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- Re: 『最弱、故に最強。』 ( No.1 )
- 日時: 2015/07/08 19:49
- 名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)
『最弱、故に最強。』
今でこそ、最強と称される川村猫衛門だが、その強さは、生まれ持ってのものではなかった。
これは、そんな彼が、最弱だったころの話である。
————川村猫衛門は授業を終え、家に帰ろうとする時、校門の前に、不良たちの人だかりができているのを見つけた。恐る恐る近づいてみると、その中央に、今にも泣き崩れてしまいそうな表情を浮かべる一人の少女を見つけた。腰まであるサラサラの金髪。透き通った碧色の眼。色白で、華奢な体をするその少女を、猫衛門は、純粋に可愛いと思った。
だから、できることなら今すぐにでも、不良たちを蹴散らして、彼女を救ってやりたかった。だが、彼にそんな力などあるはずもなく、ましてや先日、イジメのリーダーである悠聖と一対一でやり合って、全く歯が立たたずに敗北したばかりなのである。体には今もその時負った傷が残っており、動くだけで痛むのだ。耐えがたいほどの激痛が走るのだ。同級生一人にも勝てない自分が、こんな満身創痍な状態で、自分よりもずっと年上の、不良集団に勝てるわけがない。
しかし正義感の強い彼は、いたいけな少女が襲われているのを見過ごすわけにはいかなかった。痛む個所を庇いながらも、一歩ずつ、一歩ずつ、ぎこちない足取りではあるが、不良集団に近づいて行く。そしてその一人の肩に、手をかけようとした、その時だった。
「何をやっているんだ‼」
先生の、怒号が飛んだのは。
「マズい、先公だ。逃げるぞっ!」
その一声を合図に、不良たちは四方に散らばって逃げて行った。先生は追いかけようとせず、校門の前で腕を組んで仁王立ちし、彼らの背中が見えなくなるまで、睨みつけるだけに留まった。
猫衛門はそれを、呆然と見つめていることしかできなかった。先生は大声を上げ、睨みつけるだけで、たったそれだけのことで、不良集団を、負かしてしまったのだから。力にも武器にも頼らずに、正義を貫き通した。それこそが、本当の強さなのではないか。猫衛門はそんな風に思った。
猫衛門は歯噛みした。
この日彼は、これ以上ないほどの屈辱を味わい、これ以上ないほどに、己の弱さを知った。
正義は必ず勝つ。なんとなく、そんな風に思っていた。正義こそが強さだと、だから自分が勝てないのは、意志の強さが足りないだけなんだと、そう考えていた。でも違った。先生は、正義など、自分の正しさなど、決して見せつけたりはしなかった。ただ叫んだだけで、不良たちを震え上がらせて、敗北させた。
先生は、外見そのものに、強さを持ち合わせていた。
————翌日の朝。昨日の先生が、校門の横で仁王立ちしているのを見つけた猫衛門は、恐る恐る声を掛けた。聞けば、毎朝ここで見張っているのだと言う。
「先生、僕はどうしたら強くなれますか?」
「なんだ? 強くなりたいのか? だったらまずは、その弱腰をやめることだな。自分は誰よりも強い。最強だ。そう思い込め。自分は強いのだから、弱腰になる必要はないし、怖気ずく必要もない。そうだろう?」
「で、でも僕は、全然力が無いし………」
「なら力をつければいいだろう? まずは力で強くなれ。気を強くするのは、その後でもいい」
「でも、どうやって……」
「簡単だ。気に食わない奴と戦え。そして勝て。それだけだ」
先生は、語尾を強めて堂々と言う。自分自身、そうやって強くなったかのように。
気に食わない奴。真っ先に思いつくのは、昨日の不良集団、ではなく、イジメのリーダーの、悠聖。猫衛門は、彼にリベンジすることを決意した。