コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【八百回突破!】 ( No.55 )
日時: 2016/05/14 11:56
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

コメントありがとうございます。
次回はいよいよ不動仁王の出番です!(多分)
最近は週一のペースでしか書けていませんが、どうか気長にお待ちください。

—————————————————————————————————


「コイツしか、いないのか?」
「はい」
 数秒の思案の末に、早身は重々しい雰囲気を携えて口を開いた。
「……ジャック」
「なんでしょう」
「——————————————これでいこう」
「いやだめだろ」
 即座に社長の突っ込みが入る。
「しかしっ! この性格ならまず裏切らないかと……」
「いや正義感強すぎてあっちにつかれたらどうするの。不動二号になっちゃうよ」
「そのことなんですがね社長、実はこの固体、まだ不動仁王の半分程の力しか有していないのですよ」
「そうか、なら仕方ないな」
「言っておくけど、この性格じゃあどのみち却下だからね!?」

           *

 しばしの混沌と静寂の後、三人は場の空気をあの場に置き去りにして、会議室にて今後の計画について話し合うことにした。
「————で、どうするんだい?」
「現状最新型である〝不動盟王〟はオリジナルの半分程度の力しか出せない上、性格上敵に回る危険性があります。よって、ただちに処分すべきかと」
「へへぇ」
 殿に平伏す家来のごとく、ジャックは深々と頭を下げる。
「それと〝不動二号〟という言い回しは著作権的にあれなので、今後は使用しない方向で」
「「異議なし」」
 即座に意見がまとまる。
「それでジャック君、どうしてオリジナルの半分しか再現できなかったのかは分かっているのかい?」
「へぇ、おそらくオリジナルの鍛え方を再現しなかったのが原因かと」
「なるほど。遺伝子が同じなら、後は鍛え方さえ再現することができれば……」
「オリジナルと同等の固体を造ることができる、ということかい?」
「恐らくは」
「でも、どうやって?」
「お忘れですか社長。我らが傭兵部隊、JJJ48を」
 言いながら早美は、どこからか取り出した無線に向かって声を張り上げた。
「総員、ただちに会議室に集合しろ!!」

Re: 【不動の意志】 第二話 「不動VS」 ( No.56 )
日時: 2016/06/06 22:08
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

 第二話 「不動VS」


「待て!! 悪はそこまでだ! 不動!!」
 公園に呼び出された不動仁王を待ち受けていたのは、三人の傭兵達だった。
「灼熱の如き情熱っ! 赤きリーダー、ジョイレッド!!」
「新緑の如き思想っ! 緑の背徳者、ジェイグリーン!!」
「河川の如き俊足っ! 青き英雄、ジャスブルー」
「「「三人合わせて、傭兵戦隊 J・three!!!」」」
 赤、緑、青という何となくパッとしない三色の戦闘服を身に纏った彼らは、閉口一番そう叫び、そして、不動が無言で振るった拳によって、早くも一人が吹き飛んだ。
「「ジェイグリーン!!」」
 ジェイグリーンはその最後を残りの二人が見届けるよりも先に十数メートル先の植え木に突っ込んで消えた。
「よくもジェイグリーンを————うわっ!!」
 そしてこれまた無言で振るわれた拳をジョイレッドは後退りすれすれで躱す。だが直後に巻き起こった風に、反撃の機会を失い体勢を保つことさえ困難になる。
「甘いっ! 俺の俊足をなめるなっ!!」
 一方ジャスブルーは不動の脇の下をくぐりぬけ、がら空きの背後を捉えていた。
「ぐはぁっ!」
 が、余計な声を上げたせいで気付かれ、振り返り際の肘鉄で地面に叩きつけられた。
 無論地面には一瞬にしてバトル漫画顔負けの大穴ができ、ジャスブルーはその中央奥深くに膝から上が埋まった。
「くそぉっ! 一時撤退だ!!」
 一人寂しく声を上げ、ジョイレッドは踵を返して駆け出した。はずだった————
「あ、あれ……?」
 突如街の景色が空に切り変わり、背中を冷たい風が吹き抜ける。
「ぉぉおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 地の底から響き渡るような咆哮がジョイレッドを包み込み、空が、右から左へと高速で旋回する。
「ぎゃああああぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 ジョイレッドがようやく気付いたころには時既に遅く、不動はハンマー投げの要領でジョイレッドを遥か彼方へ放り投げた。
 にも関わらず、ジョイレッドは放物線を描くことなく一直線に空、或いはその向こうへと飛んで行った。比喩でなく、星になったわけである。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【八百回突破!】 ( No.57 )
日時: 2016/05/17 14:55
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)


           *

「なぁにぃーーーーーーーーーーー!! 不動に一言も喋らせないうちにやられただとぉ!?」
 帰って来た偵察部隊の報告は、早美さえ絶叫させるほど悲惨なものだった。
「あの〝悪はそこまでだ!〟は?」
 社長に尋ねられ、偵察部隊隊長、ジェーンは光栄とばかりに敬礼しつつ、淡々と答えた。
「あれはジョイレッドの台詞です」
「紛らわしいわっ!!」
 社長たち三人は偵察部隊が持ち込んだ無線越しにしか戦いの様子が窺えなかったため、てっきり普通の会話程度なら不動は何かしら喋っているだろうと思っていたのである。
 だが実際は、名乗った直後に次々とやられていくJ・threeたちの情けない断末魔と、偵察部隊が命がけで撤退する足音や息遣いで全てだった。
「次回からは可能な限り映像付きで頼む。以上だ」
 未だ額に冷や汗をかきながらも、早美総一郎は平静を装って指示する。
「了解です」
 ジェーンを含む偵察部隊全員が一斉に敬礼をし、足早に会議室を出て行くと、三人の誰ともなしに盛大な溜め息が漏れた。
「どうなってるんだ、早美君。君の言う通りなら今頃は不動の何かしらの音声データが取れていて、それを分析することで不動の性格や思想のサンプルが手に入っているはずなんだろう?」
「えぇ、そのはずだったのですが……」
 戦闘兼囮役と偵察部隊の二班に分かれ、戦闘兼囮役が不動との会話及び戦闘を試み、その様子を偵察部隊が録音、及び文章により記録することで性格や思想、攻撃パターンなどを分析するというのが、今回の作戦の目的だった(映像はカメラのレンズの反射によって怪しまれる恐れがあったため、撮れなかった)。
「それにしても、少々不自然じゃあありやせんでしたか?」
「というと?」
 社長が聞き返すと、ジャックはまた得意げそうに笑い、続けた。
「わたしには、どうにも不動がわざと喋らないようにしていると思えたんですがね」
「それは、一体……?」
「不動に内通者がいるということか?」
「へぇ、絶対とは、言い切れんのですがねぇ」
 ジャックのどこか煮え切らない推測が正しいことに、この時点ではまだ、誰も気付いていなかった。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【九百回突破!】 ( No.58 )
日時: 2016/05/26 21:14
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

「俺の言った通りだったろう?」
 不動が静かになった公園の公衆トイレの前を通り過ぎると、待ち構えていた黒ずくめの男が壁から背を離し、不動の背中に声を掛けた。
「あぁ。だが、お前は、……一体何者だ?」
 不動がその鋭い眼光で睨みをきかせると、男はフードを目深に被って目を逸らす。
「なぁに、俺は、しがない元連絡員さ」
 男は自分なりに精一杯恰好つけようと試みたが、風で飛んできた新聞紙がその決め顔被さり、全てが台無しになる。
「なぜ俺に味方する?」
「ある男に、復讐がしたくてね」
「……そうか」
 それだけ聞くと、不動は興味を失ったように音もなく速足で立ち去っていった。

           *

『こちら第一迎撃部隊ジロウ。100m先に目標を発見。まもなく肉眼で確認できる距離に到達し———』
 通信は、そこで途絶えた。
「また駄目だったのかい?」
「へぇ、そのようでございます」
「不動に近付き過ぎたか……」
 作戦開始から四日も経たないうちに、送り込んだ部隊が全滅しても誰も驚かなくなった。そして、一週間が経つ頃には三人の脳内に〝通信が途絶えた=全滅〟という最悪の等式が出来上がっていた。
「早美君、いくらJJJ48と言えどこのままじゃあ兵力を維持できないんじゃないかい? ジョイレッド君も、まだ見つかってないんだろ」
「はい。ジェイグリーンは全治三カ月の入院、ジャスブルーに至っては、もはや再起不能の状態です。このままこの作戦を続ければ、内部から反感をかいかねません。ですが他に方法が無い以上、このまま続けるしか……」
「総一郎様!!」
 唐突に素っ頓狂な声を上げたのは、先程からろくに会話に参加せずパソコンをいじっていたジャックだった。
「どうした?」
「不動の弱点を見つけました!」
「本当かい?」
「どうやって見つけた!」
「へへ、まぁそう焦らずに。————こちらの映像を見て下さい」

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【九百回突破!】 ( No.59 )
日時: 2016/06/02 18:34
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

 ジャックがパソコンの画面をこちらへ向け、ひょろ長い指でスペースキーを叩くと公園の監視カメラらしき映像が流れ出した。いくら不動と言えど、公共仕様の監視カメラにはうかつに手を出せないのだ。
「これは?」
「へへ、先日の、不動VSジュンの映像でございます」
「ジュン? あのラップしながらブレイクダンスでトリッキーな戦闘をする————」
 早美が言い終わらないうちに、映像の中のジュンは自慢のラップを披露し始めた瞬間塀代わりの植え木に突っ込んで消えた。ブレイクダンスにいたっては、出だしさえ映ることは無かった。不動の姿も、この位置からでは窺えない。
「どうです?」
 が、ジャックは依然として得意げだ。
「本当に、この映像で合っているのかい?」
「へぇ、間違いありやせん」
「いつもより破壊力に欠けるな。ジュンが飛ばされた高度も低い」
「さすがは総一郎様っ! 全く持ってその通りでございます!!」
 そう言われると、確かにそうだ。ジェイグリーンの時は同じ植え木でもニ、三メートル程の背丈がある木の先端付近に突っ込んだのに対し、ジュンはあって四、五十センチの塀代わりの植え木の根元に突っ込んだ。そしてジェイグリーンの突っ込んだ木は四十五度傾き、先日の強風でぽっきり折れたというのに、この小ぢんまりとした植え木は枝が折れた程度だ。
 それでも数日で枯れてしまうような致命傷だろうが、ジェイグリーンの時と同じ威力で飛ばされたならば、根元からごっそり無くなっていたことだろう。
「なるほど。以前と比べると著しく弱体化しているわけだね……」
「へぇ、この状態の不動なら、或いは現状のクローンたちでも倒せるやもしれませんですはい」
「————調べる価値は、あるな」
 早美は懐からおもむろに無線を取り出すと、既に外に居るのか、木々のざわめく音がするマイクへ呼び掛けた。
「総員、一時撤退。会議室へ」

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【九百回突破!】 ( No.60 )
日時: 2016/06/12 16:30
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

 幾度とない呼び出しに、不動が黙って応じ続けている理由に早美たちもいい加減気付くべきなのだろうが、ともあれ今日も公園の片隅で小規模なリアルヒーローショーが繰り広げられようとしていた。
 現れたのは二人の少女。それぞれ似たような衣服を身に纏いながらも、キャップの向きや髪を下ろす向きなど、右の少女は全て右、左の少女は全て左と、それぞれが対照的に統一されており、故意に違いを生み出していた。それは二人が双子であるという、偉く安直な理由である。
「ここで会ったが百年目、今日こそあたしたち〝ダブル・ミラーズ〟が打倒してやるわ!」
 踏み込んで声を張り上げたのは、左の少女ジュディアンヌ。双子の姉である。
「覚悟しな。ここがあんたの墓場よ!」
 そして意気込んだ割に姉の肩に隠れる右の少女は、妹、ジュディアンナ。今回の作戦に二人が抜擢された要因は彼女のじゃじゃ馬振りによるところが大きい。
「「ミュージック、スタート!!」」
 二人が全く同時に指を鳴らすと、どこからともなく軽快な音楽が流れ出す。それは公園全体を漏れなく包み込む、一種の包囲網だった。
「何!?」
「隙ありぃ!」
 困惑する不動に容赦なく飛びかかるジュディアンナ。だがその飛び蹴りは数センチ横の虚空を掠め、着地地点一帯に砂埃を撒き立てる。
「とぉーどぉーめぇーじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぁぁ!!」
 不動に向け間髪入れず飛び上がるジュディアンヌ。砂煙に消えた妹の代わりに標的となるのは無論彼女。それこそが本作戦の狙いなのだ。
 流れ続けるJ-POPによって一瞬反応が遅れるも、不動の拳はむしろベストタイミングでジュディアンヌの無防備な腹部に迫る。

 ————その時だった。

「ジュディアンヌぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 一人の男がおよそあり得ないスピードで割って入ったのは。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【九百回突破!】 ( No.61 )
日時: 2016/07/01 19:09
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

「あ」
 二人が気付いたころには時既に遅く、男は不動の拳を腹部に直撃させた上、味方であるはずのジュディアンヌの回し蹴りを襟首に喰らって失神した。
「ジャクソぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
 乙女の悲痛な叫び声は、夕方の街に消えた。

           *

「————で、何があった?」
 会議室にてなぜか半泣きの姉を胸元で抱きしめる妹に、もはや座ったまま問いかける早美。
「へへぇ、映像を見る限りどうもジャクソンがジュディアンヌの代わりに不動のパンチ力を測定したようですはい」
「ちょっと、待ってくれないか」
 話の腰を折ったのは、やはり社長だった。この状況に未だ馴染めずにいる彼は、知らない単語一つ一つに過剰に反応してしまう。
「さっきから、映像とか、ジャクソンとか、一体何の話をしているんだい?」
「第一、今回は偵察部隊を送り込んでいないんだろう? どうしてそのジャクソン君は瞬時に対応できたんだい?」
「「「愛です」」」
 即答だった。しかも半泣きのジュディアンヌを覗く三人中三人全員がである。
「愛って、そんなものなのかい?」
「はい。彼に限っては」
 早美が背を向けたまま面倒臭そうに答えたので、社長はそんなものらしいと強引に納得してこれ以上聞かないことにした。
「それで、弱体化時のデータは取れたのか?」
「へぇ、ばっちりでございますはい。それから、今回取れた音声データと今まで見せた様々な表情の変化から不動の精神を再現、シュミレーターの作成にも成功しました」
「そうか。……いよいよだな」
「へぇ」
「……あの、ところで映像はどうやって————」
「カメラを設置しました。公共仕様のものですので、不動とて迂闊に手は出せないでしょう」
「あぁ、……なるほど」
 社長の出番はいよいよなさそうだった。

Re: 【不動の意志】 第三話 「瞑王」 ( No.62 )
日時: 2016/07/01 19:12
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

 第三話 「瞑王」


 ————数日後。

 真昼間の街に、けたたましいサイレンが響き渡った。そして、どこからか放送が流れだす。
『————により、この街には避難勧告が出ています。住民の皆様は速やかに避難して下さい。繰り返します。不動の暴走により、この街には避難勧告が出ています。警報が解除されるまで、各自治体の指示に従い、既定のルートに沿って避難して下さい。渋滞が予想されますので、車での非難は出来るだけ控えて下さい。ご理解と、ご協力をお願いいたします。』
「ついに、この時が来たか……」
 四方八方を埋め尽くしていた人々の波が途絶えて行く中、元連絡員の男は街路樹の脇のベンチに腰掛けていた。平和ボケした能天気な表情の住民たちとは違い、彼の面持ちはいつになく深刻なものだった。が、ベンチの背になぜかひっそりと張られた張り紙『注意! ペンキ塗りたて』がその雰囲気を容赦なくぶち壊していた。
『————臨時ニュースをお伝えします。午前十二時ごろより、○○街全域に避難勧告が出されています。大変危険ですので、警報が解除されるまで絶対に近付かないでください。』
 ラジオの電源を入れると、音楽専門チャンネルでさえそんなニュースを流し出す。地方の局ではないというのに。
『今日未明、各国首脳らの緊急会議が開かれました。議題はもちろん、不動の暴徒化についてです。一晩で世界中を駆け巡り震撼させたそのニュースに、不動を刺激しないよう、戦争が一時中断された地域もあるとまで言われており、その影響力は————』
『我々は本当にその秘密結社〝アルティメット・エクストリーム・ゴールデン・エクスプロージョン・インターナショナル・ホールディングス・超改新AZスーパーハイパーDX(以下略)〟を信用していいのか。私はそれを問いたいのです』
『————彼らを信じるしかないでしょう。暴徒化した不動〝仁王〟を止められるのは、不動〝盟王〟以外にいない。』
 いくらチャンネルを切り替えても、ラジオの電源を落としても、どこからか、そのニュースは耳元へ飛び込んでくる。不動の暴徒化を、世間は皆信じ込んでいるようだった。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【千回突破!!】 ( No.63 )
日時: 2016/07/03 13:38
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)


           *

 そのころ早美総一郎は、遊撃部隊隊長として全国放送のニュース番組に出演中だった。
「————では、貴方方の総戦力を持ってすれば、暴走した不動をも止められるということですか?」
 何故か我が者顔で出演する書道家が、その割に浮付いた口調で尋ねてくる。
「その通りです。我々がこの日のために秘密裏に研究、開発した独自のシステムを用いれば、最低でも一週間以内に制圧が完了します」
「肝心のそのシステムと言うのは、いったいどういったものなんですか?」
 腕に巻いたピンクの時計を誇らしげに見せつけながら、アイドルきどりの女子アナが上目遣いをする。
「詳しくは言えませんが、広範囲にわたり不動を弱体化させる、一種のバリアーのようなものを張る装置です」
 早美はまたも身じろぎ一つせず即答する。
「バリアー、ですか。それを使えば弱体化できると?」
 早美の言葉を上の空で反芻するだけのその口からは、書道家としての威厳も、知性も、まるで感じられない。
「はい。ですがそれを持ってしても不動の力を完全に抑え込めるわけではありませんし、その装置自体人体に悪影響を及ぼす可能性がありますので、一般の方々はくれぐれも近づかないよう注意して下さい」
「強力な〝光〟を発することもありますので、望遠鏡などで覗くと失明の危険性があります。絶対に、使用しないでください。以上、ニュース速報でした。本日は特別に、書道家の押野信一さん、秘密結社(以下略)の、早美総一郎さんに、着て頂きました。ありがとうございました」
 最後は唯一知性を感じさせる、メガネの司会者役がしめた。


 控室のドアを後ろ手に締める早美の口元には、余裕と失望の笑みが浮かんでいた。
「まさか、ろくに本物と偽物の区別もつかないとはな。……情報操作するまでもない」
 そう、街で暴れる不動〝瞑王〟の映像が流れた際、その容姿が普段の不動〝仁王〟と所々違う事について指摘されるだろうとわざわざ情報操作用の台本や資料が用意してあったのだが、いざスタジオで出て見れば、皆不動を口々に非難するばかりで、誰一人としてその違和感に目を向けなかったのである。それは、本当は誰一人、不動の姿を知らないからかもしれなった。専門家気取りの解説者たちでさえも。
「へへっ、あの女子アナの腕時計も、どうみても偽造ブランドでしたしね」
「あぁ。しかもそれを自慢げに見せつけて来るんだ。あれには笑った」
 早美が出演した番組は例外のようだったが、実際、多くの報道番組が偽専門家たちの何の根拠もない情報に振り回され、素人でも分かるような矛盾や違和感に気付きもせずに全国放送で報道し続けている。確かに、今はどこも混乱しているのかもしれない。だが、何も分からないのなら、ただそこで突っ立っていればいいのだ。と、早美は思う。デマを言い振らし、余計な混乱を呼ぶよりかはよっぽどましなのだから。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【千回突破!!】 ( No.64 )
日時: 2016/07/17 17:32
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

           *

 日常の風景から人だけが消え去り、スピーカーというスピーカーからサイレンの如くJ-POPが鳴り響く街を、不動仁王はかつてない焦燥と疲労の中駆けていた。無論不動は少し走った程度で息切れなどしない。フルマラソンなど準備運動にもならないくらいだ。よってこの場合の疲労は焦燥と同じものから来ている。つまるところ精神的な疲労感だ。それらの原因は数分前のやり取りに遡る。その時不動は、元連絡員の男と行動を共にしていた。

「思ったより被害が少ないな」
「あぁ、テレビ局が撮影する箇所だけに集中しているようだ」
「奴らの目的はなんだ?」
「恐らく、この状況を利用して都心を壊滅させるつもりなんだろう」
「何!? そんなことをしたら、万単位の人間が路頭に迷うことになるぞ!」
「あぁ、そして奴らにそそのかされ、一人残らず組織に引き込まれるだろうな」
「俺はどうすればいい!?」
「奴らの、秘密結社(以下略)の、本社に乗り込むんだ!! そこでこの放送を止める頃には、不動瞑王が駆け付けるだろう」
「そうか」
 待ち切れず駆け出そうとする不動を、元連絡員が慌てて呼び止める。
「一つだけ、言っておくことがある」
「————なんだ? 早くしてくれっ!!」
「瞑王の装備は絶対に壊すな」
「何故だ」
「どうも奴らは、その装備によって瞑王本来の力を押さえ込んでいるようなんだ」
「それがどうした? 俺はもう行くぞ」
 不動の背中に、元連絡員は叫ぶ。
「不動瞑王は、————お前より強いかも知れない!」
 それを聞いてか聞かずか、不動仁王の背中は、立ち止まることなく小さくなって行った。

 今、不動はかつてないほどに焦っていた。〝最強〟と言う、最大のアイデンティティが脅かされようとしているからだ。勿論装備を破壊した上で瞑王を倒すことが出来れば済む話なのだが、もし仮に、万が一にでも不動が敗北した場合、一体誰が、代わりに世界を救うのか。それが問題だった。
 自分のアイデンティティを保持するためだけに、世界の平和を脅かしていいはずがない。何か、自分が瞑王よりも強いという確証が無い限りは。
「————ここか」
 気がつくと、秘密結社(以下略)の本社ビルはもう目前に迫っていた。まだ、答えはでていない。それでも不動は大地を力強く蹴り上げて、躊躇なく突入するのだった。

           *

「うおおおぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぉぉ!!!!」
 シャッターで締め切られた入口を、咆哮とともに突き破る。戦車の砲撃にさえ耐えるシャッターも、不動の前では弱体化して尚紙クズ同然である。
 勢い余って奥の二重扉まで貫通したらしく、不動は白いタイル張りの玄関ホールに躍り出た。そこは、並みの体育館が丸ごと入るほどの広々とした空間だった。J-POPは、相も変わらずけたたましく反響し、不動を苦しめる。
「————遅かったな。不動」
 声のした方を見やると、ホールの中央に、会社で使われるような回転式の椅子が一つ、ぽつりと置かれている。声の主はその上で手足を組み踏ん反り返っていた。
 眩い金髪に、皺一つない純白のスーツ。そして、一点を見据えたまま揺るがない、我の強い双眸。不動は、その男に覚えがあった。が、名前はわからない。
「お前がリーダーか?」
 不動が臆することなく問うと、金髪の男はおもむろに立ち上がり、スーツの襟を整えてから、自信に満ち溢れた顔で口を開く。
「そうだ。が、違う」
「なんだと?」
 不動は言葉遊びでからかわれた気分になり、眉間に皺を寄せる。
「俺の名前は、————早美総一郎だ!!」
 早美が踵で椅子を蹴り上げると、目にも止まらぬ速さで線となって吹き飛び、天井に突き刺さった。
「な……」
 その常軌を逸した脚力に、不動でさえ、驚きを隠せない。
「不動仁王。お前は今日、————ここで死ねっ!!」


—————————————————————————————————————

次回はいよいよクライマックス。順調にいけば最終話です。
諸事情により更新がやや遅れるかもしれません。ごめんなさい。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【千回突破!!】 ( No.65 )
日時: 2016/07/10 08:38
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

           *

 早美が髪をがばりと掻き上げると、不動は失念していたその正体に思い至った。
「そうか、お前は————」
「ふん、やっと気が付いたか。俺は昔、繁華街最強として名を連ねたホストだった」
 無論、最強なのは集客力ではなく戦闘力の方である。当時の早美はそのあまりの目つきの悪さに控えめに言って人気が無かった。
「そして今は、〝都心〟最強の連絡員だ!」
「何!?」
 一直線に駆けてきたかに見えた早美が、衝突寸前で消える。
「ぐっ!!」
 直後、不動の右肩に激痛が走った。慣れない感覚に、堪らず呻き声が漏れる。
「ふっ、お前の肌に並の武器が通らないことぐらい、調査済みだ」
 言いながら、早美が背後に着地する。その左手には、いつの間にか朱色に発光するサバイバルナイフが握られていた。早美がそれを振るうと、熱風が空を切った。
 不動が手探りで傷口を確認すると、血は出ておらず、窪みが出来たままかさぶたのように固まっていた。
「そんなものを使わなければ、俺に勝てないか?」
 安い手だが、自信過剰なナルシストほどこの手の挑発に弱い。
「悪いか。何せお前は、〝世界〟最強何だろう?」
 が、早美に関してそれは例外だった。彼の自信は堅く揺るぎない。
「あぁ、……そうだ」
 待ち受けているであろう瞑王との戦いに少しでも体力を残しておきたい不動だったが、やはり頭脳戦は性に合わないようだ。例によって実力行使に出ることにした。
「はああぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぁぁっ!!!!」
 予想外だったのか避け切れず、不動の突進は早美の半身を掠めた。
「ぐはっ!!」
 それだけで早美の体は回転がかって宙を舞う。何とか片手を地に突いて逆回りに飛び上がり着地するものの、反動を殺し切れない。それでも早美は頑なに、余裕の笑みを崩さなかった。
「ふん、やはりか。今のお前は、最強とは程遠い!」
 そして、あろうことかサバイバルナイフを見せつけるようにして投げ捨てる。
 刹那、早美の拳が不動の首元に襲い掛かる。
「っ!! どういう意味だ!」
 不動はそれを背後に飛び去って躱し、汗ばんだ口元を拭った。
「データ通り筋力や動体視力の低下が著しい上に、精神の動揺も大きい。————つまるところ、俺の勝ちだ!!」
 タイルが砕けるほど踏み込んで、早美は急激に加速する。そして衝突すれすれで跳ね、不動の頭上に飛び上がる。————が、その足首を捕らえる厚い掌があった。
「何だとっ!?」
 振り返ると、純白の壁が迫っていた。

 首から上がタイルの床に埋まった早美総一郎を尻目に、不動は上の階へ続く階段を探す。しかし、白で埋め尽くされたこの部屋で、それを見つけることは困難を極めた(念のため白色に塗りたくられていた)。
 いっそ天井を突き破ろうかと頭上を見上げた不動の耳に、瓦礫を掻き分ける音が響く。
「ごほっ!! ……やはり、以前より弱体化具合が顕著だな」
 己の目を疑う不動を前に、早美は元通り余裕の笑みで佇む。
「徹夜で選曲した甲斐があった」
「どういうことだ!?」
「お前のことなど調査済みだ。何度も言わせるな。お前、J-POP、本当は好きでたまらないんだろ」
 早美は息をつまらせながら滔々と語る。
「お前の精神シュミレーターで細部まで検証したんだが、お前はどうも敢えて自分を好きなものから遠ざけ、嫌いなものを間近に置くことで心身を鍛えあげたらしいな。結果、最強になるころには〝好き〟と〝嫌い〟が反転してしまった」
「……」
「誰か、大切な人でも失ったのか、不動?」
「……」
 不動は答えない。ただ、開き切り充血した瞳は、怒りの炎に震えていた。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ ( No.66 )
日時: 2016/07/10 10:10
名前: モンブラン博士 (ID: EBP//tx7)

不動が好きなものと嫌いなものが逆転したとは驚きました。
どうやら敵は不動を激怒させてしまったようですが、これはもう敵の敗北フラグですね……瞑王との決戦も残っていますし、これからが楽しみです!

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【千回突破!!】 ( No.67 )
日時: 2016/07/17 17:34
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

「お前に、俺や、都心で働く人々の気持ちが分かるかっ!!」
「分からないな。……興味もない。俺に分かるのはただ、お前に勝つと言う事だけだ」
「それは、————どうだろうな?」
 不動が意味ありげな視線を返し、早美が顔を曇らせる。そして少しの沈黙の後、

 J-POPが止んだ。

「おいっ! ジュン、ジャック。J-POPはどうした!?」
 慌てて無線機を取り出す早美。しかし、一向に繋がる気配が無い。
「お前の負けだ。早美」
 音もなく現れた丸太の如き拳は、数センチ手前の空を掠めた。
「ぐぅあぁっ!!」
 が、早美が無事であるはずがない。数十メートル先の床に投げ出され、全身を強く打ち付けた。抉れて捲れ上がったタイルに埋もれ、立ち上がることもできぬまま、早美は何も無い天井に叫ぶ。
「瞑王を呼び戻せっ!!」
 その声は、微かに震えていた。


 早美を問いただそうと歩む不動の足を、背後の轟音が止めた。
 振り返ると、不動に勝るとも劣らぬ〝気配〟が、そこにはあった。
 不動瞑王である。
「……」
 不動は、口にすべき言葉が分からなかった。無論それは、恐れ戦いたからではない。驚いたからである。世間が自分と勘違いしているはずの、そのクローンの姿に。
 顔は焦げた息を吐く鈍色のマスクに隠れ、上半身には怪しげに光るパワードスーツのような装備を着、下半身はいやに真新しい鎧で覆われていた。目元にはめ込まれた赤いレンズの下に眠る双眸は、どんな面持ちなのだろう。
「お前が、俺のクローン、なのか……?」
 瞑王は、息苦しそうな吐息で返す。
「世間は、お前と間違えているのか?」
 不動は、人々という者たちが、空恐ろしくなった。


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モンブラン博士へ

コメントありがとうございます!
お察しの通り早美の負けです。J-POPが止まなくても結果は変わらなかったでしょうね。


ちなみに早美は『最弱、故に最強。』に出て来たホスト風の男だったりします。どなたか気付きましたか?

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【千回突破!!】 ( No.68 )
日時: 2016/07/11 07:16
名前: モンブラン博士 (ID: EBP//tx7)

早美がホスト風の男だったとは全く気が付きませんでしたが、何より驚いたのが瞑王の姿です。クローンなのに全然似ていないうえに、どこかしらダースベイダーというかベインのような不気味さ恐ろしさを感じます。
これが人々の不動に対するイメージなんですね。でも彼は確かに怖いのでそんな感じになるのもわかる気がします。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【千回突破!!】 ( No.69 )
日時: 2016/07/16 14:07
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

 瞑王の放った拳を不動が片腕で弾いたのを合図に、壮絶な攻防戦が展開した。鉄さえも溶け落ちるような熱気に包まれ双方の拳がいくつもの残像となってぶつかり弾き合う。素人目には分からない程僅差だが、不動がわずかに優勢だった。何より受けるダメージが違う。
 ……このまま押し切れば勝てる。
 開始数秒の手ごたえでそう確信していた。が、不動はどうしても決め手となる一撃を繰り出せない。敵の足元が揺らぎ始めている今、敢えて持久戦に持ち込まずとも勝てる。だがそれは、瞑王の装備が本来の力を抑えつけているからだ。
 そんな先入観が脳内に染み付き、葛藤となって渦を巻く。
 最終的に不動は、今頃こちらへ向かっているであろう元連絡員の男に問題を丸投げすることで精神的不安を和らげた。今はただ、待っていればいいと。

 ————ところで、お忘れではないだろうか。現在元連絡員の男は現在うっかり座ったペンキ塗りたてのベンチに貼りついてしまった衣服と格闘中なのである。彼にはJ-POPを止める暇も不動の元へ向かう余裕もないのだ。無論、このまま待っていても彼は来ない。
 来るのは、J-POPを止めた、別の誰かである。


「不動さんっ!!」
 声のした方を振り返ると、一人の小柄な少年がいた。首のあたりまでかかるふんわりと柔らかな金髪に、切れ長の水色の瞳。そして雪と見紛うような白い肌。誰あろう、————アップル=ガブリエルだ。
「何故お前がここにいる!?」
 片腕で瞑王の攻撃を防ぎつつ半身で振り返る。不動でさえぎりぎりの離れ業だ。
「説明は後で! どいて下さいっ!!」
 不動が瞑王の前からどくよりも早く、脇を小さな頭がくぐり抜けた。
 それはしなやかな金の糸を振り乱しながら駆けていくと、衝突寸前に飛躍し、瞑王の頭上を跨いだ。————奇しくもそれは、早美と同じ戦法だった。
 そして数メートル先に着地すると素早く踵を返し、ガブリエルは瞑王の背後にひた走る。
「たああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 その手には、いつの間にか巨大な鍵のようなものが握られている。
「何をする気だ?」
「離れてっ!!」
 ガブリエルが瞑王の背中に消えた直後、強烈な光を発した凄まじい爆風が辺り一帯を包んだ。


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コメントありがとうございます。
今回、アップル=ガブリエルを登場させたわけですが、口調は問題ないでしょうか?
瞑王の姿については後々わかってきます。お楽しみに。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ ( No.70 )
日時: 2016/07/16 17:40
名前: モンブラン博士 (ID: EBP//tx7)

口調は問題ないです。瞑王の正体が気になります。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【千回突破!!】 ( No.71 )
日時: 2016/07/17 17:28
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

 第四話 「死す」


 視界を覆っていた煙が晴れると、二つの人影が、変わらずそこに佇んでいた。
 うち一人の足元には、既に原型をとどめていない、こげついた怪しげな装備が転がっている。
爆風の残滓か、一陣の風が吹くと、最後まで顔を覆っていた鈍色のマスクはあっけなくその残骸の中に落ちた。
「……やはりお前も、俺と〝同類〟か」
 不動は瞑王の〝額〟に刻まれたものを一瞥し、左腕で自らの〝額〟を拭う。
「本当はもう、随分と前から分かっていた。が、俺にはそれが許せなかった。認めたくなかった。……だから、だからせめて、俺は、————ここでお前を倒す!!」
「……」
 瞑王は空気に殺気が滲み出たのを敏感に察し、さりげなく身構えた。
「覚悟っ!!」
 タイルが凹むほど強く踏み出して、不動は急激に加速する。瞑王はそれに、ただ無言で向かい打つ。
 不動は全身が張り裂けるような雄叫びとともに、瞑王の懐に特攻した。

           *

 しばらくした後、ガブリエルはようやく瓦礫の中から抜け出した。爆発の衝撃で壁に突っ込んでしまったのだ。
「不動さん?」
 肩から滑り落ちた壁の破片が、嫌に大きく響く。まるで、世界に一人取り残されたようであった。事実、煙が晴れ切って尚、動く物影は見当たらない。
「不動さ————」
 言い掛けて、前方の瓦礫の山が弾け、巻き起こった砂埃の向こうに人影を見つけた。
「そこにいるんですか?」
 ややあって、瓦礫の山から身を起こした人物は、〝不動〟でも、〝瞑王〟でも無かった。
「不動は死んだ」
 立ち上がった金髪の男はただそれだけ言って、左の方を指す。ガブリエルが恐る恐るその指先を視線で辿ると、そこには示し合わせたように鏡合わせの姿勢で横たわる、二つの死体があった。


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モンブラン博士と読者の皆様へ

おわかりいただけたでしょうか。設定の崩壊も矛盾もありません。
ヒントは、……そうですね、〝研究過程〟です。
研究に○○は付き物ですからね。詳しくは次回に。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【千回突破!!】 ( No.72 )
日時: 2016/07/22 20:11
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

「そんな……不動さんっ!!」
 ガブリエルが走り寄り、いくら揺さぶっても、不動の体は嫌に重く、まるで反応がない。
「おかしい。あの不動さんが、こんなに簡単にやられるはず……」
「ふん、素直に負けを認めろ」
 勝ち誇った顔でガブリエルを見下ろす早美。直後、真後ろのシャッターが紙クズの様に吹き飛んだ。

           *

 つんざくような轟音とともに現れた、入り口を覆い隠すほどの人影は、果たして不動仁王であった。
「待たせたな。早美総一郎」
 猛禽類の如く鋭い眼と茶色の長髪。筋肉隆々の鋼。そしてはち切れそうな袖なしのシャツに迷彩柄のズボン。その全てが、彼の存在を肯定していた。
「な……どういうことだっ!?」
 さすがの早美と言えど、驚愕で言葉を失いかける。が、すぐに頭を振って思い直し、フル回転させた頭で一つの可能性を見出す。
「おい、ジャック、聞こえるか? ジャックっ!」
 無線機は未だ砂嵐の真っただ中にあり、復帰する気配はない。
 早美は短く舌打ちをして、不動達に神経を尖らせつつ倒れ伏す二つの死体へ歩み寄った。そして、その両の頭を持ち上げ、見比べる。
「何をしている?」
「黙っていろ! ————くっ、やはりか……」
 早くも人肌の血色を失いつつある二つの頭。その額には、それぞれ数字が刻まれていた。
『02』と、『03』である。
 それは、この二人が滑稽な茶番劇の末犬死にしたことを示していた。
 なぜならこの二人が、〝盟王〟と〝瞑王〟だからである。


 仁王は、未だ健在だ。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ ( No.73 )
日時: 2016/07/23 06:03
名前: モンブラン博士 (ID: EBP//tx7)

どこで偽物と本物が入れ替わったのか気になります。
最後の不動の登場シーンは安定のカッコよさがありますね!

Re: 『不動の意志』 (完) ( No.74 )
日時: 2016/07/23 13:29
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: GrzIRc85)

『総一郎様、聞こえますか? 総一郎様っ!!』
 唐突に復帰した無線機からジャックの声が漏れる。
「ジャックか。一体どうなっている!? 状況を説明しろ」
『あぁ、総一郎様。ご無事の様で何よりです。先程裏口のシャッターが破壊されているのを社員が発見いたしました。正面入り口のバリケードもたった今突破されたようです。お気を付け下さい! 不動めがまもなくそちらに————』
「もう来ているっ! それよりも、状況を説明しろ!! 何故まだ盟王が生きているんだ? 人格に問題ありで処分したはずだろ!」
 具体的に言うと、正義感が強すぎたのである。
『へぇ、それが、その、何と言うか、————脱走いたしまして……』
「どういうことだ?」
 早美の声に怒気が混じり、ジャックは無線機越しに肩を縮こませる。
『それが、どうも元連絡員の男がクビになった後もちょくちょく社内を出入りしていたようでして。データを取るのに使うと称して持ち出した様でして————』
 早美は大方状況を把握すると、そこで無線を切った。傭兵といえど、これ以上部下に情けない声を聞かせるわけにはいかない。
 顔をあげると、丁度不動達も何かの話合いを終えたようで、こちらをじっと見据えていた。
「引くなら今のうちだぞ。熱海あたみ
早美はやみだ」
「……まだ街の被害は少ない。怪我をした民間人もいない。ここで素直に降伏し、真実を公にするというのなら、俺はお前をどうこうするつもりはない」
「ふん、隣のガキに何を吹きこまれたか知らないが、お前にしてはやけに平和的じゃないか」
「……だがな、俺は天下の早美総一郎様だ。社長をさし置いて事実上ここのトップだ。部下たち————社員たちにも家庭はある。俺がここで、引き下がることはできないっ!!」
 震えを掻き消すように振り絞って出したその声は、ホールの壁に染み込む。
「例え如何なる形でも、……負けられないんだよっ!!!!」
 早美は空が割れるほど強く蹴り出して、瞬間的に加速する。張り裂けるような全身全霊の叫びで恐怖を打ち破り、不動目掛けて突っ走る。それを無謀だと、誰が笑うだろうか。勝ち目はないと、誰が言うだろうか。
 あの最強たる不動仁王でさえも身構え、早美渾身の一撃を正面から迎え撃つ。
 激突の寸前、不動が左腕を、早美はそれに被せるように右腕を、力の限り振り被った。
「あれは、クロスカウンターっ!!」

 早美とて、勝算がないわけではなかった。不動の勢いをほぼ100%活かしたこの一撃は、事実不動に痛烈なダメージを与えることが出来る。が、一つ、大きな誤算もあった。

「あああぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぁぁ!!!!」
 断末魔をあげ吹き飛んだのは、早美一人。
 不動のパンチは躱せても、作用反作用の法則は絶対なのである。
 そして不動は例によって圧倒的防御力と脚力を兼ね備えているため、地面に大穴が開くことはあっても吹っ飛ぶことはない。一方の早美は背中で天井を突き破り、線となって空の彼方へ消えた。

           *

 崩れゆく秘密結社(以下略)を後にし、二人は、何故か人が座っていたかのような形で塗装が剥げたベンチに腰掛けていた。
「ガブリエル。俺は、強くなりすぎたのかもしれない」
「え?」
「あの元連絡員の男から聞いた。街で暴れていた俺の偽物は、酷く恐ろしい姿をしていたそうだな」
「うん」
「だというのに、誰一人として俺だと信じて疑わなかった。それはつまり、俺があんな姿で、あんなことをしていてもおかしくないと思われているってことなんじゃないか」
「それはそうだけど……でもそれは、きっと、知らなかったからだよ」
「何?」
「あの街の人たちが、不動さんのことを知らなかったから、強いらしいってだけで、勝手に恐い人だと思い込んでた。それだけなんじゃないかな」
「だから、それが問題なんだ。こんな姿で、こんな強さで、今更、公の場に出て行っても、きっと誰も、俺を信じてはくれない」
「大丈夫だよ」
 俯き落ち込む不動の背に、ガブリエルが優しく声を被せる。
「不動さんは、今でも十分弱いから」
「何故そう思う」
「だって不動さん、まだ大好きなんでしょう、J-POP。だから集中できなくて、弱体化しちゃうんだ。じゃっく?って人が、そう言ってたよ。それが、不動さんの弱みで、それで、不動さんらしくて、親しみやすいところでもある。僕はそう思うよ」
「ガブリエル……」
「さぁ、行きましょう、不動さん。早く皆に、真実を伝えないと」
 ガブリエルはすとんとベンチを降りると、数歩歩いて振り返り、不動に手を差し伸べる。
「不動さんはもう、この街を救った正義のヒーローなんですから」
「あぁ、————そうだな」
 不動は、少し遅れてその手を取ると、おもむろに立ち上がる。
 きっと、二人が何を言おうと、如何なる証拠を突き付けようと、世間はその真実を、すぐに信じはしないだろう。それでも二人は、歩き出す。平穏を取り戻した、いつも通りの日常へ向かって。〝影〟のではなく、〝隠れた〟でもなく、誰にとっても、正義の味方であるために。


 不動の意志は、揺るぎない。

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ご愛読、ありがとうございました。第三話、『不動の意志』はこれにて完結です。
本当に、ありがとうございました。

モンブラン博士、並びに多数の読者の皆様。
大変お忙しい中僕の拙い文章とのろまな更新に付き合ってくれてありがとうございました。
人様のキャラを僕なんかが使いこなせた気はしませんが、それでも本当に楽しかったです。


ありがとうございました。ではまた、どこかで会いましょう。