コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: つれづれなるままに、カオス(ミルクソテー風味) ( No.10 )
- 日時: 2015/07/05 10:17
- 名前: コーラマスター ◆4oV.043d76 (ID: OHW7LcLj)
少女はつかつかと草をかきわけて、進んだ。
竹本さん(膝がつらい)もそれに続く。
蛇が飛び出してきた。直後倒れる。もちろん蛇が。ちくわで撃たれたのだ。
死体は灰と水に還元されて、もはや原型をとどめていない。あからさまにオーバーキル。狂おしいほど無慈悲。
竹本さん(腰もつらい)は想う。
もし、もしさっき自分にあの弾丸が当たっていたら。
自分もまた、根源的な灰、そして水に分解されていたのだろうか。
ちくわごときに。ちくわごときに自分の人生が終わらせられてしまうところだったのか。
目の前で弾丸を放った少女の姿が、どうしても恐ろしいものに見えてしまう。
彼女も動揺していたし、自分の意思ではないということはさっき自分に言い聞かせたはずなのに。
どうしても、この少女を疑ってしまう自分が、嫌だった。
何か獣のようなものが飛び掛ってくる。間髪入れず少女はちくわで打ち据える。
いや、『打ち据える』という表現は正しくないかもしれない。
なぜなら凶器であるちくわは、鈍器ではなく鋭器だったのだから。
獣が、真っ二つに切断された。そして、その切り口からは鮮血が————、無かった。ただ、獣が、『解けていく』
さっきの蛇が分解されたように、切り口から身体が根源的なものに還元されていくのだ。
獣が、灰へと変わっていく。そこから、透明な液体がこぼれ出る。
水だ。不自然なほど異物を取り除かれた水がそこにあった。
生命が無慈悲に奪われていく瞬間だった。
たかがちくわによって。たかがちくわによって命が切り裂かれ、蹂躙された。
竹本さん(最近寝不足)は恐怖した。ちくわという存在に。
そしてそれを使う少女に。
あの、華奢な身体さえ、おぞましい怪物に見えてくるのだった。
それから、少女は立ちはだかるものを潰し続けた。鳥でも、虫でも、怪物でも。
しかし、少女はその度に後悔した。撃たなければ、切らなければ良かった、と。
これくらいは、この危険な森を歩くうえで日常茶飯事だ。
少女にとってそれが「普通」の「日常」なのだった。
それでも、あの残酷な散り方をする生命を見ると、少女はどうしても自責の念に苛まれるのだった。
村を救うため、自分を守るためだとわかっていても、これが正しいことなのかわからない。
偽善的だと分かっていても、その思いは溢れ出て止まらなかった。
湿った風が吹いた。木々がざわざわと不気味な音を立てる。
自分を責めているのだろうか。少女は胸が苦しくなった。
心臓にしこりがあって、息をするのも苦痛だ。そのしこりが、罪悪感であることはすぐに分かった。
少女は立ち止まった。耐えられなくなって立ち止まった。
初めての独りでの森だからかもしれない。父がいないからかもしれない。
ただ、森の来たときでこんなに辛いのは初めてだった。
目が熱くなるような感覚。目の底からなにかが込み上げてくるような感覚。
そして、頬をなにかすこし冷たいものが垂れた。
竹本さん(チキン)はようやく間違いに気付いた。
少女の涙を見たことで、やっと。
少女は怪物などではない。命を奪うのを戸惑う、ごく普通の優しい女の子なのだと。
さっきまでこんなに思いつめている少女を見ながら、独り勝手に怯えていた自分が恥ずかしい。
竹本さん(黒歴史がまたひとつふえたよ!)は少女の隣に立ち、空を見上げる。
よく見ると、木々の隙間に青があった。
「ありがとう。そしてごめんね」
「なんで!なんで私に感謝するのよ!だって私は——」
「見知らぬおじさんの命を救ってくれた。そしてこれから村も救う。違うかい?」
少女は何も言わなかった。しかし、涙を流すその目は、まだ納得できていないようだった。
「確かに、そのちくわは多くの命を奪った。それは間違ったことなのかもしれない。
でも、君が見知らぬおじさんを、そして君自身を守ったことは紛れもない事実だ」
「で、でも———」
少女は戸惑う。いいんだ、これは君が責任を感じるべきことじゃない。
竹本さん(中年の風格)は少女の肩に手を置く。
「そしてすまない。目の前で思いつめている女の子がいたというのに、おじさんはただ怯えることしかできなかった。
大人気ないことをしたね。ごめんよ」
少女は泣き出した。大声で、胸に秘めた苦悩を吐き出すように。
一片の晴天を見ながら泣いた。ひとりのおじさんの隣で。
おとうさーんと、声が出た。
おじさんは、私は君のおとうさんじゃないよと笑った。
やがて、少女が立ち上がったときにはその顔に決意が宿っていた。