コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 題名未定 ( No.1 )
日時: 2015/05/16 16:01
名前: 柚胡椒 (ID: x2W/Uq33)

 ジリリリ、と鳴り響く目覚まし時計。
設定したのは自分のはずなのに、朝その音にたたき起こされると途轍もなくイライラする。
そうでもしなければ、朝に弱い自分は学校なんて行けたもんじゃないのだけれど。
放っておけば5分間ずっと鳴り続けている枕元の目覚まし時計を叩くようにして止めると、もぞりと起き上がる。
 遺伝なのか、肩につく位の、やや色素の薄い茶色掛かった髪はもこもこと爆発していて、口元には涎の跡。なんていうか、小汚かった。
大きなあくびを一つもらして、ようやく布団から這い出ると、のろのろとした足取りで歩き、洗面台へと向かった。
母は既に起きているようで、朝食の匂いが漂ってくる。
半分覚醒状態の頭をすっきりさせようと、冷たい水で顔を洗えば、そこからやっとエンジンがかかってくる。
朝食が出来る前に制服に着替えてしまおう。思い立って、部屋に戻る。
起きてすぐではほとんど気づかなかったのだが、そう広くも無い自分の部屋は、恐ろしく散らかっていた。

「うわあ」

散らかってるといっても、ゴミや食べくずなどが落ちているわけではない。
この部屋のフローリングを覆い隠し、足の踏み場をなくしているのは、数えるのも億劫になるほどの枚数の楽譜と、ど真ん中に置かれているギターだった。ため息をついて、バラバラと散らばる楽譜を、さっとまとめて机の上に置き、ギターをケースにしまう。これでやっと出来たスペースで着替え始めた。


 ただの中学三年生である中沢穂波なかざわほなみの趣味は、曲をかくことだ。部活には入っておらず、学校でも家でも、暇さえあれば五線譜の紙を広げて音符を書きなぐっている。
入学したときからこんなことをしていたから、以前も今もクラスからは多少浮いている。
かといって苛められているわけではないから、学校へ行くのは別に苦ではない。

 着替え終わった穂波は、丁度出来上がったらしい朝食を食べるためにリビングへと向かった。近所でも有名な年齢不詳の童顔な母親がパンにバターを塗りながら「おはよう、丁度出来たから食べちゃいなさいね」と穂波に座るように促す。穂波も、おはよう、と挨拶を返してから、出来立ての朝食を食べた後、身支度を整えて家を出た。

 家から学校は少し遠くて、特別に許可を取ってバス通学をしている。かかる時間は大体一時間弱だ。
さすがにバスに乗っている間まで曲を書こうとはしないけれど、頭の中に浮かんで来て止まらないフレーズを忘れないように覚えておくのに苦労する。
校門をくぐって。下駄箱で上履きに履き替えたあと、自分の教室へと向かう。
まだ登校している生徒は少なく、教室の中は5,6人程度の人数しかいなかった。
穂波は自分の席に座ると、鞄を開けてノートを取り出しす。外見は普通の大学ノートとそう変わりは無いが、中身は大きく違っていた。
音楽をやっている人間なら見慣れている、五線譜の紙だ。
 バスの中で思い浮かんだ数々のフレーズを、消えてしまわないうちに書き写す。このクラスのメンバーからしたら、少し奇妙だがもう見慣れてしまった光景で、さして驚くことも無く「ああ、また始まったな」と軽く流している。
特にそれを「おかしい奴だ」と笑う奴も、無駄に干渉しようとする奴もいないこの静かなクラスは、穂波にとってこの三年間で一番過ごしやすいクラスだった。


                      ____Next.