コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 題名未定のPhrase of star ( No.15 )
- 日時: 2015/05/17 14:49
- 名前: 柚胡椒 (ID: x2W/Uq33)
絶対音感、とは、ある音を聴いたとき、その音の高さを自らの記憶に基づいて、正確に音名を言い当てることの出来る感覚のことである。
これをもつ人は、一度聞いただけの曲を楽譜無しに正確に再現できたり、日常に溢れる音、たとえば水の音などの音も、即座に音名にして答えることが出来る。
幼い頃からピアノなどを習い、厳しい指導を受けていれば、生まれつき絶対音感を持っていなくともそれを身につけることが出来るらしい。
つまり、今まで楽器に触れたことが無い、と言う星の持っている絶対音感は、幼い頃から音楽に触れてきたために持つことの出来た物ではなく、生まれついて持っている自前の感覚だということだ。
「絶対音感?」
「そう。鳴っている音の名前を言い当てられる感覚のこと。私の、瞬間記憶能力とちょっと似てるんだけど…」
瞬間記憶能力も、一度見たものを頭の中で、まるでカメラで撮ったように正確に思い出すことが出来る能力だ。
自分の記憶に基づいて音名を言い当てる絶対音感と、見たものを完全に記憶し、どれだけ時間がたっても正確にそれを思い出すことの出来る瞬間記憶能力は、良く似ていた。
「すごいよ、星くん。訓練したって身につけられない人も居るんだよ、絶対音感って!」
「確かに、ふつーに生活してて、この音ってあの音と同じだな、とか思ったりしたけど、それが絶対音感?」
「そう」
そうなんだ、と、どうやらいまいち理解が出来ていないようだったが、これからギターを始めていくにあたってはとても有利になるものだ。
「星くん、今度から私がギターを教えるよ。星くんに、この曲を弾いて、歌詞を付けてもらって、歌にしたい」
作曲が趣味の穂波と、作詞が趣味の星。
こんな奇跡的なこと、望んでいても、誰もができる出会いではないだろう。
「うん。早くできるように頑張るよ。俺も穂波の曲を弾いてみたいからね」
にこりと笑った星は、スマホを取り出して時間を確認する。
学校が終わった後のことだったので、辺りは段々と薄暗くなってきていた。
それに気づいた穂波は、あわててベンチから立ち上がると、星のスマホを見てふと気づく。
連絡が取れなければ、約束もできない。約束なしに、もう一度ここで会えるとも限らない。穂波はスマホを取り出すと、星のアドレスを登録する。
そのアドレスに空メールを送信すれば、星のスマホに穂波のアドレスが登録される。
「…暗いな、送ってく?」
「平気。逆方向だよ」
「女の子でしょ」
「平気。じゃあ、また。連絡するね」
結局バス停までは同じで、乗るバスだけは違った。
穂波はバスに乗り込むと、ほんの1時間半程で起きた出来事をゆっくりと思い出していく。
風で飛んできた綺麗な歌詞と、それを書いた星との出会い。
絶対音感を持っているのに、楽譜の読めない星。
また会う約束をしたこと。
知らぬ間に、小さく笑みがこぼれていた。
____Next.