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Re: 初恋?何それおいしいの? ( No.52 )
日時: 2015/10/06 20:07
名前: まかろん (ID: mwz5SFMT)

「はいっ!そこまで!」

部長の大きくはっきりとした声に、思わず肩を震わせた。
時計を見たら17時前を指していた。美術室にきたのは16時前。時間がとても早く過ぎたような気がする。

さて、初めてこんなに集中して絵を描いたんだ。少しはまともな絵が…。
時計から目を離し、自ら描いた絵に視線を戻すが、

「………」

苦笑いすることしかできない。
何故たかが赤いリンゴを描くのに紫やら黒やらが使われているのだろう。

初めてリンゴが禍禍しい異物に見えた瞬間だった。


「ふぅ 疲れたねぇ。どんなのが描けた?」
キャンパスから顔をひょこっとだし、こちらを見つめてくる一人の少女。
可愛らしく二つに結ばれた髪が揺れる。
「う、うん。いちよう描けたけど…。」
頬がほんのり熱くなるような感覚がし、たまらず下を向く。
「わあ見てみたいなあ」
「え」
「あ、だめかな?」
こちらを窺うように小首をかしげる彼女から逃れることなどできぬ。
うんいいよ。と口から漏れそうになるが、コレを見せたら…。

『え、あ これ描いたの?わあすごいね〜。
 なんだろう、前衛的っていうのかな。凄く個性的だね。』

などと精一杯気を使った発言をされるに違いない!!
その瞬間、彼女とのわずかながらに築いた友情がいとも簡単に崩れてしまうだろう。

私が次の言葉を探していると、早く持ってきてーという部長の声が聞こえた。

「あああ、は、早く持っていこう?」
「あ、うんそうだね。」

とりあえず危機は脱せた。
私は現実から目を背けながら部長にリンゴ(?)の絵(?)を渡した。



「はあああああ」
隣の先輩から盛大にため息をつかれる、試合開始4分前。
なんで私がこんな面倒なことを。と独り言を言っているが、トテモオオキナコエデオッシャッテイルので既に独り言ではない。
さすがに割と興奮していた俺の気持ちも削がれてしまう…
と思ったが、


「っしゃああ!ナイスキー!!」


満面の笑みで半ば無理やりハイタッチをしてきた。
試合前とは大違いのハイテンションぶりだ。
まだ合わせている段階だからぎこちなさはあるものの、女バレチームに先制点を取るという、なかなかの好スタートを切った。

「お前!なかなかボールの扱い上手いじゃん!えっと、名前なんて言ったっけ?」
「霧島です。」
「そうか!この調子で次もよろしくな!」
「…はあ」
コミュ力高いな、と思いながら横目であのヘビ君がまたこちらをにらんでくるのが見えた。
…怖いなあ あいつ
「やるじゃないか!こっちも負けてらんないぜ!」
向かいのコートから部長の威勢のいい声が聞こえた。

「おい」
「?!な、なんだ」
突然目の前にヘビ君が現れた。
「次は俺に打たせろ」
相変わらず仏頂面だが、そいつの目にはバレーへの真剣さも見て取れた。
「おう」

セッターの俺の役目はスパイカーの最高打点にボールを放つこと。
スパイカーの意思に応えなければ。


『はーい!突然ここでバレーボールHOW TO! 実況のバレーボール部部長!北竜奏でーす!
 このコーナーでは、バレーボールのルールやポジションについて説明していきます!
 間違えてたらてへぺろりん♪だぞ!優しくここ違うよって教えてくれなきゃ、泣いちゃうぞ!』
『きもい』
『いった!』
『はい。あほな部長にかわって、私、副部長の清里茜がお送りします。』
『ひどいよアカネ!せっかくの私の出番がっ!』
『黙れ』
『ひどい』

『…はい。では説明いたします。まず、バレーは6人+リベロ1人のチームで行います。
 ボールに触れるのは3回まで。更に同じ人が続けて触ってはだめ、ボールを掴んではだめ。
                            とまあ規制が多い競技ですね。』
『ほんと!やんなっちゃうよね!』
『字数オーバーするから止めろ』
『いたい!』

『次にポジションですね。
 <ウイングスパイカー>(WS)攻守の優れた選手が担う。主にスパイクを打ち、その中枢となる。
 <ミドルブロッカー>(MB)主にブロックで得点。囮として相手選手を翻弄する。
 <セッター>(S)攻撃の司令塔。スパイクを打たせるためにトスを上げる。』

『まだ他にもありますが、とりあえずこんな感じです。今3対3に出ている選手は、
 女バレチーム 北竜WS 清里S 厚真綾MB
 男バレチーム 豊浦みきWS 霧島S もう1人…誰だっけ。じゃ適当にMBで。』

『アカネってたまーにSっ気出るよねー。まさにセッターのえ。』
『・・・・・』
『ごめんなさい。つまんないこと言おうとして本当にごめんなさい。』
『わかればよろしい。 
 では、今回はこの辺で。』
『まったねー!』


バンッ

後ろから強烈なボールの音がする。先輩のサーブだ。
「綾!」
「はい」
少し乱れたが、ボールがセッターに返った。
「持ってこいや!」
「奏!」
ボールがレフトに飛んだ部長に揚げられる。
すかさずブロックに飛んだ。だが、
ババンッ
「っ!」
強烈なスパイクでブロックを突き抜けた。
ヘビ君と先輩がレシーブにいったが、揚げることはできなかった。

「どーだい一年坊主!私の強烈サーブを見たか!」
「奏、ブロック一枚だけだったのにはしゃぎ過ぎ。」
「何だと!?」

「だーいじょうぶだ!」
先輩が俺たちの背中を叩く。
「次取り返すぞ!」
「はい!」
「…はい」

「綾ー。次サーブ」
「はいよ」
打たれたボールはヘビ君のほうへいった。
トンッ
綺麗に俺のほうへあがる。
こいつレシーブうまい…のか?
そう思った瞬間、すでに助走を始めていた。

ああ、わかってるよ。
あいつの視線が言っている。『俺に持ってこい』と
感覚を研ぎ澄ませ、緊張を走らせ、ボールを放つ。

スカッ

ボールは相手コートに打ち込まれるのではなく、てーんてーんと俺たちのコートに落ちていった。

一瞬の静寂

「お、おー いえーい!ラッキーラッキー」
部長が手を叩き、静寂を解放しようとするが、俺の頭の中はパニック状態だった。
さっき先輩にあげたボールは良かったのに…?

「おい」

きた。いつも以上に目つきの悪いヘビ君が。
「何だ今のは」
「何だって、俺は普通にトスしただけだが。」
「あんな打ちずれえとすあるか!なんであんなにネットから離れてるんだよ?!」
「は?!ブロックあるんだからそうしたほうが打ちやすいだろ!?」
「あんなに離れてちゃ打てねえだろうが!!」
「なんだと!?」

「はい。ふたりともそこまでだ。」
今にも噛みつき合いそうな俺たちを、先輩がジャージの襟を掴んで離す。
「私を面倒事に巻き込むなよ…?」
先程までのハイテンションな先輩は消え、ものすごい形相で俺たちを睨んできた。

更に、
ヒソヒソと遠くで女子達の話声が聞こえる。
「やっぱりやめない?」「男子怖い」「先輩方は楽しそうな人そうだけど」「凶暴だね」
小声で失礼しますと体育館を退出する女子が多発した。

「あ!ちょっと待って!みんな!」
部長が必死に呼びとめようとするが、それでもどんどん女子一年生は減っていく。
1人消え、また1人消え、残ったのは十数人だった。


「ちょっと、そこの一年坊主たち…?」
部長の肩がフルフルと震える。
「ハイ…何でしょう」
思わず直立不動になる。


「君らは私が良いと言うまで体育館出入り禁止!!とっとと荷物持って出ていけ!!」


きっ と言い渡された言葉はすぐには処理できなかった。

『タイイクカンデイリキンシ?』

部長の目が涙で潤んでいたのが印象的だった。