コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: A quirk of fate〜運命の悪戯、君に届けたい〜 ( No.35 )
日時: 2016/02/13 17:41
名前: 音宮 ◆93nWkRSozk (ID: PR3Fak4z)

11day —— at the morning —

 私が異世界に来て、三十六回目と思われる朝陽が私のまぶたの裏にとどく。日本と変わらず、この国にも小鳥がいて、今朝も可愛らしく鳴いているようだ。

 「麗様、おはようございます。お機嫌はいかがですか?」
タクトがもう当たり前のようにモーニングティーを入れながら私に聞いてくる。

 「大丈夫、とっても元気よ」
フフッと笑いながらそれを受け取ることから私の朝は始まって、その次に朝の散歩をするのもなんだか当たり前になってきた。
 本当は軍人で第二皇子親衛隊長という大きな役割を担っている彼と一緒にこうして散歩をするというのはあり得ない話だろうが、タクトは主人に従順だ。サイトの命令だからこうしていてくれるのだと思うと、胸のどこかで申し訳ない気持ちと主人の命令だからかという期待を外されたようなそんな気持ちがあった。

 「……麗様?」
ため息をつきながら石畳を歩いていると、眉を曲げて心配するような声と共にそんな瞳を向けてくる。

 「……タクはさ、どうしていつも私に優しいの?命令で動いているのなら、優しくしないで護衛だけしていればいいのに」

 いつからかタクトの噂は私の耳にも届いていた。私がいるから本来のタクの力が発揮できないのだと。扱きを使われるような役割ではないのに、私が来たから執事のような仕事までされて可哀想だと。

 「なぜ、そのようなことをおっしゃるのですか」
ようやくタクトの方を見ると、今にも泣きそうな顔でそんな疑問を向けられる。

—— どうして、そんな顔をするの。命令で動いている訳じゃないって期待してしまう。


 「……だって、タクトは本当はこんなこと!……私がいなければ、やらなくて済んだのにっ」

私も彼の顔につられてしまいそうになりながら、胸の苦しさを吐くように言葉を紡いだ。

 「……そんなこと、もう思っていません。もう俺はサイト様の命令で動いている訳じゃありません」

 「——え?」

いつになく真剣な表情で、一人称が”私”から”俺”に変わっている。
 そうか、今は従者の”タクト”ではなく、一人の”タクト”として話しているのかもしれない。

「……本当は俺が護衛をするのは一か月ということでした。ですが、麗さんと関わっていくうちに本当に護衛したい、ついていきたいって思えるようになったんです。最初はあまり受け入れられなかったのは事実ですが、現在は楽しんでこの役割をしています。麗さんのお世話がしたいんです」

 優しく私の右手を取ると、かしづいて甲にキスをくれる。そう、これは従順の証。タクトは無理に私についていてくれるのではなく、ついてきてくれるのだというものだ。もちろん、その答えは決まっている。この国で主従の関係の儀式を仮にも行った場合、主人はこういうのだ。

 『我は、タクト=ハーベルを従者として認める。よってそなたは今から我の従者で良いな?』

目を細めながらそういうと、タクトは”はい”とドイツ語で答えたのであった。

その様子を木の陰から見ていた人物は、やはり麗と同じくして彼の主人である第二皇子と彼の部下である。

「……とうとう結んでしまいましたね、サイト様」

上司が久しぶりに笑顔を見せながら契約を結んでしまったところを見て、そうつぶやく。いつか結んでしまうだろうと思っていたが、それが女性相手だったとは驚きだ。
 第二皇子でさえも彼は主従の儀式をしていない。自分はもう第二皇子としてしまっているが、タクトはもともとは第二皇女の従者。しかし、第二皇女様はもう一年前にこの世を去ってしまっていて、一年以上間をあけないと主従関係は結べないというこの国の方針から、タクトを仮に従者として受け持ったサイト様とはまだだったのである。

「……もともと麗の従者にするつもりだったからいい」
むすっとしながらそんなことを言っているのは、建前上であって、本当は自分が結びたかったのだとは言えない。

「……あ、サイト様、先を越されてしまって悔しいんですかぁ?」
クスッと笑いながらそんなことを聞いてくるマルセルに腹が立つ。

「うるさい、む、向こうに行くぞっ」
図星だった為、何とも言えなくなり黙らせながら俺はその場を去る。
背を向けていたせいでタクトが申し訳なさそうにこちらを見ていたのにも気づかずに——

Re: A quirk of fate〜運命の悪戯、君に届けたい〜 ( No.36 )
日時: 2016/03/27 13:07
名前: ・ス・ス・ス{ ◆93nWkRSozk (ID: PR3Fak4z)

11day —— in the morning —

 タクトと麗が主従の関係を結んでいるころ、ショウは現国王、つまり父親に呼ばれていた。

「父上。私に何用でございましょうか」

僕は玉座に座る父に傅いて(かしずいて)、父の言葉を待つ。
きっと、僕が招き入れた麗の事だろう。ずっと何もおっしゃって来られなかったから不思議に思っていたが……。

「用件は分かっているだろう。ショウ、お前が招き入れたあの客人の事だ」

どういうことだ?と言いながら口を開いた父の顔はきっと怪訝な顔をしているだろう。傅いているため、顔はうかがないが、声のトーンで何となくわかる。


「麗さんの事……ですか?麗さんの事は父上も承認ということで僕は理解していましたが」

もういい、面をあげろというお許しが出たので、初めてそこで父の顔を拝見する。予想通り、父の顔は厳しい顔をしていた。

「そうだ。彼女の事はもちろんここで暮らすことは許しているが、お前が婚約者候補に推していると聞いた」

内密にそのことは進めていたのに、いったい誰がと思いつつ、この際ばれてしまったのなら、言ってしまおうと思い、口を開く。

「はい。父上のご察しの通り、僕は彼女に惚れました。彼女を僕の妃に据えようと思っています」

淡々と告げると、父はますます厳しい顔をして、許さないという瞳を向けてくる。

「では政略結婚候補のエリザベータ嬢はどうする?婚約者候補を決める式典を開かなくともショウにはそういった姫がいるではないか」

美人で位も高い彼女らのどこが不満なのだというが、僕が求めているのはそこじゃない。


「彼女は特別なんです。彼女は僕の運命の人です。お爺様がお婆様に会った森で僕も彼女に会った……それは偶然ではないと思います」

そう、あの森で会ったことはまさに運命。
僕もお爺様のように彼女と結婚し、国を繁栄したい。


「……ショウ」

眉を寄せながらとがめるように僕に声を掛けるが、僕の意志は固まっている。


「僕の意志は決まっていますし、僕の結婚の問題なら僕自身が決めます」

用件は済みましたねと言いながら僕は何も言われぬようにそそくさと応急を後にしたのである。


「いつの間にか、私にも逆らうようになって……。成長したな、息子よ」

国王はふっと嬉しそうに笑いながら先ほどまで自分に傅いていた息子の姿を思い出し、そういった——