コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【毎日更新】怪盗ユア-満月の夜はBad night- ( No.5 )
日時: 2015/07/13 00:31
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: jBbC/kU.)

【mission1:カイトウさんはお友だち】

チュンチュンチチチと小鳥がさえずる声がする。
まぶしい朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。

紛れもない。朝だ。

「……でね。お母さんそれはもう嬉しくってねえ。……ね、くり須。聞いてる?」

焦げたパンの香ばしい匂いが鼻をつく。
目の前に並べられた色とりどりの朝食が相原くり須(あいはら くりす)の満腹中枢を刺激する。
寝起きでまだ薄ぼんやりとしている頭をどうにか回転させて、彼女はようやっと反応を示した。

「……あー、うん。ごめん。聞いてる」

毎朝同じ話を繰り返し聞かされるこちらの身にもなってくれ、などという思いは胸の内に封じ込め、くり須は頷いた。
先ほどから彼女の母親は絶え間なくくり須に向かって話しかけているのだが、当の本人は重度の寝不足であったため、はたから見ても相槌を打つのも一苦労な様子だった。
というのも昨晩、突如轟いた「男性の悲鳴のような騒音」のせいで熟睡していたものを無理矢理起こされたからである。
あの不審者はちゃんと警察に引き渡されたのだろうか。
ふとそのようなことを思いながら、くり須は食パンを口にくわえた。

「ねぇねぇ」

母親の話はまだ続いていた。

「くり須って、あの有名な超お嬢様学校をトップで入学したでしょ? あれから一年経ったのよねえ。早いわねえ。それで、未だにテストはトップを独走中って話じゃないの。こないだ先生から直々にお電話いただいたわ。とっても優秀な娘さんですね、だって」
「そう」
「お母さん、その時ほど電話が愛しいと思ったことはなかったわ。あ、くり須。紅茶のお代わりいる?」
「うん」

ティーカップに紅茶を注いでから、くり須の母親は、なおも話を続ける。

「そうそう、こないだなんか、近所のおばさんがくり須にお世話になったって言ってたわよ」
「ああ……裏の佐藤さんちの……」
「道子ちゃん! くり須お姉ちゃんに失くし物のお人形を見つけてもらったって。それはもう、喜んでたわよ」
「それは良かった」
「もう、くり須ったらどうしてこんなに良い子なのかしらっ。お母さん、嬉しくって嬉しくって……って、あら、お父さん! ネクタイが斜めだわ! お母さんが治してあげるから、じっとしてなさいよ!」

突然甲高い声を上げたかと思うと、いつの間にリビングにやってきたのか——
母親はスーツ姿で立ちすくむ父親に駆け寄っていった。
父親はスーツの上着を片手に、恥ずかしそうに頭をかいた。

「すまないね、お母さん」
「大丈夫よ、お父さん。……あ、くり須。食べ終わったら制服はそこのカーテンレールにかかってるから。ちゃんと着替えて学校に行くのよ」
「言われなくても分かってるわよ……ごちそうさまー」

新婚ほやほやの夫婦宜しく父親のネクタイを結んでやっている母親を尻目に、くり須はガタンと音を立てて食器を流し台へ運び、その後、手際よく制服に着替えた。
玄関先に放り出していた指定カバンを握りしめて、

「じゃあ、いってくる」
「いってらっしゃい」


バタン——

玄関の扉を閉めて軽くため息をつき、ふと顔を上げたくり須はそこで黙り込んでいた。

「…………」

見慣れない【モノ】が、そこに置いてあったからである。
たぬきの置物。よく居酒屋などの軒先に飾られている、あの狸の焼き物である。
ところがこの狸、一升瓶を片手に握りしめている。

「……随分と飲んだくれな狸ね」

大きさは、丁度くり須の半分の背丈であった。
しばらく黙って観察していたが、しかしくり須にはこの狸の記憶など全く無かった。

「……いや、ウン。昨日までなかった、よね……」


——どうしたというのだ。
父親か母親が連れて帰ってきたとでもいうのか、——いや、ない。
うちの両親に限って、そのような趣味など、持ち合わせているはずがなかった。

相原家の自宅の外見内面は、共にヨーロピアン風な印象を受ける。
どう考えても、純和風の狸の置物は、ミスマッチ以外の何物でもない。

——じゃあ、誰が……。

少しばかり思案して、それからくり須はすぐに思い当っていた。

——この置物、まさか……。

そうしてくり須は、しばらく、その置物をじっとさげすむように見つめていた。
それこそ、穴の開くほど。
そして、

「……早く家を出なかったのは謝るわよ。集合時間に集合場所に行かずに、こうして遅れたのは私よ。それは謝る。ごめん。だけど、狸の置物は、ないと思うんだけど」

突然、狸の置物に話しかけ始めた。

Re: 【毎日更新】怪盗ユア-満月の夜はBad night- ( No.6 )
日時: 2015/07/14 13:38
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: ejGyAO8t)



はたから見れば、「あれ、くり須ちゃん、頭、どうかしちゃったの?!」と、こう思われるかもしれない。
しかし。

くり須の言葉に、刹那、狸の置物が揺れだしたのだ。
ぐらぐらぐら——。
かと思うと、背中のチャックがジーっと開いた。中から現れたのは、くり須と同じ制服に身を包んだ麗しの女子中学生であった。

「くっそおーー。また見破られたかーーっ」

狸の置物から羽化した女子中学生が、腰を叩きながら悔しそうにそうつぶやく。
くり須は目の前の少女をじっとりとした目つきで見て、

「……柚亜ゆあ、……だからなんでいつも朝会う度に私、アンタのコスプレファッションショーなんかにつきあわなくちゃなんないのよ」
「『コスプレファッションショー』とは失礼なっ!」
「じゃあなんなの」
「なんなのかって? ……愚問ぐもんですなあ」

ヒッヒッヒと不吉な笑い声を立てる。
刹那、ズビシッと人差し指を突き出した。

「変装! すなわち怪盗の美! そのような気高きものを、そんじょそこらのお遊びコスプレ何某なにがしなんかと一緒にしてもらっちゃあたまんねえ! 先祖代々の怪盗さんたちが草葉の陰で泣いてるわ!」
「……アンタ、ここ来る前に時代劇か何か見てきたでしょ」
「……あ、バレた? 少しね、すこーしっ」
「また変な言葉覚えてきちゃって……とにかく、私は怪盗云々うんぬん言われたって、知らないからね。私はアンタと違って凡人なんだから」
「……二年連続成績トップのアンタが凡人ってのもおかしいと思うけど……」
「そこ! ボソボソ言わない! 聞こえてるわよ!」

へーい、と気の抜けた柚亜の声に、くり須はふうと軽く息を漏らした。
少しの間息を整えて、それから、急に小さな声で柚亜に話しかける。

「っていうかさ、こんなところで『怪盗』とか、おおっぴらに言っちゃって、大丈夫なの? 仮にも警察に追われてる身なのよ。少しは世間を気にしなさいよ」
「まあ、ユアはまだ怪盗の『見習い』だしー。捕まるのは、パパさんだしー」
「なんちゅー他人事ひとごと……。その『パパさん』もよ。昨日の真夜中にも、聞いたんだからね。アンタのパパさんの叫び声」
「あら」
「あら、じゃないわよ。……これで何回目だと思う? アンタたちが深夜に何やってんのか知らないけどね、こっちはおかげで、ずいぶんな迷惑よ……ふあああ。おかげで寝不足……」
「パパさん、また警察にご厄介になってたんだ」
「今月に入って六回目よ。黒マントに黒いシルクハット被った変質者が騒いでるーって。……アンタたち、本当に『怪盗』としての自覚、あるわけ?」
「問題ナーシ!」
「その態度に問題大アリよ……」

くり須と柚亜がいつも待ち合わせをしている公園前を通り過ぎると、前方にくり須たちが通っている私立聖ルクス学院中学校の校舎が見えてくる。
四階建てで、白塗りの豪華な校舎だ。
校舎の奥には、無駄に広いグラウンドが広がっている。
校舎内は全て暖房冷房完全装備。
快適な学校生活を送るためという理由で、廊下には床暖房まで整備されている。
さすが、お坊ちゃんお嬢様学校である。
ちなみに、校舎中央に設置されている煌びやかな装飾の施されている時計は、現在八時二〇分をさしている。

「おはようございまーす」
「おはようございます」

さて、これまた豪華で大きい校門の前で、風紀委員が『朝のあいさつ運動』たるものを実施していた。
中に先生もまじって、委員会の面々と共にあいさつ運動をしている。
くり須と柚亜は、挨拶もほどほどに、駆け足で校門を通り過ぎて……。

「おはようございまー……あ、くり須さんっ!」

風紀委員の一人に、捕まってしまった。

Re: 【毎日更新】怪盗ユア-満月の夜はBad night- ( No.7 )
日時: 2015/07/15 17:56
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: DBM1eX7d)


「くり須さーん! おーい!」

ご丁寧に名前を叫びながら、ついでに全力で手を振りながら駆け寄ってくる。
——ワカメ頭の、男子生徒。
見慣れた容姿に、くり須は「げっ」と顔を引きらせ、その隣で柚亜は「ごしゅーしょーさまー」と笑顔で呟いた。

「あの子……一年生の……南沢礼人(みなみさわ れいと)じゃ……」
「だねえ」

目の前でぜぇはぁと息を切らし、しかし、くり須が目の前にいると自覚すると、男子生徒はすぐさま、ばばっと姿勢を正し、

「おはようございます、くり須さん。今、ご登校で?」
「見りゃわかるでしょ」
「常に学年トップ成績優秀、それに容姿端麗、性格良し! ……そして、いつ見てもうるわしいっ……。憧れです! くり須さん!」
「それはどうも」
「くり須さんはこの学園の女神さまですっ。いつも応援してますから!」
「そう。……いつも見かけたら声かけてくれるもんね。ありがとう」
「そそそんなっ……! 僕なんかにお礼のお言葉などっ……いや、もったいない……」
「…………」
「ぼ、僕っ、いつまでも応援してますからっ……! だから、その……!」
「ちょいちょい、」
「は、はい……?」

必死になりすぎて思わず目を瞑っていた南沢礼人は、柚亜に声をかけられ、我に返った。

「南沢君、だっけ。くり須なら、とっくに向こう行っちゃったわよ」

校舎の方を見やると、鞄を揺らしながらくり須が今まさに校舎に入っていくところであった。

「あああ……くり須さああん……」
「はいはい。まあ頑張ってね、フウキイインサンっ」

嘆く風紀委員の肩にポンッと手を置くと、柚亜はくり須の後を追って、校舎に入ったのだった。


******

「予告状……?」

さて。二年B組のクラスの一角で、柚亜は思わず声を上げていた。

「そうなの」
「めるちゃん、それ、本当?」

くり須がいぶかしむようにクラスメイトに問う。

「本当よう。確かに私、聞いたんだからあ」

疑われてることに苦痛を感じたのか、長く垂らしている横髪をガジガジと噛む少女。
彼女の名前は久米瑠花(くめ るか)。本名から、『める』という愛称で呼ばれている。
実の父親は病院の医院長をしており、かなりの資産家であるとのこと。

——私以外は大抵の子がお金持ちなんだから……。

悲しいかな現実を突きつけられ、思わずため息をつくくり須であった。

「ごめんごめんって。で? 確かに予告状ってやつが、めるンとこに届いたっての?」

柚亜があっけらかんとした振る舞いで瑠花をしたためる。

「それが……予告状を受け取ったのは私の所じゃなくて、この学校を取り仕切っている、私の大叔父様のところに、なんだけどお」
「そっか。めるちゃんの大叔母様って、この学校の理事長だったわね」
「……オオオバ様……?」

頷くくり須の横で、柚亜はぐるぐると頭の周りをはてなマークが飛び交わせていた。
そんな状態の柚亜に、くり須はため息混じりに説明する。

「『大叔母』よ。めるちゃんのお婆さんの、お婆さんに当たる人物よ」
「ほおーお。さっすがくり須。あったま良いー」
「これくらい常識じゃないの」
「くり須の中の常識でしょおー」
「世間一般のですー!」
「あのお……喋っても、良いかなあ」
「「どうぞどうぞっ!」」

声を揃えて瑠花の言葉を促す柚亜とくり須。
瑠花はこくりと頷くと、おずおずと話を続けた。

「その理事長宛に届いた予告状の内容なんだけど、…………変なのよう」
「変、って、なにが?」
「普通、予告状っていうと、『これから○○を頂きに参上致します』って具合でしょお? でもね、今回のは、……変なの」
「だから、……どう『変』なの……?」

くり須はそう問いかけながらふと隣の柚亜を見て——その怪盗見習いの表情は、いつにもまして思いつめていた。

Re: 【毎日更新】怪盗ユア-満月の夜はBad night- ( No.8 )
日時: 2015/07/18 14:02
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: XetqwM7o)


疑問に思ったくり須であったが、そのことには触れずに、瑠花の話に耳を傾ける。

「『ある生徒の秘密を奪いに参ります』だってえ。……ね、抽象的過ぎない?」
「『秘密』……ねえ」
「そうなのよう……。この予告状の内容だと、『誰』の『何』を奪うのかも分からないし……。こんな予告状を警察に見せたところで、相手にしてもらえないだろうしい……」
「まあ、それもそうね……」

瑠花の言葉に、頷くくり須。
——確かに、警察に届け出たところで、このような内容の予告状では、相手にしてもらえないだろう。
くり須は、本当よう、信じてよう、と訴えかけるような眼差しの瑠花をなだめるように、その肩に手を置いた。

「私、めるちゃんの話、信じるわよ」
「くり須ちゃん……!」

瑠花の目が、うるうると涙ぐむ。

「くり須ちゃんが信じてくれて……私……! ……うっ……」
「いや、そこまで切羽詰まってたのね、めるちゃん……」

よしよしと瑠花の頭を撫でるくり須の横で、柚亜はしばらく顎に手を当てて黙り込んでいた。
その表情は、いつになく真剣であった。
そんな柚亜の状態に気づいたくり須は、ふと柚亜を見て、

「いつにも増して真面目な顔しちゃって、……一体、どうしたのよ」
「いつにも増してって、失礼な! ……ね、める。送ってきた相手、分かる?」

その言葉に、くり須は思わず柚亜を振り返った。

「えっ。柚亜、それってどういう……」

瑠花は「んー、それがねー、」と、若干躊躇いながらも、口を開く。

「それが、聞きなれない相手なの」
「逆に、聞きなれた相手から脅迫状届く方が怖いわよ」
「それもそうだよねえ……」
「で? なんて奴から届いたの、その予告状ってのは」

柚亜の言葉に瑠花はこくりと頷くと、その名前を口にした。

「『怪盗ローズ』だって」

Re: 【更新再開】怪盗ユア-満月の夜はBad night- ( No.9 )
日時: 2015/09/30 12:36
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: IxtPF2j4)

*********

「『怪盗ローズ』だとお?」

柚亜は帰宅するなり、今朝瑠花から聞いた事をそっくりそのまま実の父親に伝えた。何故かくり須を道連れにして。
パパさんはリビングのソファで横になりながらその旨を聞いていたのだが、最後に柚亜が口にした言葉を聞き、今回の予告状の送り主なる人物の名前を反復する形で、ソファから飛び起きていた。

「なんだっ、その、ふざけた名前の奴は」
「それはユアのセリフだっての」
「……ま、まさか。ユア……お前、私に黙って勝手に予告状を送り付けたんじゃあなかろうな。……しかし、ダサいネーミングセンスだ」
「そういうパパさんこそだよっ! 真夜中にこそこそ家を抜け出してなにをやってるのかと思えば、ユアに内緒で新しいターゲットを探してたんでしょっ……!」
「なんだとっ……?! 仮にそうだとして、ユアの通う学校に盗みに入るだなんて卑劣極まりないことをこの私がするとでも言うのか…?!」
「ええ、ありえるねっ!」
「なにをおっ! なんだユア、このパパさんが信じられないとでも言うのか……!」
「あのお〜……」

突如、父娘おやこゲンカが目の前で始まってしまい、気まずそうにおずおずと手を挙げるくり須。
二人の動きがはたと止まる。

「あのー私、ここにいたらお邪魔なようなんで、これで……」
「あははは〜ゴメン、ゴメン。くり須。連れて来てたの忘れてたよ……」

柚亜は頭をかくと、くり須にソファに座るよう促して、自分はそのままキッチンへと姿を消した。
くり須はパパさんに一礼すると、その真正面に腰掛けた。
そして、

「私、今日の予告状の話を聞いて、てっきり柚亜かパパさんが出した予告状だと思ってたんですけど……」
「私は『怪盗ローズ』などというダサいネーミングはつけないっ!」
「そう、同意!」

紅茶の入ったカップをテーブルに置き、くり須の横に腰掛けた柚亜が、目の前の父親に強く同意する。

「あ、ですよねー」

その様子を見て、あははと乾いた笑い声をたてて、くり須は柚亜が用意してくれた紅茶を静かにすすった。 

——結局、似たもの同士なのだ、この二人。 

Re: 【更新再開】怪盗ユア-満月の夜はBad night- ( No.10 )
日時: 2015/10/01 13:14
名前: 明鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: iGp9Ir2k)




「しかし……一体全体、誰が何のためにユアの学校の理事長に予告状を送り付けたのか、だが……」
「まだ一切犯人の目星はついていないし、ましてや何の目的で今回予告状を理事長に送り付けたのかすら、謎なんだよね」

柚亜とパパさんの二人は、うーむ、と腕を組んで、同じように考え込むポーズをとっている。
くり須は「さすが親子ね……」とぼやき、再度紅茶に口をつけた。
と、ふと気になった疑問が頭をよぎる。

「ねえ、柚亜」
「ン? どした、くり須」
「予告状の内容なんだけどね、」
「『ある生徒の秘密を奪いにきます』ってやつ?」
「そう。『とある生徒の秘密』……これって、なんだと思う?」
「……、くり須ちゃんは、どういう、意味だと思うのかな」

テーブル越しに、パパさんが身を乗りだして聞いてくる。

「あの、ですね。少し気になったんですけど。……『ただ』の生徒の『秘密』なんかを奪って、一体誰が得するんだろうなーって思って」
「犯人のメリット、ということだね」
「はい。あ、あくまで私のふとした疑問なんですけど……」

リビングに沈黙が流れる。
しばらくして、

「今はまだ情報が足りないね。……そうだ、ユア」

パパさんの目が、きらりと光った。ように見えた。

「なあに? パパさん」
「ユア、怪盗として、師匠からの指令だ。『怪盗ローズ』の正体と、その目的を暴くこと。……いいね?」
「ええーっ?!」

柚亜がいつにも増して大きな声を上げる。

「パパさん、そりゃ突然過ぎるってば!」
「怪盗ローズはユアの学校を狙っている。とすれば、盗みに入る学校を偵察しているはずだ。当然、学校周辺に怪盗ローズが巣食っているに違いない。となれば、普段から学校に通うユア、お前が学校周辺を調べるのが、一番怪しまれずにすむ」
「まあパパさんが学校周辺を嗅ぎまわってたら、確かに不審者だわね」
「つまり! ここはユア、お前が調べるのが安心安全というわけだ」
「……そうだね」
「無論、パパさんもユアがピンチの時には駆けつける。それまでは怪盗ユア、見習いのお前に、この問題を託す。分かったね」
「…………」

しばらく口を一文字に結んで、眉をしかめてパパさんを見ていた柚亜だったが、ふう、と息を吐くと、

「分かった」

こくりと首を縦に振った。
途端にパパさんの表情がぱっと明るくなり、「良かった、良かった」としきりに頷く。

「ただしユア、無理は禁物だからね」
「どこぞの中年怪盗さんみたく、無茶はしませんよーだ」
「そっ、それは誰のことだ、ユア!」
「さあね〜?」
「はぐらかすな! コラっ、ユア!」

突如言い合いを始めた親子(主に、パパさんの一方的なアレであったが)を尻目に、くり須はカップに口をつけて、アハハと苦笑するのであった。

何故か、胸騒ぎを覚えながらも——。


【mission1、完了。】