コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.14 )
日時: 2015/06/13 17:29
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

 放課後になり、荷物をまとめて校門に出ると、今日も先生が目を光らせていた。
 猫衛門が帰宅途中に襲われたことを受け、学校側は、再発防止のため、校門の前に、常に先生を配置することにした。屈強で筋肉質な体育担当の先生が、その仕事を受け持つことになった。理由は、人を呼ばずとも、一人で対処できるからである。おかげであれ以来、大きな事件は起きていないと言う。
 体育担当の先生、と言うのは、猫衛門にいろいろと教えてくれて、入院中もお見舞いに来てくれた、あの先生のことなのだが、猫衛門は、なぜだか声を掛けるのを憚られ、何も言わずに通り過ぎる。急ぎの用もあった。
 というのも、牢屋の飯が臭いなら、病院の飯は無味無臭なのである。要するに味が無く低カロリーで、歯ごたえも、無に等しいと言える。故に猫衛門は入院中、常に腹をすかせていた。
 しかし、その空腹感とも、不完全燃焼とも、今日でおさらばだ。猫衛門の足は、近くのラーメン屋へと向かっていた。


 猫衛門の学校は、帰宅中の寄り道を校則で禁じている。故に、店員に顔を覚えられる前に、声を掛けられる前に、早急に、食べ終える必要がある。
 ラーメン屋の入口まで来たのはいいものの、その二つの試練に挑むには、相当な覚悟が必要だった。腹をくくる、というほどでもないが、先生たちに見つかれば、ただではすまされない。
最悪停学だ。ただでさえ長期の入院で、授業日数が極端に少ないと言うのに、その上そんなことになれば、全ての教科の成績に、大打撃を与えることになる。当然進路にも響くだろうし、テストにも響くだろう。授業ほど、効率のいい勉強はないのだ。
 しかし猫衛門は、今更引き返すわけには行かなかった。
 事態は急を要するのだ。この空腹感では、多分、家まで持たない。今でさえ、道端の草がキャベツやレタスに見えてきてしまうと言うのに。そのうち通行人さえも、大根や人参と見間違えてしまうかもしれない。
 連想される食べ物が、全て野菜であることから、猫衛門が入院中、ほとんど野菜しかありつけなかったことが伺える。草食系男子と言う奴だ。
 そんな猫衛門である。先程も述べた通り、野菜以外の食べ物は、あまり覚えていない。野菜ばかり食べさせられて、腹も満たされず、うまく頭が働いていないのかもしれない。
 そんな状態で、いきなりラーメンを食べるとなると、まず間違いなく腹をこわすことになるだろう。しかし猫衛門は、この時、完全に失念していた。
 覚悟を決めて、入口の戸を勢いよ開ける———場面を脳内で想像し、実際は音を立てないように、まるで泥棒のように、ゆっくりと、ゆっくりと、戸を開く。わずかに出来た隙間に体を滑りこませ、店内へと侵入する。俯いて、店員や客と、目を合わせないよう心がける。
 制服は、デパートで買ったカーディガンを着ることにより校章が見えないよう配慮してある。
 対策は万全だ。あとは人目につかないカウンター席を選ぶだけ。混みあった、狭い店内の中で視線を巡らせていると、場違いな、サラサラの金髪が目に止まった。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.15 )
日時: 2015/06/07 19:10
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

まさかそこまで川村が空腹になっていたとは驚きでした。
そしてついに彼が再登場しましたね。彼がラーメンを無事食べきることができるのか、楽しみです!

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.16 )
日時: 2015/06/20 18:02
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

応援ありがとうございます! 頑張ります!!

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 その容姿から察するに、あの日不良に絡まれていた、あの少女と見て間違いないと思われた。
 入院中も校門の前で、ずっとあの先生が見張っていたのだから、大丈夫だろうとは思っていたけれど、それでもやはり、安堵の溜め息をつかざるをえなかった。
 猫衛門は立ち止り、まじまじと、その背中を見つめた。暑苦しい店内に咲く、一輪の花。彼女もまた学校帰りなのか、制服の上から、校章のないカーディガンを着ていた。
 ありがちで庶民的なそのカーディガンでさえも、彼女が着れば、どこぞの有名ブランドのもののように見えてくる。彼女はそのくらい、高貴なオーラを身に纏っていた。
 が、それ故、近寄りがたくもあった。
 小さな手で割りばしを持ち、汁を飛び散らせることなく上品に、ゆっくりと麺を啜る彼女。
 しかしそのすぐそばでは、どんぶりが、山のように積み上げられていた。少女の席は壁際で、隣は空席。
 となればその山の創作者は、この少女と言う事になるのだろうか……
 猫衛門は頭を横に振り、そんなはずはないと否定する。
 もし仮に、あの少女があれほどの量を食べることができたとしよう。
 しかしあのスピードであれほどの量を食べたとなると、昼ごろからこの店に居たことになる。となるとこの少女は別に夢いでも何でもないごく普通のラーメン屋のごく普通のラーメンを食べるためだけにわざわざ学校を抜けだして来た、ということになる。
 まさかそんなはずはないだろう。そこまでお腹がすいていたら、学校を休むはずだ。
 激しい空腹感に苛まれながら、猫衛門は、必死に思考を巡らせる。少女の無実を晴らすため。とはいえ別に、学校をサボったくらいで罪に問われたりはしないのだけれど。
 そうこうしているうちに、ラーメン屋の戸が、壊れそうなくらい大きな音を立てて勢いよく開いた。
 そこに立つ、その大きな人影の正体に気付いた二人は、息を呑んだ。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.17 )
日時: 2015/06/22 22:43
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

「お前らまさか、学校帰りにラーメン屋に寄ったりなんて、してないだろうな? その下に制服とか、着てないだろうな?」
 先生は、否定を許さない鬼の形相で、二人を睨みつける。
『は、はい………』
 二人は、そう答えざるをえなかった。


 案の定、一瞬でバレた。そして二人は学校まで引きずられ、そのまま生徒指導室へと連行された。
 二人が二時間以上にもわたる説教から解放されたころにはもう、辺りは闇夜に包まれていた。
「……すまんな。説教が長引いてしまった。出来れば二人を家まで送り届けてやりたいところだが、都合上それも無理だ。猫衛門、これを貸してやる」
 そう言って先生は、鞘に納められた棒を猫衛門に渡す。
「何ですかこれ。刀?」
「まぁ、防犯グッズみたいなもんだ。それを鞘から抜くと、大音量のブザーと強烈な光で周囲に危険を知らせることができる」
「何だ。そういうことですか……」
 猫衛門は、この暗がりでもわかるほど、あからさまにがっくりと肩を落とした。
「当たり前だ。アニメや漫画じゃないんだぞ。お前にそんなもの、渡すわけがないだろう」
「でもこれじゃあ、もし前みたいに悪い人たちに囲まれたとき、どうすればいいんですか?」
 ヨハネスが不安そうな顔で問う。
「なぁに心配するな。確かにそれに人を傷つける力などない。が、正しく使えばその辺の不良たちぐらい簡単に振り切れる。猫衛門、お前がもし、あの時より強くなっていれば、お前には、ヨハネスを守ることができる。だがもし、お前があの時のように弱いままならば、誰も守ることはできない。本当の目的を見失うな。わかったな?」


 先生はそれだけ言うと、立ち去った。それ以上猫衛門に質問させる暇を与えてくれなかった。
 猫衛門にはわからなかった。先生が、果たして何をしたいのか。先生が、猫衛門に何を期待しているのか。
 あの時とは一体いつのことなのか。何も分からなかった。
 ただ先生が、わざと要領を得ず、核心に迫ることを避けるような、まわりくどい言い方をしてきた理由はわかっていた。
 要するに、答えは自分で探せ、そう言いたいんだろう。
 だけど今の僕に、それができるのだろうか。猫衛門は考える。
 大体、ただでさえ負けてばかりだっていうのに、退院したばかりの自分に何ができるっていうんだ。
 今の自分では、横を歩く女の子ですら、守ることはできないだろう。そんな風に思うのだ。
「僕、男なんだけどな……」
「え?」
 突如ヨハネスから発せられたその言葉に、猫衛門は、驚きを隠せなかった。
 独りごとをうっかり聞かれてしまったこと以上に、横を歩くこの人物が、男だという事実に。
 二人の間に気まずい空気が流れだす。物語終盤に今更聞かされた衝撃の事実。猫衛門は、知らぬが仏ということわざを、今まで以上に痛感した。
 さて、どうしたものか。独りごとを聞かれてしまった以上、もう言い訳は通用しない。かといって、ここで開き直ってあっけらかんと笑い飛ばせるほど、猫衛門の器は大きくなかった。
「……し、知らなかった、で、ござる」
「…………」
 二人の間に再び気まずい沈黙が訪れる。滑った。完全に滑った。
 猫衛門がとっさに思いついた渾身のギャグは、もはやこれ以上ないくらいに、滑ってしまった。
 終わった。もう終わりだ。もう駄目だ。諦めよう。僕らの間に会話の花が咲くことは、もう二度とないだろう。猫衛門は、自らの終わりを悟った。
 しかしこの物語はまだまだ続く。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.18 )
日時: 2015/06/22 22:58
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

全州明さんへ
あちゃー、ふたりとも先生に見つかってしまいましたねー!
そして先生から渡された撃退用アイテムの刀。続けて明かされるヨハネスが男だったという衝撃の事実!おおっ、このときのやりとりから、徐々に川村が侍口調に変化していくのですね。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.19 )
日時: 2015/07/08 17:57
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: 0Yt9//Ku)

モンブラン博士へ

物語は終わりにさしかかっております。もうじき全ての伏線が回収されます。……多分。

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 あれからしばらく経った。幸か不幸か、この沈黙を破る者が、現れることは無かった。夜の静寂は、しかし、不気味すぎるほどだった。街灯のおかげで、かろうじて道なりに歩くことはできるものの、いつまで経っても塀だらけ。同じような風景がどこまでも続いている。どうやら迷ってしまったらしい。不安が募り、猫衛門はキョロキョロと辺りの様子を覗うも、誰もいない。まるでこの世界で二人だけ取り残されてしまったように。
 そんな時背後から、足音が近づいて来た。それは前方からも聞こえてくる。後方が一つなのに対し、前方からは複数聞こえてくる。ヨハネスは脅え、猫衛門の腕にすがりつく。猫衛門は足を止め、刀に手をかけ身構える。
 前方から、乱れ、薄汚れた制服を来た、不良たちが現れる。後方では、サングラスに、ホストの様な華やかな衣服を身に纏った人物が、退路を塞いでいた。
 この刀に、人を傷つける力などないけれど、今度こそ、勝てるだろうか。
 猫衛門は、右手で柄を強く握りしめ、後方の、小柄なホスト風の男に、狙いを定める。
 ———あいつ一人くらいなら、勝てるかもしれない。
 刀が偽物であることも忘れ、鞘から引き抜こうとしたその刹那。
「猫衛門君……」
 ヨハネスが、目に涙を浮かべ、掠れた声をあげた。
 その声に、猫衛門は一旦頭を冷やし、敵を冷静に観察する。
 そして猫衛門は気がついた。後ろのいかつい不良たちに目の前のホスト風の男を入れると、全部で十二人はいる。彼らはどう見ても仲間だ。なのに、制服の不良たちが十一人いるのに対し、このホスト風の男は一人、たった一人で退路を塞いでいる。明らかに、比率がおかしい。
 普通二手に分かれるならば、できるだけ均等にするはずだ。なのにこの男は一人、悠然と佇んでいる。これは、この男一人で普通の不良十一人分に匹敵する自信がある証拠だ。
 しかし、小柄でひ弱そうなこの男が、それほどの力を有しているようには見えない。ということは、まさか、この男は。猫衛門は顔を上げ、男をじっくりと観察する。
 ホスト風の男は、右ポケットに手を入れたまま突っ立っている。その口元には強者の笑みが浮かんでいるものの、どこか引きつっており、額には、脂汗が滲んでいた。一見悠然としているようで、体全体が、微かに、小刻みに揺れている。
 男は、自信に満ち溢れながらも、緊張していた。なぜだろう。何か、胸騒ぎがする。
 この男は危険だ。そんな気がする。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.20 )
日時: 2015/07/08 21:53
名前: 全州明 (ID: JEeSibFs)

 それにこの男はサングラスをかけている。これでは刀の効果は薄そうだ。
 振り替えり、不良たちをみる。何度数え直しても十一人。だけど一人ずつみてみれば、足が震えていたり、腰が抜けていたり、おどおどとして、落ち着きがなかったり・・・・・・
 とても強そうには見えない。それどころか、戦力になるかどうかすら危うい。
 こいつらは、このホスト風の男の専属の部下というより、急遽集められた烏合の衆という感じだ。挑むなら、こちらかもしれない。両手にぐっしょりとにじんできた汗を、ズボンで拭いて、再び刀に手をかける。
「……猫衛門、君? 戦う、つもりなの?」
 刀を抜こうとしたその時、ヨハネスが、肩に手をかけてそれを制した。
 おかげで猫衛門は、正気を取り戻し、頭を振った。
 何をや労としているんだ僕は。この刀に、人を傷つける力なんてないんだ。これはあくまで護身用。逃げるために使うものなんだから。
 ん? 逃げるため?
 『勝つことを目的とするな。でなければ何も守れない。』
 先生の言葉が猫衛門の脳裏をよぎった。
 勝つことを目的にすると何も守れなくなる。それはなぜだろう。改めて考える。
 しかし、そうしている間にも、不良たちはホスト風の男の指示で、じわじわと距離を詰めてくる。考えている暇はない。猫衛門はヨハネスの手を取り、踵を返して駆け出した。不良たちが目前に迫るその刹那、眩いばかりの閃光が迸り、不良たちの目を眩ませる。さらにはけたたましいブザーが鳴り響き、ホスト風の男すらも、そのあまりの音量に眉をひそめ、耳を押さえた。猫衛門が刀を抜いたのである。
 しかし猫衛門は、戦うつもりなどなかった。間髪いれずに不良たちを押しのけ、強引に突破口を作り、その先へと駆け出す。その手には、確かにヨハネスの手が握られていた。
「猫衛門君! どうするつもりなの!!」
「わからない。とりあえず今は逃げよう!」
 猫衛門はようやく先生の言葉の意味を理解した。わかってみると、何も難しいことではなかった。勝てないのなら、逃げればいいんだ。そうすれば、勝つことはできずとも、大切な人は守れる。たったそれだけのことだった。今まで猫衛門は、一人で戦ってきた。その傍らに、大切な人など居なかったし、守りたい人も居なかった。だから今までの彼には、〝逃げる〟という選択肢が無かった。だから負けたのだ。逃げることは負けではない。しかし勝ちと言うわけでもない。強いて言うならば、勝敗を目的としない者の試合放棄だ。勝敗を目的とせず、はなから戦うつもりなどない。しかしだからこそ、大切な誰かを守ることができるのだ。
 背後から、大勢が走ってくる音と、怒号が聞こえてくる。それもかなり近い。物語やなんかのように、そう簡単に逃げられるものではないらしい。
「猫衛門君!!」
 ヨハネスが叫び、猫衛門が何事かと振り向くと、目の前には巨大な壁が立ちはだかっていた。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.21 )
日時: 2015/07/08 19:48
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

川村くんが何かに気づいたようですね。ホスト風の男が気になります!

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.22 )
日時: 2015/07/08 21:57
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

モンブラン博士へ

大幅に付け足しておきました。それからあちこちに修正も入れました。
その関係で先生の言った台詞が変わっております。ご注意を。

Re: 最弱、故に最強。(完) ( No.23 )
日時: 2015/07/08 22:11
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

 行き止まりにならないよう幅の広い道ばかり選らんで走ったのが裏目に出た。
 この道幅の広さでは、不良たちはスムーズにこちらに向かってくるだろう。
 しかし見渡す限り壁。あるのは引き返す道のみ。しかし、その道の先に、不良たちの影がぼんやりと覗える。
「どうしよう……」
 ヨハネスは再び泣きそうな顔になり、猫衛門の裾を強く握り、すがりついてくる。
 猫衛門はヨハネスの両肩を掴み、大丈夫だからとなだめてから、再び鞘から刀を抜いた。
 光が出ることはなく、ブザー音もノイズが走り、途切れ気味になっているこの刀に、人を傷つける力などない。しかし猫衛門は振り返り、こちらへ迫ってくる不良たちを真っ直ぐに見据える。
 その目には、かつてないほどの、ゆるぎない闘志が宿っていた。
 猫衛門は、大切な者を守るため、戦うことにした。
 風を切って全力で駆けるその足に、迷いなどなく、一直線に不良たちの方へと向かう。
 勝てるわけがない。そんなことはわかっている。
 きっと今度は全治一カ月じゃ済まない。それはそうだろう。
 けれど、やるしかないんだ。
 大切なものを守るため、正義を貫き通すため、戦わなければならないんだ。
 体中が自らを称えるように熱くなり、猫衛門は雄叫びをあげる。
 この日彼は、最強になることを決意した。