな音がして、アホが何をやったのか大方想像ついていた私はそれでも多少は心配しながらぷるぷると悶えている弟の元へ向かった。

 何があったのか痛みを堪えて必死に震え続けている弟に問いかけると、飛行機に乗っている中友達に言われたそうだ。

 『お前、空も飛べないのかよー』と。

 夢だから可笑しな状況も可笑しな発言も見過ごそう。

 だが問題なのはそれに答えた弟の言葉だ。

 自我があり自由に発言も行動も出来る夢だったにも関わらず、友の言葉に可笑しいと疑いもせず、空ぐらい飛べるさ!!と返し飛行機から飛び下りたと…

 「…ほんとにバッカだねぇ〜あんたは」

 「…だって、飛べると思ったんだもん」

 「なんでよ」

 「なんだっていいじゃん!!」

 遂には逆切れである。

 これでも私と一つしか違わない中学二年の人間とは信じたくなかった。



 しかもバカだけならまだしも、こいつはかまちょだ。

 一人の時間が好きな私からしたら相性最悪である。

 考えてもみてほしい。バカのかまちょに構って構ってとアピールされ続ける苦痛を。

 話しかけてくるも、その話の内容が阿呆すぎて、それだけでも疲れる。イライラする。



 弟のバカさっぷりと愚痴不満は話し始めると止まることを知らないかのように次から次へと溢れてくる。

 だから弟のことは嫌いかと訊かれれば、しかし答えはNoである。



 あいつは近頃のクソ生意気なガキ共に比べたらとてもかわいく、優しい。

 特に小さな子供からの人気は絶大で、子供に苦手意識を持ち極力関わりたくないと考えている私は密かに尊敬しているくらい。

 勿論このことは絶対話すつもりはないけど。



 ****



 「おはよー由美」

 「おはよー楓。聞いてよー今日も弟の馬鹿大輝がさー!」

 毎日一度は弟の呆れる言動を友達に話すのが日課となってしまった。

 だけどうざったらしいと思っていたこの生活がとても面白みに溢れていて、大事で失いたくないものだったことに、その時の自分自身を殺してやりたいと殺意を抱いてしまうくらい私は全然気付いていなかった。































 私の誕生日プレゼントを買いに向かっている途中で車に轢かれたと知ったのは、大輝の死後から一週間後だった。

 誰かのお祝いやお返しなどに無頓着で行動が遅い大輝は、私の誕生日当日に家を飛び出して私へのプレゼントを探しに行ったと。

 それを知った時、いい加減枯れ果てたと思ってた涙がぽろぽろぽろぽろと溢れ出して止まらなくて。

 最低だ、と思った。



 プレゼントどころか、姉の誕生日を命日にしやがった弟に

 口にしなかったのにも関わらずいつ知ったのか、私が欲しかった本を手に入れようとしてくれていた事実に

 大好きな弟を轢き殺した車と運転手に

 大輝を殺す原因となった、私の誕生日に

 大輝にずっと冷たくあしらってきてしまった、私という姉の存在に



 頭では分かっている。分かっているのに。

 信号を守って歩いていた大輝もその日が誕生日だった私も何も悪くないと。

 法律上加害者となるのは車で、世間から見ても居眠り運転をしていた運転手が悪いと。
 


 でも、今私の胸中を占めるのは。

 大好きだったくせに素直に言葉で行動で表現せず、大輝に優しくしてあげられなかった私自身への憎しみでいっぱいだった。



 瞬間、悟った。

 私は私自身のことを、一生好きになれないことを。

 自分を憎みながら生きていくことを。



 「……大輝…っ!うぇ、っうぁああああぁ、ああぁあああああ…!!」

 抱きしめてくれる両親の腕の中で、疲れて眠ってしまうまで声をあげて泣き続けた。