コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: つれづれなるままに、カオス(ミルクソテー風味) ( No.1 )
- 日時: 2015/07/05 11:26
- 名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: OHW7LcLj)
竹輪。それは魚のすり身をキャノン砲状に造形し、多大なる魔力をこめた魔道具である。
時は戦国、多くの人が竹輪で自分たちを殺しあった。
そんな悲痛の時代に、迷い込んだ男がひとり————。
竹本さん(39歳独身)は道に迷っていた。それも鬱蒼とした森の中で。
なぜか左薬指に結婚指輪ではなく、ちくわをはめて。
そのちくわは異様に長く、自分の重みでぐにゃりと曲がってしまう。
これについて全く覚えが無い。独り身の自分に対する当てこすりにして嫌がらせとしか考えられない。
さらに、道路どころか獣道すら見つからない。
もちろん竹本さん(未婚)の恋路も発見の機会すら与えられない。
なぜこんな所に置き去りになったのか。なんでみんな俺を置いて結婚していくのか。
竹本さん(彼女いない歴39年)は頭を抱えた。
こうなった経緯を確認し、落ち着こうとした。頭にいもしない妻を思い浮かべながら・・・・・・。
そう、それは竹本さん(来年から四十路)が婚活を行う日のことだった。
あと一ヶ月で40歳! 自分に言い聞かせながら、喜ぶ母の顔を想像した。
竹本さん(タイムリミットは一ヶ月)は覚えていた。実家に帰ったとき、結婚しないのかと訊いてきたときの母の顔を。
あの失望したとも、切望しているともとれない顔を。
消費期限最後の日のヨーグルトを23時に食べるようなその顔を、竹本さん(消費期限もうすぐ)は忘れられなかった。
そして、バスは停車し、嫌な胸の鼓動を抑えながらアスファルトに降り・・・・・・られなかった。
いや、正しくは降りすぎたというべきだろうか。
固体であるはずのアスファルトは竹本さん(一生独り身の運命)の重量を受け止めてはくれなかった。
ぬぷっ。変な感触とともに、身体が道路に沈んでいく。
沈んでいく。どこまでも。埋っていく。どこまでも。落ちていく。どこまでも。
婚活会場へ行くのを拒むかのように、アスファルトは竹本さん(婚活不可能)を取り込んでいった。
身体はもう胸まで地面に埋っている。竹本さん(現在物理的にも独り身)は助けを求めた。
しかし、バスの運転手、それどころか街行く人々さえ、何も見ていないかのように去っていくのだった。
ついに目まで道路に潜った。視界は黒一色で覆われているが、痛みなどは感じない。
手を動かし、足をばたつかせるが、すり抜けるのみ。
竹本さん(結婚も諦めるのか?)は半ば諦めたような気持ちで底なし道路へと、沈んでいく。
———固体って、なんだっけ?
どこか遠くで、バスのエンジン音が聞こえたような気がした。
そして、気がつくと竹本さん(これで一片の望みも消えうせた)はこの深い森の中、
左薬指にちくわをはめて、立っていたのだった。
もういいよ。俺はこのまま人生を終えるんだ。ああ、妻が欲しかったなあ・・・・・・。
もう帰る努力も考えることもやめ、ふて寝でもしようしたときのことだった。
右の茂みが音を立てた。竹本さん(結婚する努力すらやめた)は身構えた。
しかし、時すでに遅し。そう、まさに竹本さん(消費期限切れそう)の年齢のように。
次の瞬間、こめかみに、ひんやりとしたものが当たった。
「動かないで。撃つわよ」