コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Rain ( No.3 )
- 日時: 2015/04/15 22:01
- 名前: 逢逶 (ID: 6nOSsJSp)
- 参照: http://0ja.jp/song/A2005111602.html
episode2
title イチオクノホシ
声を枯らしてまで伝えたい想いなんて無い。
そう思って生きている。
声が必要な仕事をしている。
私の商売道具は、ギターと声。
それなりに売れていて、音楽番組やフェスへの出演はほぼ毎日あって多忙である。
「続いては花火さんです」
それが私の名前。
爆発的な歌は歌わないけど、花火のように心に響く歌が歌えればいい。
司会者に紹介され、ギターを軽く弾いた。
「…ふー」
音楽番組の収録。
お客さんはいないのに、緊張する。
プレッシャーを感じているんだ。
少し震える声で、歌い切った。
「…お疲れ様でした」
収録は終わり、次の現場へ移動する。
マネージャーが運転する車は、凹凸の無い都会の道路を一定のスピードで走る。
不思議な心地良さから眠りについた。
「…花火!起きて!」
マネージャーに叩き起こされたのは、フェス会場に着いた頃。
眩しい太陽と青い空が、私を迎える。
雲ひとつない空に、手を合わせてフェス成功を祈る。
〝天には神様がいて…、世界中の人を見守っているんだよ。〟
ばあちゃんが言ったんだ。
どこにいるかも、生きているかも分からないばあちゃんが言ったんだ。
…生き別れたばあちゃんが言ったんだ。
突然、家族が消えた。
…家を出て行ったのだ。
私を置いて。
死ぬほど恨んで、死ぬほど泣いた。
でも声だけは私を裏切らなかった。
周囲の期待にも答えてくれるし、何より私を助けた。
歌うことを生き甲斐に感じた。
フェスは好き。
お客さんが盛り上がってくれるから。
私を必要としてくれているから。
…私を捨てた家族とは大違い。
ステージに立ち、ギターに手をかけ息を吸い込んだ。
「ストップ!」
「え…?」
客席からステージに上がってくる男性が一人。
ざわつく会場。
「…花火。久しぶり」
深めに被っていた帽子を脱いで、私に笑いかける男性は…
忘れられない人だった。
「ユウちゃん…、」
「あ、覚えてくれてた…?」
彼は私の幼馴染。
私の事情をよく知る人。
…中学生の時、付き合っていた。
だけど、家の事情が私を暗くして…、迷惑かけちゃいけないと別れを告げた。
「…花火、好きだよ」
…そんなの顔見れば分かるよ。
花火が大好き、って顔してる。
「…私だって」
「…別れてからさ、花火の家族探したんだ。勝手にごめんな。…見つけたら会いにくるつもりだった」
ってことは…
「見つかったの…?」
「…うん。一緒に会いに行こう?」
頷いた。
あんなに苦しめた人に会いたいと思うのは、私が単純な性格だからで…、歌よりも大事なものがあることを知った。
ユウちゃんと私は手をつないで走り出した。
日が沈んで星が出ても私は走り続けよう。
二つの想いが、何倍にもなって…、綺麗なイチオクノホシになる。
…私を苦しめたあの人たちの上にもイチオクノホシが瞬いていることを、今は嬉しく思う。
ねぇ、私は必要ない子だった?
もしそうだとしても…、私を必要としてくれる人はいる。
その人のために、私は星になろう。
そして、一人一人に声を枯らして伝えるんだ。
「ありがとう」
…私の道を明るく照らす、数え切れない星々の一つに目一杯の感謝を込めて。