コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- —— Series × Story —— ( No.4 )
- 日時: 2015/06/02 18:44
- 名前: 御子柴 ◆InzVIXj7Ds (ID: SnkfRJLh)
木造二階建てで築三十年のボロアパート。ちなみにワンルーム。仕事が終わって部屋のボロいドアを開けたのは深夜1時過ぎだった。ただいまに返事をしてくれたのはナイスバディな彼女……ではなく、独り暮らしにぴったりの小さな冷蔵庫のブーンという機械音。
汗臭いTシャツを脱いで洗濯機の中に投げ入れてから、可愛らしい小さい冷蔵庫の取っ手を握った。冷蔵庫を開けたことで暗闇の中にぼんやりと明るい空間が生まれる。嫌な臭いが鼻につくも、頭を冷蔵庫の中へと近付けた。
無い。ビールは勿論、キャベツの切れ端すら無い。瓶詰めの鮭フレークしか見当たらない。米が無いからこれは使えない。舌打ちをして、床に転がっていたおそらく洗濯済みのシャツを着て、ズボンのポケットの中に手を突っ込んだ。いち、にい、………。五百円玉と百円玉数枚の感触を確かめて、再びボロいドアを開けた。
全く、世の中は便利になったもんだ。24時間営業のコンビニがそこらじゅうにあるんだから。しかも歩いて行ける。ポケットの中の小銭を弄びながら電灯に照らされた道を歩いていた。
徒歩5分のコンビニまであと少しに。コンビニの駐車場には車が二台。……と、じょ、女子高生じゃねーか。コンビニの入り口の近くの——雑誌売り場のガラスの壁を背凭(せもた)れにして、群青色のブレザーを着た女子高生が立っていた。スクールバッグを地面に置き、暗めの赤色のリボンをだらしなく着け、手に持ったおにぎりを頬張っていた。俯き加減で顔はよく見えない。
ジロジロ見ていては通報されかねないので、横目でチラリと見てすぐに店内入った。あの制服は確か、ここからすぐ近くにある高校のやつだ。超進学校とまではいかないが、悪い噂は聞かず、この辺りでは頭の良い部類に入る高校だ。そんな学校の生徒がこんな夜中に何してんだ。パッと見た感じ“ギャル”ぽっくなく、髪も染めてない黒色長髪のごく普通の子。
………いいや、ああいう真面目な子ほど裏で何かやってるもんだ。変なおっさんと待ち合わせでもしてるんじゃねーのか? まぁ、関わらないのが一番だ。事件に巻き込まれちゃ困るからな。
ビール缶と売れ残っていた弁当を手に取ってレジに置いた。
「568円です。温めますか?」
「あー……お願いします」
ポケットの中の小銭を掴んで取り出し、釣り銭トレーに置いたソレを見て驚いた。400円しかなかった。
レンジに弁当を入れて戻ってきたにーちゃんが不審そうに俺を見る。
「ちょっと待ってくれ」
五百円玉を取り出すのを忘れたんだ。もう一度ポケットに手を入れて中を探るが、それらしきモノが無い。
にーちゃんは温め終わった弁当を袋に入れ、そこにビールを入れていた。
おいバカ。ビール買うのやめるって言い難いじゃねーか。しかしどうして五百円玉が無いんだ! あの感触は確かに五百円玉だったぞッ!
「………600円ですね。お釣りです」
あたふたしていた俺に、にーちゃんが32円を差し出した。
「お、おう……」
日々頑張っている俺へのサービスか? と思ったが、そんな事はなかった。足りない200円をにーちゃんに差し出す小さな手。ポケットに受け取った小銭を入れながら、視界の隅に映った手の存在を思い出した。
ハッとして横を向くと、一人の客が店を出ていき、自動ドアが閉じたところだった。俺は袋を掴んで慌ててその後ろを追いかける。
「おい、嬢ちゃんッ」
少女の手首を捕まえた。店内に入ってくる前に見た、店の前でおにぎりを食っていた女子高生だった。
彼女は驚くことなく黒目がちな目を俺に向ける。
「おっさん、お金持ってなさそうに見えたから……」
それだけ言って手を振り払おうとしたので、俺は慌てて手首を握り直した。
「待てよ。ホラ、200円、返さなきゃなんねーだろ? 家近くなのか?」
「いいよ200円ぐらい」
「女子高生に奢ってもらうとか、俺のメンツ丸潰れなんだよ!」
「おっさんのメンツとか、私に関係ない」
冷たい目をした彼女は、言い返そうとする俺を置いて暗闇に消えようとしていた。電灯の無い暗い道を歩く彼女の背中を目で追っていると、鼻の頭に水滴が落ちた。
そう言えば雨の匂いがしていたっけな。本降りになりそうで、どうしたものかと思っていると、赤色の折り畳み傘をさした彼女が戻ってきた。彼女は腕を伸ばして俺を傘の下に入れながら言った。
「おっさん、傘持ってなさそうに見えたから……」
「……親切なのか失礼なのかわかんねぇヤツだな」
「美少女なのは確かだけどね」
「自分で言うな。……で、送ってやるよ。家は?」
「……………公園」
「なんだ家出か? 若いねぇ、青春だねぇ」
「黙れよクソジジィ」
「警察に突き出すぞ」
「いいよ。『このおっさんに誘拐されました』って言うから」
「チッ、これだから今の若いヤツは。俺が叩き直してやる! 来い」
「えっ、おっさんの家行っていいの? ラッキー」
とまぁ、そんなこんなで、俺は赤の他人の、しかも女子高生を自分の家に上げた。言っておくが、俺は逮捕されるようなことは断じてしていない。誓って“いかがわしいコト”はしていない。
取り敢えず、これがアイツと俺との出会いとかいうやつだ。
■ 出会い
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『モテないおっさんと無愛想な女子高生』シリーズ 1