コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 題名未定のPhrase of star ( No.11 )
日時: 2015/05/17 00:20
名前: 柚胡椒 (ID: x2W/Uq33)

 曲を作るために、最低限必要だった知識は、小学校6年生の頃に身に着けた。
実音で曲を作るために、ねだって、少し音の張るキーボードを手に入れた。クラシックをやるわけではないから、本物のピアノは必要ない。
ある程度ピアノが弾けるようになってからは、作曲の効率が異様によくなった。頭の中で浮かんでいただけのフレーズを書き写すだけでは、どうしても本当の音とは少しずれてしまう。そのずれがなくなったからだった。
最近手を出したのは、アコースティックのギター。これもまた、作曲の幅を大きく広げてくれた。


さて、たった今、穂波の両手を掴んで、キラキラした目で、「この歌詞を歌にしてほしい」と言った男子。穂波には面識も何も無い、完全に初対面の人だった。

「えっと…、まず、名前を教えてくれませんか」

 
 その男子は、葉山星はやませいと名乗った。星は穂波と同い年で、穂波の通う中学のある町の隣町に住んでいるのだという。
聞いてみれば、作詞は中学生になってから始めたらしい。「作詞をしても、歌にならないんじゃ意味が無いから、やめてしまおうか」と、そう思っていたこともあったのだと、星は穂波に話した。
確かに、歌詞が出来ても、それを完成させるメロディが無ければそれは歌にはならない。
曲だけをただひたすらに作っていた穂波は考えなかったことだった。

 同い年なのだと知った後は、穂波は少し態度をやわらかくし、星くん、と呼んだ。星も、そう呼ばれたことに対して嬉しそうに笑うと、穂波、と呼び捨てで呼んだ。

「でも、私の曲なんてまだまだだし、こんな綺麗な歌詞にあわせられるか…」
「穂波の曲はまだ聴いたこと無いけど、この歌詞を綺麗だって言ってくれた穂波の作った曲にこの歌詞を付けたいよ」

にっこりと笑った星は、穂波の知る中学三年生の男子とは全く違う生き物のように思えた。
中学三年生なんて、下品な言葉ばかり話していて、ゲラゲラと煩い存在だと思っていたのに。

「気に入ってくれたら、嬉しいんだけど」

と、私は作った曲の楽譜を星に手渡した。それを受け取った星の顔が、「しまった」と言いたげに暗くなったのに気づいた穂波は、何かマズイところでもあったのかと焦る。

「ごめん…俺、楽譜読めなくて…」
「…」

確かに、作詞をするのに音楽の知識は何一つ必要では無いだろうけれど。
音楽が好きで作詞をしているというのに、まさか楽譜が読めないとは思っても見なかった。

「うん…どうしようか。星くん。ギターか何か、持ってる?」

穂波がそう質問すると、星ははっとして焦り始めた。何事かと聞けば。

「さっき風が吹いたとき、紙がとんじゃっただろ?それを追っかけて、荷物とか全部公園のベンチに置いてきちゃったんだよ!ギターもあるのに!」
「なッ…とって行かれたら大変!どこの公園!?」
「こっち!」

走り出す星を追いかけて、穂波も荷物をしっかりと持つと走り始めた。
辿り着いた公園は小ぢんまりとしていて、ほとんど人気も無い。ブランコの近くにポツリとあるベンチの上には、星のものと思われるリュックサックと、ギターケース。

「あった…よかった…」

ほっとして穂波が息を吐くと、同じように、星も安心したような顔をしてベンチに乗っかっていた荷物を手に取り、それに代わるようにして今度は自分がベンチに座った。
穂波もそれに習って星の隣に座る。

「俺さ、自分で作曲してやるぞーっって思って、お願いして、ギター買ったんだけど、いざやるとなると、まず楽譜読めなくて、参ってたんだ」

あはは、と笑いながら言っているが、実際それは無計画にも程がある。
呆れたような視線を向ける穂波に、はい、とギターを差し出すと、星は「さっき渡してくれた曲、聴かせて」と笑った。
受け取ったギターはそれなりに良い物で、チューニングもしっかりされていた。

「あれ…楽譜読めないのに、チューニングはしてあるの?」

買ったばかりのギターなら、音がずれていてもおかしくは無いだろうに。
疑問に思い、星に尋ねると。

「チューニングって何?」
「弦の音をちゃんとした音に調節するの。だってこれ、やったの星くんじゃないの?」
「えっと…確かに、買ったあとに何となく鳴らしてみたら、店に置いてあったギターと鳴る音が違って、おかしいなって思って勝手にペグをいじったんだけど…チューニング?なんてこと、俺、してないよ」

ギターのことなんて何も知らないし、楽器やったことないもん、俺。

あははと笑いながらとんでもないことを言い出した星を、穂波は驚いたように見る。
「音が違うなと思ったから勝手にペグを動かした」。

「その、ペグで音を調節することをチューニングっていうんだよ」
「そうなんだ?」
「そうなんだ?じゃなくって…」

チューナーも無しに、今まで音楽経験もない星が、店にあったギターと同じ音にあわせた。つまりそれは。

「星くん、星くんて、絶対音感もってるかもしれない」









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