コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 『不動の意志』 ( No.43 )
日時: 2016/04/13 16:32
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

今回はギャグ&戦略バトルです。
時系列的にはちょっと前の話だと思って下さい。
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プロローグ


 秘密結社〝アルティメット・エクストリーム・ゴールデン・エクスプロージョン・インターナショナル・ホールディングス・超改新AZスーパーハイパーDX(以下略)〟は、日々、世界征服を目論んでいた。だが結成二十周年を迎え、事実上の最高司令官たる前社長(小林)が他界後も、ついぞその夢が叶うことは無かった。
 いくらトップクラスの軍や兵器を揃えようとも、それを従え、使いこなす世界最高水準の指導力があろうとも、不動仁王ふどうにおうには敵わなかったからである。
 不動仁王。彼を、正義の味方と称する者は、まだいない。


 ただ、彼によって世界平和が保たれているということは、それこそ、不動の事実である。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【六百回突破!】 ( No.44 )
日時: 2016/04/13 16:38
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

 第一話 「天才兼ナルシスト」


「———社長! 部隊が全滅しました!!」
 開け放たれた社長室の扉から、連絡員が血相を変えて駆け込んでくる。
「……何があった」
 一方の社長は、疲れたとでも言うように、叱責一つせず最小限の声量で返す。
「東京都目黒区を襲撃中に戦闘部隊が不動に遭遇。数秒足らずで壊滅した後、極一部の撤退した戦闘員によって他の戦闘部隊の潜伏先が特定され、全滅しました」
「あの不動が、跡を追ったというのか?」
「いえ、詳しいことは、まだ……無線も、すぐに途絶えてしまいましたので」
「敗因さえ不明瞭ということか……」
 失敗から学ぶことは、同じ失敗を繰り返す可能性が激減するという点において大いに役立つ。だがこれまで、不動と遭遇して生きて帰ってきた戦闘員はいない。そのため、敗北からも、失敗からも、不動の出現場所以外何も得るものが無い。それこそが未だ日本さえ征服し切れていない一番の原因であることは、火を見るより明らかであった。
「田中社長!」
 バン、と派手に扉が開き、そこから一人の男が姿を現した。
 その無礼な行動を非難しようと振り返った連絡員は、しかし、何もできなかった。
 連絡員がしかめっ面で振り返るその一瞬の間に、その男は連絡員を通り越し、社長の座る大机の前まで移動していたからだ。
 これこそが彼の必殺技、〝俊足の早歩き〟である。部下たちの間では〝歩くのはや!!〟と呼ばれている。
早美双一郎はやみそういちろう、ただいま参りました」
 すらりと伸びた背に皺一つない純白のスーツを着込み、毅然とした態度で一点を見据えるその男を、人は、天才兼ナルシストと呼ぶ。
「おぉ、待っていたよ。アルティメット・エクストリーム・ゴールデン・エクスプロージョン・インターナショナル・ホールディングス・超改新AZスーパーハイパーDX(以下略)最後の希望、早美双一郎君」
「誰なんです? この男は」
 不審がる連絡員。
「そうか、そう言えばまだ、言っていなかったね、君には」
「え、えぇ、はい」
 社長の謎の迫力と言外の嫌な予感に圧倒され、連絡員は尻込みする。
「紹介しよう。こちらは早美双一郎君。英語以外の二十四カ国の言語をものの一年でマスターし、一時的とはいえ北海道地方と東日本の三分の二を征服した事実上最高の実績を誇る指揮官だった男だ。そして今日から、彼にはここ東京都本社の連絡員兼遊撃部隊隊長をやってもらう」
「連絡員兼、ですか……?」
 連絡員のシャツの襟を、大粒の冷や汗が濡らした。
「そう。つまるところ君は、———クビだ」

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【六百回突破!】 ( No.45 )
日時: 2016/04/16 19:20
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

           *

「それで、総一郎君。君は不動をどう見る?」
 社長は大机に両肘を突き、試すような視線を投げかける。
 一方の早美双一郎は、待ってましたとばかりに意味なくスーツをガバリと開き脱ぎ捨てた後、片手でザッと髪を掻き上げ、首に手を添えるお決まりの決めポーズ。
「そうですねぇ、不動の基本的な戦闘スタイルは近接戦闘だと思われるので———」
「ふん。そのくらい、俺なんかここに配属される前から知ってたね!」
 ちゃちゃを入れる元連絡員。
「構わない。続けてくれ」
 無視される元連絡員。
「思われるので! 例えば不動を中心とした半径三百メートル圏内にスナイパーを等間隔で円形に配備。互いにGPS機能付きの無線で連絡を取れるようにし、一斉に射撃させます。こうなると不動は、当然すぐに反撃にでようとしますが、半径三百メートル先に隠れたスナイパー達を見つけることが困難な上、仮に一部発見できたとしても、GPSによって常に互いの位置関係を把握しているスナイパー達は円形を保ち続けることができ、不動がそこへ向かい襲う間、必ずどこかしらの方向へがら空きの背を向けることになります。もし不動にGPSが奪われたとしても、そこに表示されるのはあくまで位置関係。具体的な距離感は分かりません。そして持ち前の筋力で岩や柱を使って大雑把に一掃しようものなら罪のない一般市民を巻き込み国を、引いては世界を敵に回すことになるため、それはそれで作戦成功です」
「なるほど、素晴らしい。噂通りのキレだね、君の頭は」
「あくまでも、不動に効く銃弾があればの話ですがね」
「じゃあ駄目じゃねーかー!!」
 野次を飛ばす元連絡員。
「君の活躍には、期待しているよ」
 外へ連れ出そうとする警備員。抵抗する元連絡員。
「ありがとうございます。ご期待に添えるよう、精一杯努力します」
 抱え上げられ、連行される元連絡員。そして、その脇を悠々と通り過ぎていく、早美総一郎。
 水を打ったように静まり返った社長室で、二代目田中社長は一人、重々しい溜め息をつくのだった。
「今度こそ、大丈夫なんだろうね……」

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ ( No.46 )
日時: 2016/04/21 18:17
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

 ————数ヵ月後

 力加減のされた小気味の良いノックを、社長、田中は久々に聞いた気がした。
 そして今まで蹴破るか体当たり気味に突っ込むかでほとんど遮蔽物でしかなかった扉がきちんとドアノブを回して開かれ、扉もまた、久々に扉らしい開かれ方をした。
「————社長」
 そこから顔を出した男も、もちろん冷や汗一つかかず、一歩一歩きちんと地に足を踏みしめて平然と歩いて来る。……相変わらず目を見張るほど速いが。
「どうやら順調のようだね。早美君」
 あの連絡員をクビにして以来、社長室には結成当初の平穏と程良い慌ただしさが戻りつつあった。
「はい。打倒不動も、時間の問題でしょうから」
「何? もうそこまでか!?」
「えぇ、後は調整だけです」
 目を剥いて驚く社長を前に、早美は依然として自身に裏打ちされた、良すぎてやや海老反り気味になってしまっているその姿勢を崩さない。
「一体、どうやって倒すんだい? あの不動を————」
「社長。不動を倒すのは、我々ではありません。世界最強たる不動仁王を倒せるのはただ一人、不動自身なのですから」
「え……?」
 社長は、理解の範疇を超えたその言動に、絶句した。