コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【五百回突破!】 ( No.35 )
日時: 2016/03/14 17:34
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: gF1/UC.2)

いつもコメントありがとうございます。ハニーちゃんにツッコミなんかさせちゃっていいのかなぁなんて不安だったので、助かります。

以降本編。
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 ————あれから何日か経ち、気付くとわたし達は学校にいる間中ずっと一緒に居るようになっていた。
「ねぇ、トイレ行かない?」
 放課中、普段より少し騒がしい教室で、静火がいつもより控えめなボリュームで言う。
 確かに、内容が内容だけど、でも、なんだか……
「あれ静火、今日はちょいテンション引く目だね」
「静ちゃんと呼びたまえ!」
 静火は途端に声を上げ、いつもの大げさな仕草で鼻息を荒げながら胸を張って見せた。
「いやだから、それはちょっと……あれだから、静火で行こうってこの前決めたじゃん」
「ん? あれ、そうだっけか? へへへ……」
 静火にしては、やけに歯切れが悪い。やっぱり今日は、あんまり元気ないのかな?
「まぁとにかくほら、行きましょうや!」
 今度は少し不釣り合いな声を上げ、ぐいぐいと背中を押してくる。なんか、やけに無理してる感じだな。
 もしかして、お腹痛い? だから元気ないのかな。
「うぅんまぁ、それはいいんだけどさ」
 違和感を拭いきれないまま、わたしはされるがままに教室から押し出され、女子トイレに連行された。
 あれ? そう言えば静火って、作り笑い嫌いなんじゃなかったっけ。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【五百回突破!】 ( No.36 )
日時: 2016/03/14 17:36
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: gF1/UC.2)


           *

「あ……」
 トイレにて、久々に見た〝それ〟に、思わず足を止めて見入ってしまう。やっぱり、浮かんでる。
「ん、どした? なんかついてた?」
「え? あぁ、いや、気のせいだった」
「そぉ?」
 そこは一応女の子なのか、静火も足を止めて鏡を覗きこみ、結び目の位置を調整し始めた。
 男子トイレより少し大きいらしいその一枚板の大鏡には、四苦八苦する静火の顔と、その目元までをも覆い尽くすような、巨大なもやもやが映り込んでいた。
 それにしても、大きいな。今まで見たのの比じゃない。まだ二時間目が終わったばっかりなんだけどひょっとしてわたし、早くも空腹極限状態?
 不自然にならないようにさりげなく、ゆっくりした動作でお腹に手を添えて見る。なるほど確かに、胃が空っぽな感じだ。……これは鳴り出す前に、なんとかしないとな。
 ぱっと目に飛び込んでくるものは、静火を取り囲むように浮かぶもやもや。
 これって、幻覚、なんだよね。ってことはゼロカロリー……
 いやいやいやいやいや、待て。待てわたし。そういう問題じゃないだろ。
 振り返り、目に止まった壁におでこをぶつける。
「どした!?」
「あ、うん。……何でもない」
「……?」
 さすがの静火も怪訝な顔を浮かべるも、すぐに作業に戻った。余程気に入らなかったのか、どうやら髪留めをほどいての本格的な結び直しを始めるようだ。
 今なら、バレないかな……
 気付かれたら絶対、頭おかしい人だと思われるよね。だって、紫の綿菓子が見えるなんて。でも、静火ならむしろ、喜んでくれるかな。
 なんて考えているうちに、いつの間にやらわたしの右手は、静火のもやもやを豪快に絡め取っていた。あぁあ、もう言い逃れできないなこれは。
「ねぇハ二ー?」
「え!? な、何?」
 静火が振り向きそうになり、慌てて右手を背後に隠す。
「なんでそんな驚いてんの? まぁ、いいけど……」
 静火はこちらをちらりと見るとすぐに向き直り、また髪をいじりだした。
 ホッと安堵の溜め息をついてから、さりげなく、後ろ手のもやもやに振り返る。やっぱり大きいな。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【六百回突破!】 ( No.37 )
日時: 2016/03/17 20:58
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: gF1/UC.2)

「————あたしって、変かなぁ?」
「え!? いや、そんなことないよ……」
「どうしたのさっきから」
「いや、ホント、なんでもないから。続けて」
「なんか、最近ね、あたし、嫌な感じがするの。その、視線とか、雰囲気とか、そういうの」
「そう? 気のせいじゃない?」
 そう言えば、今日は女子群が少し騒がしかったな。いつもはもっと大人しめなのに。
「そうかな。————そう、だよね。うん、そうだよ。きっとあたしの杞憂だよ」
「そうそう。最近はあの変な口調も直ってきたみたいだし」
「え。やっぱあれ、変、だったかな」
 静火は手を止めて、洗面器に両手をついた。少し俯いた背中で、その表情は窺い知れない。
 でも多分、傷つけちゃったかな、今。
「え? いやいやいや……」
 顔の前で手を振ろうとして、もやもやの存在を思い出し、わたしは咄嗟にパクリと一口で処理する。
「———そんなことないよ。わたしは、あれはあれで結構好きだったし」
「ホント!?」
 静火が顔を上げる。鏡を見なくても、喜んでいるのが分かる。
 まぁこれで、プラマイゼロだよね。口の中に溢れ返る蜜の味を噛み締めながら、静火の隣の鏡の前に立ち、わたしも前髪の微調整を始めた。

 ———翌日、静火は学校を休んだ。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【六百回突破!】 ( No.38 )
日時: 2016/03/17 21:59
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: gF1/UC.2)

「———さっき電話を入れたんだが、熊崎はまだ体調が良くないみたいでな。明日も来れそうにないらしい。先生は今日、出張に行かなきゃならんから、誰か、代わりにプリントを届けに行ってやってくれないか?」
 帰りのST中、担任の先生の間延びした声が響く。その声色からは、深刻さなんて感じなかった。ホッとしたような、ムッとするような、どっちつかずな気持ちになって、なんか、もやもやする……
「あれ……?」
 ハッとして手鏡を取り出して見ると、案の定、わたしの頭の上にはあのもやもやが浮かんでいた。でも、想像してたより、小さい? もしこれが、この気持ちから来るものなら、もうちょっと大きくてもいいはずだ。なのにわたしのもやもやは、今まで見た中で一番小さい。
「……じゃなくてぇ、ハ二ーちゃんがいいと思いまーす」
「え!? 何?」
 前の方の席で誰かの手が上がったかと思うと、教室中の視線が一斉にわたしの方を向き、慌てて手鏡をしまう。
「そうか? まぁ確かに、二人は仲良いもんな。それじゃハ二ー、行ってくれるか?」
「あぁ、はい。いいですけれど……」
 状況が飲み込めず、返事が尻すぼみになってしまう。でも今日の教室には、それを咎める人なんていなかった。いつもなら、『どっちやねん!!』なんて、静火が突っ込むんだろうけど。
「じゃ、ハ二ーはあとで職員室までプリントを取りに来なさい」
 そう言えばわたし、まだ静火の家行ったことなかったな。結構離れてるし。
 ———こういうのって、普通家の近い人が行くはずだけど……
 誰もいなかったのかな?

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【六百回突破!】 ( No.39 )
日時: 2016/03/19 21:41
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: gF1/UC.2)


           *

 インターホンを押すと、控えめにドアが開いた。
「なんでしょう」
 そこからひょこりと顔を出したのは、知らない女の人だった。
 静火のお母さんだろうか。それにしては若いような……
「まだ体調が良くないと聞いたので、プリント持って来ました。あの、……静火、いますか?」
 表札は、一応〝熊崎〟なんだけど。ここに来るまでに二、三度は見かけたし、ひょっとしたら熊崎違いの可能性もある。
「静火の、———お友達?」
 女の人は、きょとんとした顔で首を傾げる。
「そうですけれど……」
「まぁ! いつもお世話になっております」
 パァッと晴れやかな笑顔を浮かべ、深々と頭を下げてくる。なんか、可愛いな。
「さぁさ、どうぞ中へ」
 先程の警戒心はどこへやら、ドアをほとんど百八十度開き、脇によって道を開けてくれる。
「……おじゃまします」
「いえいえ。あぁ、静火の部屋は二階にありますので、今、案内しますね」
 その声も今は、丸みを帯びたやさしい温もりに溢れている。
 パタパタ歩く女の人の後姿は、どことなく、静火のそれとよく似ていた。
「こちらです」
 言いながら女の人は、手のひらでやんわりと階段を示す。
「あぁ、はい」
 一歩足を踏み出そうとすると、
「足元、気を付けて下さいね」
「あぁ、どうも……」
 予想外の気遣いぶりに、少し、反応に困ってしまう。別に、タメ口でいいんだけどな。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【六百回突破!】 ( No.40 )
日時: 2016/03/21 23:10
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: gF1/UC.2)


「静火?」
 案内された階段を上っていった先の扉に恐る恐る手を掛けると、つんとしたアロマキャンドルの香りが鼻をついた。その薬品めいた匂いは、リラックスのためというより、荒いアロマセラピーのようだった。
 静火は、そのもっさりと煙に包まれ、布団の上で寝苦しそうにしていた。
「あぁ、ハニーちゃん。……ごめんね、学校、行けなくて」
「そんな、いいよ。気にしないで。それより、元気そうで良かった」
 何言ってるんだろう、わたし。静火、こんなに辛そうなのに。
「そう?」
 さすがの静火も戸惑いの色を浮かべ、それ以上、言葉は続かなかった。

 ————間に流れた沈黙は、一秒を、永遠の如く引き延ばす。

 今まで静火といた中で、こんなにも心地の悪い静寂があっただろうか。
 思えばいつも、静火がハイテンションにリードしてくれていたんだ。些細な話でも、オーバーなリアクションでどんどん発展させて、盛り上げてくれた。
 どんな話でも、いつだってちゃんと聞いてくれて……
 わたしが気軽で入られたのは、なんでもかんでも本音でずけずけ話せたのは、その分静火が、気を使ってくれていたからだったんだ。
 今日みたいに、静火がフォローしきれなきゃ、静火が、我慢せずに、正直な反応をしたら、わたし達は成り立たないんだ。
 それで静火は耐え切れなくなって、学校を休んだのかもしれない。
 そうに決まってる。謝らなきゃ———
「しず……」
「ハニーちゃん」
 わたしの声を遮って、静火は、本当に辛そうに、ゆっくりと上体を起こした。
「わたし、謝らなきゃいけないことがあるの……」
「え?」
 体を起こしたことで、静火の頭が背後の鏡台に映りこむ。


 その決意に満ちた横顔は、鏡の中で、紫色に塗りつぶされていた。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【六百回突破!】 ( No.41 )
日時: 2016/03/30 00:03
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: gF1/UC.2)

「わたし、わたしね。ハ二—ちゃんを、教室で初めて見かけたとき、思ったの……」
 言い淀む静火の眉は、悲痛に歪んでいた。だがやがて、深々と息を吸うと、吹っ切れたように本音をされけ出した。
「あぁ、〝余りそうだな〟って」
「え……?」
「ほら、ハ二ーちゃんってさ、見た目が日本人離れしてるじゃない。その金髪も、どうみても自毛だし。だから皆ハ二ーちゃんには話しかけづらそうにしてて。それで何週間か経って、ある程度グループが出来た後も、案の定皆、嫌う事も避けることもできずに中途半端に距離を取ってた。だから、だからあなたになら、嫌われたって、大して変わんないだろうと思って、少なくとも一緒にわたしを嫌い出すような女子はいないだろうと思って、あなたに、話しかけたの……」
 静火はとぎれとぎれになりながらも、ぽつぽつと打ち明けてくれた。
 話し終えた静火は、憑き物が落ちたように、どこか気楽そうな表情をしていた。
 今わたしは、どんな顔をしているんだろう。怒ってるのかな。泣きそうになってるのかな。戸惑ってるのかな。

 ———ほんの少しでも、笑っていればいいんだけど。


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果たしてこんなんでいいのだろうか。どうですか? 読者の皆さん。
どうか感想を下さい。不安です。


多分、次回で最終回になると思います。

Re: 【リクエスト作品】他人の不幸は蜜の味【最終回】 ( No.42 )
日時: 2016/03/30 00:05
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: gF1/UC.2)

 ————それからわたしたちは、日が暮れるまで話し合った。
 お互いの、本当の気持ちを、全部、全部。

 今までどこかちぐはぐだったわたしたちだけど、これからは、本当の意味で仲良くできる気がする。
 いや、そうに違いない。
 あれから、少なくとも静火の周りには、あの紫のもやもやは映らなくなった。
 わたし自身、鏡を見る回数が極端に減ったせいもあるのだろうけど。
 あれがなんだったのか、何となく、分かってきた。だから最近は、ビルのガラスやなんかに映る、知らない誰かのもやもやに、わたしは、手をつけないようにしている。


 だってそうでしょう。
 このもやもやを、わたしが食べてしまったら。
 〝無かった〟ことに、してしまったら。


 きっとその人は、自分の不幸に、気付けなくなる。