コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ ( No.9 )
日時: 2015/06/01 19:26
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

 あの日あの場所で、一体何があったのか、猫衛門は、あまりよく覚えていない。
 近道だからと人気のない路地裏に入ったような気もするし、意味もなく遠回りをして、通学路から遠く離れた、知らない町をうろついていたような気もする。
 ただ自分が、悠聖たちに負けたのだろうと言う事は、体中に巻かれた包帯を見るだけで、痛いほどよく分かった。ベッドから体を起こし、下半身を見る。幸い、軽いすり傷ができているだけで、足には大した怪我は負っておらず、退院は、一カ月も待たなくて良さそうだった。

 ……頭がぼんやりとする。うまく機能していないようだ。よほど長い間眠りについていたのだろうか。
 視界が霞み、はっきりとしない。自由に動かすことができるはずなのに、体がずっしりと重い。
 しかし頭はふわふわとして、まるで要領を得ず、何を考えようにもうまくいかない。
 まるで馬鹿にでもなった気分だ。重い体を引きずって、猫衛門はカーテンを開ける。外から光が差し込んで、一瞬目が眩む。ベッドからカーテンに至るまで、白に統一された、清潔感のある部屋。
 どうやらここは病院らしい。ようやく思考が追いついて、自分の置かれた状況を、なんとなく理解する。さっきも同じような事を考えた気がするけれど、どうだっただろうか。よく思い出せない。窓の外には、見知らぬ景色が広がっていた。
「おぉ、目が覚めたか。お前の友達が心配していたぞ」
 病室の扉が開き、先生が顔出した。腕にはたくさんの果物が入ったバスケットを持っていた。
 大柄で、怖そうな外見の先生が持っているせいで、酷く場違いなものに見えた。
「先生、ここはどこの病院なんですか?」
「あぁ、俺もお前と同じ救急車に乗ってきたもんだから、具体的にはわからないんだが、大事を取って、山奥の、設備の整った病院に運び込まれたらしいぞ」
「……えぇと、つまりここは、山奥なんですか?」
「そういうことになるんじゃないか? 多分」
 先生は、口にこそ出さないが、家に帰らずに、ここで一夜を明かしたのだ。
 そのせいか、目の下に、うっすらと隈ができていた。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.10 )
日時: 2015/07/08 21:55
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

「……まぁ何にしても、もう悠聖のことはもう、心配するな」
「え?」
「アイツは、転校することになった。他県の学校にな。両親が、かなり世間体を気にする人たちでな」
 先生は、近くにあった、背の低い椅子に腰かけて、棚の上にバスケットを置いた。
 そして小さく溜め息をついてから、言った。
「……だから、復讐の復讐なんて、馬鹿な真似はするんじゃないぞ?」
 猫衛門の目を見据えて、はっきりと。
「でも僕は、あいつらに勝ちたいです」
「無理だ。集団相手に勝ち目は無い。それに悠聖の連れて来た奴ら、アイツらは、人を平気で傷つける、そんな奴らだ。喧嘩慣れしている上に、近隣の暴力団とも繋がりがある。二度と関わらない方がいい」
 先生は、手に取ったリンゴを剥きながら、当たり前のように言った。冷たい声だった。
「でも先生は………勝ったじゃないですか。僕の目の前で、高校生くらいの集団を、追い払って見せたじゃないですか」
「いいや。俺は勝ってない。俺はただ、一人の教師として、危険にさらされた生徒を助けただけだ。あれを勝ちとは言わない。そもそも、戦ってすらいないのだからな」
 そうだ、そうだった。猫衛門は思い出す。確かにあの時先生は、戦っていない。力など、振るっていない。ただ突っ立って、大声をあげた。それだけだった。
「いいか川村。勝つことを目的とするな。でなければ何も守れない。わかったな」
 先生は語尾を強め、否定を許さな言い方をした。猫衛門は、頷きざるを得なかった。
 猫衛門は頭の中で、その言葉を何度も反芻してみたが、今はまだ、よくわからなかった。勝たないで、どうやって大切なものを守るんだ。そんな風に思った。

Re: 【リクエスト作品】ザ・オールスターズ【百回突破!】 ( No.11 )
日時: 2015/06/04 21:29
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

 次に先生が見舞いに来たのは、退院する前日のことだった。
「先生、これから僕は、どうやって強くなればいいんですか?」
 開口一番に、猫衛門は先生に尋ねた。
「お前は、どうしてそんなに強くなりたいんだ?」
 先生は逆に質問されて、猫衛門は戸惑い、少し考えてから、答えた。
「だって僕は、弱いから。だから、悪い奴を、気に入らない奴を、倒せずに、黙って見過ごすことしかできないんです。立ち向かっても、勝てたことなんてないし…… 先生、僕は正義を貫き通したいんですよ。悪い奴らを、懲らしめてやりたいんですよ」
「………そうか。だがな川村。それは正義じゃない。エゴだ。お前の自己満足だ。悪い奴らを倒したらそれで、そいつらはもう、悪いことをしなくなるのか? 誰も苛められなくなるのか? 俺はそうは思わない。悪い奴らは倒すだけじゃ反省なんてしないし、イジメも、ただターゲットが変わるだけだと思うぞ」
「じゃあどうすれば……!!」
「困ってる人を助けろ、大切な人を救え。それが本当の正義だ。やられたからやり返したって、何も解決しない。何の意味もないんだ」
 猫衛門は、納得がいかなかった。先生とは、波長が合わないんだと思った。
 自分が間違ってるなんて、考えもしないままに、退院した。


 怪我は、跡かたもなく消え去っていた。学校ではたくさんの人に心配されて、声を掛けられたけれど、猫衛門は今、そんなことに構っている場合ではなかった。
 強くなりたい。頭の中は、そのことで一杯だった。
 悠聖たちに、抵抗できずに大怪我を負わされて、その想いは、より一層強くなっていた。