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- Re: 文才が切実に欲しい《短編集》 ( No.3 )
- 日時: 2015/06/14 07:51
- 名前: 未来 (ID: 7pZrKn1X)
ドン、と思いっきり突き飛ばされた。
「ふざけないで」
聞こえてきたのは酷く冷たさの滲んだ声だった。
こいつのここまで低い声は初めて聞いた。
「私のことが嫌いなわけ?
だからからかおうと声掛けて、
意味不明なこと言って、
私を混乱させようとしてるわけ?」
あぁ、いつものこいつだ。ハキハキと物を言う、物怖じを知らない前原だ。
…相変わらずの鈍感っぷりだけど。
悲しいことに、俺の気持ちは一切伝わってない。欠片ほどにも。
……ざけんなこのヤロー。毒舌女。クソ鈍感男女。
無性にムカついてきた。
「あぁあもう!めんどくせーなぁ!!」
イライラと髪をかきむしる俺に、意味不明という気持ちを顔に貼り付け見つめてくる前原の表情は、中々見ないものをしていた。
刺々しさがなく、戸惑っているのがありありと伝わる。
「…ストレートに言うしかないか」
「っ…?」
すぅ…と息を吸い込む。
瞬間、(自分にしてはキザなことを言ったと自覚している)数分前よりも緊張していることに気付いた。
まぁ、そうだな。こいつと違って、本音とかそう素直に言うことないしな。しかもドストレートに。
ドクドクと重く鳴り響く心臓がうるさい。
「—俺はさ、最初お前のこと、ムカつく奴だなって思った。
口うるせぇし、殴ったりしてくるしそれが女のくせにすっげー痛ぇし。
でも言うことやること文句つけにくいくらい正しくて、
それがなおさらイライラさせるし」
「…なんなの、何が言いたいの」
眉間に皺を寄せてそう言った前原は、怒りを表しているというよりは、痛みを我慢してるような、そんな、あんま見たくない顔をしている。
「でも、お前って結構表情豊かなことに気付いたし、
すっげー甘いよな。お人好しっつーか。
本読んで泣くし、
告白には気付かないし、気付いた途端おろおろテンパるし」
「!?な、なんでそれ…!まさか見てたの!?」
おぉ、こいつのテンパる様子おもしれー。癖になりそうだ。
「たまたまだぜ、たまたま。
『うわあぁあ…!死なないでよお父さん…!』
『よがっだ…これで家族みんなで幸せに生きていけるんだね…』
とか」
「ああああああやめろ!!それ以上は言うな!!!」
一人だと思っていたんだろうその時のこいつの、本に呑まれてた時の涙ながらの言葉を告げると、途端に必死な形相で俺に掴みかかって来た。
だが断る。まだまだあるぜ。言い足りねぇ。
「付き合ってくれって佐藤に告白された時も、
鈍感人間のお決まりのセリフ『どこに?』だもんな。
テンプレすぎて笑い堪えるの大変だったんだぜ?」
「…っ!お前それまで見てたのかよ!
っだから…っ、もう言うなって言ってるだろ…っ!」
余裕がないんだろう、女の子らしくない言葉遣い。
…あぁ、やっぱり俺は、好きな子をいじめて楽しむタイプか。
いじめっ子の気持ちが、優越感が。とてもよく分かる気がした。