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Re: 題名未定 ( No.3 )
日時: 2015/05/16 16:39
名前: 柚胡椒 (ID: x2W/Uq33)

 特に何も無く終わった学校を後にして、穂波はバスに乗り込んだ。
そういえば、五線譜の紙がそろそろ無くなるんだった、と思い出す。いつもならこのまま家の近くのバス停まで乗って帰るのだが、穂波は途中でバスを降りると、馴染みの文具屋へと向かった。



「えっ…無いんですか?」
「ごめんね、五線譜の紙なんて穂波ちゃん意外に買う人ってあんまりいないでしょ?だから在庫が少なくて。…2時間くらい前に、穂波ちゃんくらいの男の子がいくつか買っていって、それで最後だったのよ」

文具屋へと行き、いつも五線譜の紙の置いてあるコーナーを見れば、ぽっかりと空いているスペース。それは、いつも穂波の買っている、五線譜の紙の置いてある場所だった。
聞けば、売切れてしまったのだという。

ほんとにごめんねぇ。
申し訳なさそうな顔をして、穂波と顔見知りの店員のおばさんは言った。
別に今日買わなくても問題ないけれど、明日、明後日中には紙を切らしてしまうだろう。それまでに在庫は入るのだろうか。
ここら辺で五線譜の紙を売っているのはあの文具屋くらいで、その他の場所を穂波は知らない。
穂波は考えながら文具屋を後にした。






突然、強い風が吹いた。
穂波は反射的にスカートを押さえ、目にゴミが入らないようにきゅっと目を瞑った。
やけに長く風が吹いて、ペチッ、という音と共に、穂波の顔に一枚の紙が飛んできた。
その紙を掴み取って、何が書いてあるのかと目を落とす。

【太陽ほどは明るくない月でも、夜道を照らすことくらいは出来るはず。

 月より小さな星でも、君を照らすことくらいは出来るはず。

 後ろを向いているようじゃダメだ

 立ち止まってもいい

 後ろを振り返ってもいい

 だけどその先に光がある限り、後ろへ戻ることはしないで。】

「これって…歌、詞…?」

続きもあるのだが、その部分を声にだして読んで見ると、どうやらこれは歌の歌詞のようだった。

「うわああああああああ!!!!みないでええええええ!!!!!」

穂波が呟いた途端、大声で見るな、と叫ぶ声が響いた。
見るな、とは。この歌詞のことだろうか?
穂波がその声の聞こえた方向を見ると、物凄い形相と勢いで走ってくる男子が見えた。

「っ…読んだ!?読んじゃった!?」
「…あ、はい」

あまりの騒がしさに驚きながら素直にそう返事をすると、目の前の男子は顔を真っ赤にしてうな垂れた。恥ずかしがっているのだろうか?

「は、恥ずかし…ちょっと見ただけだよね?お願いだから、今すぐ忘れ…」
「【太陽ほどは明るくない月でも、夜道を照らすことくらいは出来るはず。

 月より小さな星でも、君を照らすことくらいは出来るはず。

 後ろを向いているようじゃダメだ

 立ち止まってもいい

 後ろを振り返ってもいい

 だけどその先に光がある限り、後ろへ戻ることはしないで。

 儚くても、消えない限りはそれが君の未来だから…】ですよね?」
「えっ…一瞬見ただけだよね?なんで覚えちゃって…」
「私、瞬間記憶能力持ってるんですよね」
「瞬間記憶能力って…まさか、ざっと目を通しただけで覚えちゃったわけ?うわ…どうしよう、忘れてくれないかな…凄い恥ずかしいんだ」

お願いだから!と手を合わせる男子に、穂波は不可解そうな顔をして、言った。

「何で恥ずかしいんですか?綺麗ですよ、この歌詞。音楽が好きなんだって凄く伝わります。好きなことを好きなようにして、何が悪いんですか?」

穂波の心からの感想だった。
この歌詞が綺麗なのは本当に思ったことなのだ。その証拠に、普段じゃありえないくらいの、キラキラした深い音のフレーズがぽんぽんと浮かび上がってくる。

「…イタイ奴だと思わないの?作詞なんてしてる俺のこと」
「…じゃあ作曲してる私はイタイ子なんですか?」

心底不思議そうな顔をして尋ねる穂波に、驚いた顔をした男子が、「お願いがあるんだけど」と一言。


「この歌詞を、歌にしてくれないかな?」





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