コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 『最弱、故に最強。』 ( No.4 )
日時: 2015/07/11 11:57
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: r7vnrseg)

 ————結果、あっさりと敗北した。完膚無きまでに叩きのめされた。猫衛門は、再び体中に傷を負ってしまった。敗因ははっきりとしていた。
 力の差。至極単純で、覆し難い能力の差。猫衛門は力という能力において、悠聖に、圧倒的に劣っていたのだった。

「————先生」
「どうした」
「………負けました」
「敗因はなんだ?」
「力の差、だと思います」
「そうか。それじゃあ明日から、毎朝学校の周りをランニングしろ」
「へ?」
 思わず間の抜けた声をあげてしまう。
 先生が何を考えているのか、まるで見当もつかなかった。
 が、とりあえず先生の言葉を信じることにした。

 ————二週間後。

「待ちやがれぇ!!」
 背後から、もう何度目かわからない怒号が聞こえてくるが、構わず廊下を駆け抜ける。
 どの教室も人はまばらになって、日は傾き始め、空を赤く染めていた。
 階段を駆け上がって四階に上る。四階に教室は無く、人が来ることもない。この階にある部屋は、準備室や物置に使われており、用のある人自体少ない。
 猫衛門はただがむしゃらに逃げまわっているわけではなく、あえてこの階を選んだのである。
 それを追いかける悠聖は、自ら挑んできたにも関わらず逃げる猫衛門に腹を立て、顔を真っ赤にして怒り、完全に正気を失っていた。
 彼はかなりの短気なのであった。しかしそれは、猫衛門にとって好都合だ。
 猫衛門は悠聖に気付かれないよう、さりげなく、ゆっくりと速度を落とす。
 背後からどたどたと、激しい足音がする。その音はしだいに大きくなっていく。
 悠聖が追いつきつつある。その音がぎりぎりまで迫ってきたのを見計らい、猫衛門は突如立ち止まり、振り向きざまに拳を突きだした。
 無我夢中に走っていた悠聖は、それをまともに食らってしまう。
 そしてそのまま地面に倒れ込み、気絶した。
 文章にしてみると、滑稽かつ地味で、くだらない作戦だ。とはいえ、川村猫衛門が、イジメのリーダーである悠聖に、初勝利をおさめた瞬間であることに違いなかった。
 確かに毎朝行ったランニングのおかげで持久力と肺活量が鍛えられ、全く息を切らすことなく冷静な判断で対応することができた。
 ……とはいえ、果たしてそこまで必要だったのだろうか。少しだけ疑問が残った。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ ( No.5 )
日時: 2015/05/30 14:10
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

 翌日、猫衛門は浮足立って、浮かれに浮かれ、内容などまるで頭に入って来ないままあっという間に授業を終えて、下校時刻を迎えた。授業だけでなく、ほぼ全てが上の空で、ほとんど無意識のうちに行動していたと言っても過言ではないかもしれない。
 猫衛門は今日、学校であったことを、ぼんやりとしか思い出せないのだから。
 だから、校門の前に立つ先生に、悠聖に勝ったことを伝えるのも忘れて通り過ぎ、ろくに経過もせずに、近道だからと人気のない路地裏を突き進んでいく。背後を尾行する集団にも気付かずに。
「おい、昨日はよくもやってくれたな。しかも、あんな卑怯な手で」
 不意に声を掛けられて、振り返る。そこには、額に痛々しい青あざを負いながらも、気取って壁に寄りかかり、顔を醜く歪めて笑う、悠聖がいた。
 そして猫衛門はいつの間にか、悠聖の仲間と思われる集団に取り囲まれていた。
 手には小石や鉄パイプを握り、悠聖同様見下すような表情で、へらへらと笑っている。
 考えが甘かった。悠聖は猫衛門に呼び出されたとき、決まっていつも、一人で来ていた。
 しかしそれは悠聖が、猫衛門をなめていただけで、何も仲間がいないわけではなかったのだ。
 思えば悠聖はいつも、ターゲットを集団で取り囲むようにして、逃げられないようにしてから苛めると聞く。
 丁度今のように。しかし猫衛門は、ちっとも脅えていなかった。
 むしろ自分がこれほどの大人数でなければ倒せないと判断されたことに、優越感を覚えていた。
 悠聖に勝ってから、調子に乗っている猫衛門は、完全に正気を失っており、負けるとは考えもせず、その集団に、真っ向から立ち向かった。

 ————そして猫衛門は、全治一カ月の大怪我を負った。