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Re: 渦の日【6/22更新】 ( No.2 )
日時: 2015/06/28 22:18
名前: りゅく ◆ErktT2YuoM (ID: yJbSBs4g)
参照: トリップを変えました。本人です


Story1 〜君と一緒に見たあの日の空は、青かっただろうか?〜


 実織の手は血と泥でぐちゃぐちゃに汚れていた。しかし、そんな手に持った、見える部分全てが透明に放射状に光を放つ銃を、彼女は静かに見つめていた。
 空はまるで全てが呑み込まれたように雲一つ無く真っ青に晴れ上がり、周りは見渡す限り緑の丘が広がっている。微かな南風が彼女の紙を揺らすと、側にぽつんと咲いていた真っ赤なコスモスの花もゆっくりと肩の力を抜いた。
「もう、終わったんだね」
 この一ヶ月で随分沢山の出会いがあった。それと同時に沢山の別れもあった。全ての出会いが彼女を変え、全ての別れが彼女をより一層強くさせた。
 みんな、ありがとう──。
 こうして、彼女の長い夏が幕を閉じたのだった。





◇◇◇





 目を開けると、広がるのはかなり久しぶりに見る人の多さ。目眩[めまい]がしそうな程、日が照っているが、それでも人達はわらわらと狭苦しい通りを行き交っている。車など一台も通っていないが、道路は使えなくなって乗り捨てた車と、自転車で通る人でいっぱいだ。
 黄緑色[おうりょくしょく]の薄い膜を通り抜けて地面の円から足を運ぶ。今度は鮮明に目の前の風景が確認できた。
「さすがは太平洋古くの港町」
 彼女は輪ゴムでポニーテールに結んだ黒髪を少しなびかせ呟くと、人混みに向かった歩き出した。
 それにしても、随分と賑やかである。もはやテレビ放送や、ラジオが完全に止まった今、全ての情報を掴むことは困難に等しい。そんな中でもこれ程に活気を帯びている商店街などまだ機能しているところ、全国探しても少ないだろう。全世界でこのような場所がどのくらいあるだろうか。(と、言っても情報は全く無いのだが)左からは、威勢のいい「おい、安いよう」の声。右からは、一枚六百円の大セールと書かれた婦人用の洋服を取り合う四十代そこらの主婦達の叫びにも近い声。関西ではまず聞くことのできない声達だろう。何年か前までは、大阪はこれほどの賑わいがあったのに。
 どこから物資を仕入れているのだろうという疑問も残しながら、賑わう商店街を抜けると一瞬だけ人がいない道を通り、ここ最大の闇市広場である、中華街へと入る。荷物が大量に入ったリュックサックが肩に食い込むが、そこは気合でなんとか。東京オリンピック前までは良い賑わいを見せていた中華街も、今は紛れも無い闇市だ。中国人が良いものをかなりの高値で売っている。それでも人が入るのは、高級志望である湘南マダムの特性だろう。
「おねさん、これ買てかない? おねさん美人だから安くしとくよっ」
「ごめんなさい。私は」
 かなりの裏道となったここ中華街は、女性には危険な場所ともされている。
 これ以上いると、どうせこんなのばかりなので彼女が足早に立ち去ろうと思ったその時、声を掛けてきた中国人が肩を掴んできた。